「今の仕事は、自分が人生をかけてやりたい仕事なのか?」誰もが一度は、このような問いにぶつかるかと思います。挑戦したいことがあったとしても、安定した企業からスタートアップへと踏み出すことは勇気がいることです。
今回は、マッキンゼーを辞めて、グリーンスタートアップへと身を投じた、自然電力株式会社 取締役 磯野久美子氏と、Sanu Inc. CEO福島弦氏の対談を紹介します。彼らを転職や起業へと背中を押したものは何だったのか。そして、転身を経て築き上げた、働きがいのある環境や想いを共有できる仲間、スタートアップ経営の赤裸々な葛藤について語ります。
自然電力株式会社 取締役・磯野 久美子
大学卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーにて複数業界の中期経営計画、マーケティング戦略策定等のプロジェクトに従事。2014年自然電力株式会社に参画後、O&M事業を牽引し、2015年4月にjuwi自然電力オペレーション株式会社代表取締役に就任。その後、自然電力グループ全体のコーポレートサービス部門責任者を歴任。2020年9月より現職。
Sanu Inc. CEO・福島 弦
北海道岩見市の雪山で生まれ育つ。大学卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、タグビーワールド杯2019日本大会の組織委員会に所属し、大会の広報マーケティングや開催都市のプロモーションなどに従事。その後、自然をテーマに事業をしたいという想いから、2019年に本間貴裕とSANUを創業。自然の中にもうひとつの家を持つセカンドホーム・サブスクリプションサービスを展開している。
【目次】
・なぜ、マッキンゼーを辞めて起業を?
・会社の雰囲気やメンバーについて
・一緒に働きたい人物像は?
・仕事と家庭の両立について
・スタートアップで働くことの意義、喜び、難しさ
なぜ、マッキンゼーを辞めて起業を?
磯野:私は、起業というよりはスタートアップの自然電力に転職しました。入社した当時、社員は20人くらい。学生時代から環境に携わる仕事がしたいと思っていましたし、マッキンゼー時代のいろいろな方とのネットワークや留学経験などを通じて、改めて再生可能エネルギーは、とても大きなテーマだと自分の中で確信しました。
そのテーマに本気で取り組むには、アドバイザーやコンサルタントの立場ではなく、その潮流の中に身を置きたかったというのが転職した一番の理由です。転職して初めて、「私、自分で判子押すの初めてだな」と気づきました(笑)。
マッキンゼーでは、事業に必要なことをまるごと経験させていただき、しかもそれがとても楽しかったので、感謝しかありません。
福島さん:僕は、いつかは会社を起業したいというのが、幼少期からの思いとしてずっとありました。マッキンゼーは、何か事を成すビジョンを持っている人が多く、そういう先輩方が、ビジョンに向かって会社や組織をつくっていく姿を見ていて刺激を受けたことも大きいですね。
グリーンスタートアップを選んだ理由は、北海道で生まれ、幼少時に自然の中で育った経験が大きく影響していると思います。
磯野さんにうかがいたいのですが、スタートアップである自然電力に転職するのに、不安はなかったですか?
磯野:ほとんどなかったですね。当時20代後半でしたが、「ダメだったらダメだったでなんとかなる」って思っていました。前職の上司も「上手くいかなかったら戻って来ればいい」と言ってくださって。
今は、当時よりは、スタートアップに行く人や起業する人は増えている気がしますけどね。
福島さん:そうですね。今は、マッキンゼーの次のキャリアはスタートアップが王道みたいになっていますが、磯野さんが転職されたタイミングは今よりもちょっと前のフェーズ。GoogleやApple、大手外資メーカー、投資銀行などに行く方が多かった中で、初志貫徹で自然電力に行くのはすごいと思いました。
磯野:ありがとうございます。自然電力に決めたもうひとつの理由は、環境や自然をテーマに働くのであれば、コンベンショナルなエネルギーの部署に異動がある環境は違和感があると思ったからです。会社がやっている事業を、丸ごと信じられる職場に行きたいというのは決めていました。
株式会社SanuCEO 福島弦氏および、Founder, Brand Director 本間貴裕氏
会社の雰囲気やメンバーについて
福島さん:僕らは、1年前は15人ぐらい、今は30人弱ぐらいの小さな組織で、ワンチームで日々頑張っています。年齢的には、30代半ばから40代半ばまでが中心、スタートアップながら子育て中のメンバーが半数を占めているのは特徴かもしれません。商社やメーカー、コンサル、金融などの業界で、自分の足でプロとしてやってきたメンバーが、Live with nature.というビジョンの下に集まっている、そんなチームです。
ですから、一人ひとりが独立したプロフェッショナルとして動いています。僕自身もトップダウン型のマネジメントではなく、「こんなことやったら面白いんじゃない?」とか、「ここの土地にSANUがあったら素敵だよね」とか、そういうワクワクを共有しています。それらを共有できるメンバーが集まっているのがひとつの特徴ですね。
それから、とても優秀な女性陣に支えられています。ライフスタイルやサステナビリティをテーマにした場合、30代男性だけで考えたセカンドホームの提案なんて、極めて限られたものになる。建築を考える上で、例えば、働くお母さんの視点というのが生きるんです。ただ、まだ日本人しかいないので、グローバルにライフスタイルを提案していくためには、より多様なチームを作っていくことが必須条件。今後そういう視点も入れていきたいと思っています。
磯野:自然電力グループの特徴のひとつは多様性です。例えば国籍。創業2年目の2013年からドイツの会社とパートナーシップを組んでいるということもあって、規模が小さかった時から国籍が異なるメンバーと一緒に働くのが当たり前だったというのはラッキーでしたね。年代も、エンジニアの方々は60代70代の方もいらっしゃるし、20代から70代の男女が働いています。それから職種。パーパスに向かって必要なことをやるとなると、自ずとたくさんの機能が必要になります。そういう意味でも、働いている人のバックグラウンドはかなり多様だと思います。
そうした中で、会社がパーパスを重要視しているのもあって、個人としてあなたがやりