国内外の事例・作品を通して考える 環境芸術は環境問題のソリューションとしてどう貢献するのか

公害が社会問題になり、環境への関心が高まった1960年代、欧米では環境芸術が注目されるようになりました。

単に、美術館などの展示空間から野外に作品を持ち出すだけでなく、気候変動や環境保全の問題について主張するものも登場しました。

近年それらは、気候変動問題や環境問題の深刻化を背景に、グリーンアートやサスティナブルアート、コンセプチュアルアートといった芸術作品を通じて環境問題の解決を試みようとする活動へと発展しています。

表現方法は、絵画や彫刻のほか、演劇、パフォーマンスなど多様で、用いられる素材も自然環境のロケーションそのものや、音や光、日常的な物体など多岐にわたります。また、制作過程から人々や社会と関わり、作品を共創する活動も行われています。

例えば、海外では気候変動問題への人々の意識を高めるために、グリーンランドの巨大な氷のブロックを展示した芸術家もいます。

そして、日本でも多くの環境芸術作品が生まれ、トリエンナーレやビエンナーレといった芸術祭を開催している地域もあります。

こうした芸術は、環境問題への人々の関心を高める重要な役割を果たしていると評価されていますが、それはどのようなコンセプトに基づき、どのような手法で実現されているのでしょうか。

本記事では、環境芸術の概要を示した上で作品・事例を紹介しながら、その意義について考えます。

 

環境芸術とは

環境芸術の定義と目的

近年、気候変動問題や環境問題の深刻化を背景にして、アート作品を通じてこれらの問題解決を試みようとする「環境芸術」に関心が集まっています。環境芸術とは、一体どのような芸術なのでしょうか。

環境芸術は多様な分野を横断し、定義にはまだまだ議論の余地が残されています。今回は、環境省の資料をもとに、その定義を探っていきましょう。平成8年版環境白書では、持続可能な社会への転換を目指す文脈の中で、以下のように定義されています。

現代の芸術には、「環境芸術」と呼ばれる新しい試みが現われている。これは絵画や彫刻のほか、音や光、さらには日常的な物体なども素材として、環境の中において芸術を創ろうとする動きと言えよう。

その上で、環境芸術には環境との関係性から、「芸術の環境化」と「環境の芸術化」の2つの方向性があることが示されています。「芸術の環境化」は、以下のように定義されています。

従来美術館に展示し、ホールや劇場で上演されていた芸術を環境の中に解放し、環境の一環として位置付けようとする方向である。(中略)人間と環境の間に安定した関係を生み出すために、その関係や他の条件を配慮して作られた芸術である。

具体的には、彫刻庭園や噴水造形、環境映像、インスタレイション、BGMといった例が挙げられます。なおインスタレイションとは、空間全体を芸術作品とする芸術分野のことで、いわば「体験する芸術」です。

一方、「環境の芸術化」は、以下のように定義されています。

もともと芸術とは無縁である種々の環境を芸術たらしめるものである。

そして、オブジェやパフォーマンスのほか、ランド・アートと呼ばれる自然の素材を用いた芸術作品も「環境の芸術化」の例として挙げられています[*1]。

近年、環境芸術は社会科学、自然科学、歴史学といった学問分野を包括し、エコロジーの文脈で用いられることが多くなっています。多くの環境芸術家が、学際的なアプローチで、気候変動や持続可能性の問題への人々の意識を高めるために活動しているのです[*2]。

では、環境芸術はどのように生まれ、現在のように発展してきたのでしょうか。その歴史を紐解いてみましょう。

 

環境芸術の歴史

私たちの身のまわりの環境、特に自然環境は、初期の人類にとっても重要な関心事であり、魅力的な芸術のモチーフでした。ラスコーの壁画といった旧石器時代の絵画からも、私たちの祖先がもっていた自然環境への関心を読み取ることができます[*3]。

近年の「芸術の環境化」ともいえる試みは、1910年から1920年頃のヨーロッパではじまりました。それまで美術館や劇場といった場所で展示・上映されていた芸術を、屋外などのパブリックなスペースへ開放し、環境の一部としようとする試みです。この試みは、急速な工業化による環境問題や商業化した芸術界への反発を背景に、1960年代にさらに発展します。環境保護への機運の高まりから、多くの環境問題を題材にした作品が世に出るようになり、表現手法も多様化していきました[*4]。

環境芸術の芽吹きを、1960年代にアメリカで生まれたランド・アートにみる研究者もいます。ランド・アート とは、岩、土、木、鉄などの自然の素材を用いて砂漠や平原などに構築される作品のことで、アメリカのロバート・スミッソンは、初期ランド・アートの代表的な芸術家です[*5], (図1)。その後、ランド・アートには社会問題をテーマにした作品も登場し、前述のように、社会科学、自然科学、歴史学といった学問領域をも巻き込んだ学際的なものへと発展していきました[*2]。

図1: ランド・アートの芸術家ロバート・スミッソンの作品「AMARILLO RAMP」
出典: Holt / Smithson Foundation「EARTHWORK」
https://holtsmithsonfoundation.org/artworks-robert-smithson/earthwork

日本においては、1980年代以降、全国で公共の場に野外彫刻が設置されるようになり、パブリックアートが定着し、都市環境の文脈で環境芸術が注目を集めました。1990年代には、公共の場にアート作品をただつくるだけではなく、人々の中で何か「事」を起こすことに重きがおかれました。芸術が人々の間に変化を起こす、いわば触媒のような役割をはたすことが期待されたのです。2000年代以降にはトリエンナーレやビエンナーレといった国際美術展が、2010年代以降には地方型芸術祭が多く開催されるようになりました。

これらの美術展や芸術祭には、地方や地域の風土を活かしたものが多くみられます。これは、海外とは少し異なる、日本独自のスタイルといえます[*6]。芸術の創造はもちろん、地域の魅力の向上、活性化、ひいては持続可能な地域づくりが期待されているのです。

環境芸術は、このようにして今日まで多様に発展してきました。続いて、その意義についてさらに理解を深めるために、作品をカテゴリーに分類して考察していきましょう。

 

環境・社会との関係による分類

環境芸術は、表現手法だけでなく、その様相も多岐にわたります。今回は環境と社会との関係性に注目し、環境芸術の作品を4つのカテゴリーに分類して、そのあり方を視覚化する方法をみていきましょう[*4], (図2)。

図2: 環境芸術作家を分類する4つのカテゴリー(左)と中学校教科書掲載作家の分類(右)
出典: 橋本忠和「環境芸術の定義に関する一考察」環境芸術
https://www.jstage.jst.go.jp/article/iead/10/0/10_KJ00009378739/_pdf/-char/ja, p.59, p.61

図2の分析図は、アメリカのパブリック・アートのパイオニアである、スザンヌ・レイシーによる芸術家の分類を参考に、北海道教育大学教授の橋本忠和氏が設定した環境芸術を分類する視点です。

縦軸に芸術と環境との関係を示した「芸術の環境化」と「環境の芸術化」、横軸に作品がつくられる過程での社会との関わり方「プライベート」と「パブリック」の概念が示されています。その結果、作品は4つのカテゴリーに分類され、その特徴は以下のように定義されています[*4]。

(ア)発見型
環境を芸術化する個人的試みによって、環境の魅力や課題を発見する。

(イ)開放型
芸術を環境の中に開放することによって、芸術の可能性を拡げる。

(ウ)共生型
市民に作品の価値や意図を伝えることで、芸術を社会と共生させる。

(エ)共創型
環境の芸術化を市民と共創することで、アクティビティを向上させる。

分析図では、右にいくほど人々や社会と関わりが深いことを表しています。制作に行政や市民を巻き込んだパブリックな芸術活動は、アクティビティを向上させます。共生・共創型の作品を通じて鑑賞者は、作品のテーマをより「自分ごと」にできます。

近年、日本で増加しているトリエンナーレなどの芸術祭でも、共生・共創型の実践例をみることができます。環境芸術は、気候変動や持続可能性をめぐる問題に対する人々の意識変革にも有効な手段として注目が集まっているのです[*7]。

それでは、多様な環境芸術作品のなかでも、深刻化する環境汚染や気候変動問題や、持続可能性をテーマにした事例をみていくことにしましょう。

 

環境芸術の作家・事例

海外における事例

  • ニルス・ウド

図3: CLEMSON CLAY – NEST
出典: NILS-UDO「ART IN NATURE」
https://www.nils-udo.com/art-in-nature/

ドイツのニルス・ウドは、ランド・アートの芸術家として日本でも人気があります[*8], (図3)。岩手県立美術館で開催されたニルス・ウド展の解説には、彼の作品についてこのような記載があります。

自然そのものをインスピレーションの源とし、自然への深い洞察と共感に基づいて生み出された彼の作品には、光や風、水や花びら、あるいは木の葉に宿る自然の本質的な美しさ、生命の輝きが見事に結晶化されています[*9]。

彼の作品は、自然の美しさや大切さについて、私たちに貴重な気づきを与えてくれるのではないでしょうか。

  • ジョン・サブロー

図4: 汚染された河川から作品が制作されるまで
出典: JOHN SABRAW ART+SCIENCE「RESEARCH」
https://www.johnsabraw.com/research

アメリカのアーティスト、ジョン・サブローは、芸術と科学を融合させた創作活動を行っています [*10], (図4)。彼は、科学者や環境保護活動家と協力し、汚染された川から有毒な酸性鉱山排水を抽出して顔料に加工し、美しい絵画作品を制作しています。彼の作品の収益は川の環境修復にも役立てられ、循環型の芸術としても注目されています[*11]。

  • Climate Crisis Font

図5: Climate crisis font
出典: Helsingin Sanomat「Climate crisis font」
https://kampanjat.hs.fi/climatefont/

「Climate crisis font」は、フィンランドの新聞社ヘルシンギン・サノマットが人々に気候変動の緊急性をわかりやすく伝えるというコンセプトで開発したフォントです[*12], (図5)。1979年から2050年にかけて北極の氷が溶けていく様子を科学的なデータに基づき可視化しています。フォントは、ヘルシンギン・サノマット社のサイトから誰でもダウンロードして使用できます。

  • Ice Watch

図6: Ice Watch
出典: Studio Olafur Eliasson「ice-watch,2014」
https://olafureliasson.net/archive/artwork/WEK109190/ice-watch#slideshow

アイスランドのアーティストであるオラファー・エリアソンと、グリーンランドの地質学者であるミニック・ロージングは、作品「Ice Watch」で世界に衝撃を与えました[*13], (図6)。グリーンランドのフィヨルドから大きな氷のブロックを各国の美術館などに輸送し、作品として展示したのです。氷が解けていく様子を実際に自分の目で見ることで、今まさに起きている気候変動への危機感を感じ取ることができる作品となっています[*14]。

 

日本における事例

  • モエレ沼公園

図7: 造成中のモエレ沼公園
出典: モエレ沼公園「イサム・ノグチ」
https://moerenumapark.jp/isamu_noguchi/

北海道札幌市の「モエレ沼公園」は、世界的な彫刻家イサム・ノグチが1988年にマスタープランを立てました[*15], (図7)。元ゴミ処理場を「全体をひとつの彫刻とみなした公園として再生する」というコンセプトのもと誕生した公園は、日本の先駆的な環境芸術の事例です[*16]。再生計画に参加する際、ノグチは、「人間が傷つけた土地をアートで再生する。それは僕の仕事です」と言ったといいます。

ノグチのこの想いは、彼が亡くなった後も今に引き継がれています[*15]。

公園内にはノグチの意志を反映させ、環境に配慮したさまざまなシステムが稼働しています。

例えば、園内のガラスのピラミッドには、公園内に積もった雪を貯蔵し冷房を行う雪冷房システム(CO2の排出量を年間30.8トン削減)の他、床吸熱や外気冷房のしくみが導入され、冬期には太陽熱を利用した暖房システムが稼働しています[*16]。

また、モエレ沼公園がある伏籠川流域は低平地で、過去に幾度も洪水被害を受けてきました。このため、モエレ沼では治水事業の一環としてしゅんせつ工事が行われ、その結果、モエレ沼は192万tの一時雨水貯留池となり、周辺地区を洪水から守っています。

さらに、モエレ沼は、1989年度から禁猟区域となっており、オオハクチョウ、カモ類などの渡り鳥の飛来が見られ、野鳥観察や魚釣りなどの身近な自然とのふれあいの場所として貴重な存在となっています[*17]。

  • KAMEOKA FLY BAG Project

図8: KAMEOKA FLY BAG Project
出典: かめおか霧の芸術祭実行委員会「KAMEOKA FLY BAG Project」
https://kameoka-kiri.jp/event/kameoka-fly-bag-project/

京都府亀岡市では、2030年までに使い捨てプラスチックごみゼロのまちを目指す「かめおかプラスチックごみゼロ宣言」を行っています。その礎となる消費者の環境意識、ライフスタイルの変革に向けて取り組まれているのが、「KAMEOKA FLY BAG Project」です[*18], (図8)。亀岡市は、パラグライダーでも有名な地域です。役目を終えたパラグライダーの生地に注目し、バッグへとつくり変えるプロジェクトが行われています。制作過程の発信や、ワークショップの実施など幅広い活動を展開しており、言葉ではなく芸術を通じて人々の感性へ働きかけることで、多くの市民の共感を集めています[*7, 18]。

 

環境芸術の意義

このように、環境芸術は、どこか他人ごとになりがちな環境問題を、自分ごととして捉え直すきっかけを私たちに与えてくれます。また、芸術家と人々が共に考えながらアートを創造することは、多様な価値観をもつ市民が、これからの社会をつくっていく合意形成の手段にもなります。

気候変動問題や環境問題が深刻さを増し、人間と自然との関係を見直す必要にせまられるなか、今後、環境芸術に求められる役割はますます大きくなっていくことでしょう。環境芸術の作品にふれ、楽しみながら、地球の未来について考えてみてはいかがでしょうか。

 

\ HATCHメールマガジンのおしらせ /

HATCHでは登録をしていただいた方に、メールマガジンを月一回のペースでお届けしています。

メルマガでは、おすすめ記事の抜粋や、HATCHを運営する自然電力グループの最新のニュース、編集部によるサステナビリティ関連の小話などを発信しています。

登録は以下のリンクから行えます。ぜひご登録ください。

▶︎メルマガ登録

ぜひ自然電力のSNSをフォローお願いします!

Twitter @HATCH_JPN
Facebook @shizenenergy

参照・引用を見る

*1
環境省「平成8年版環境白書 第3節 芸術・文化と環境」
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h08/index.html 

*2
Susanne Darabas「A Short History of Environmental Art」Environment & Society Portal
https://www.environmentandsociety.org/sites/default/files/key_docs/darabas_history_green_art_0.pdf, p.67-68

*3
HISOUR「Environmental art」
https://www.hisour.com/environmental-art-21083/ 

*4
橋本忠和「環境芸術の定義に関する一考察」環境芸術
https://www.jstage.jst.go.jp/article/iead/10/0/10_KJ00009378739/_pdf/-char/ja, p.57, p.58-61

*5
Holt / Smithson Foundation「EARTHWORK」
https://holtsmithsonfoundation.org/artworks-robert-smithson/earthwork

*6
八尾里絵子「『環境芸術』 再考: 山口勝弘とイマジナリウム」
発行元: 甲南女子大学研究紀要, 文学・文化編, 2018-02-28, 54号(以下よりダウンロード)
https://konan-wu.repo.nii.ac.jp/, p.61-62

*7
環境省「環境×芸術×行政が織りなす、『亀岡版』地域循環共生圏形成」
http://chiikijunkan.env.go.jp/shiru/jirei_kameoka/

*8
NILS-UDO「ART IN NATURE」
https://www.nils-udo.com/art-in-nature/

*9
岩手県立美術館「ニルス=ウド展 -自然へ-」
https://www.ima.or.jp/exhibition/temporary/150-temporary20020922.html

*10
JOHN SABRAW ART+SCIENCE「RESEARCH」
https://www.johnsabraw.com/research

*11
JOHN SABRAW ART+SCIENCE「PRESS」
https://www.johnsabraw.com/press-1

*12
Helsingin Sanomat「Climate crisis font」
https://kampanjat.hs.fi/climatefont/

*13
Studio Olafur Eliasson「ice-watch,2014」
https://olafureliasson.net/archive/artwork/WEK109190/ice-watch#slideshow

*14
AFPBB News「ロンドン中心部に解けゆく巨大な氷、アートで気候変動問題を訴え」
https://www.afpbb.com/articles/-/3201633

*15
モエレ沼公園「イサム・ノグチ」
https://moerenumapark.jp/isamu_noguchi/ 

*16
ニッセイ基礎研究所「アートから地球環境を考える. ―――都市再生・地域再生の視点から」
https://www.nli-research.co.jp/files/topics/38803_ext_18_0.pdf?site=nli, p.24-25

*17
モエレ沼公園「環境への取り組み」
https://moerenumapark.jp/environment/

*18
かめおか霧の芸術祭実行委員会「KAMEOKA FLY BAG Project」
https://kameoka-kiri.jp/event/kameoka-fly-bag-project/

メルマガ登録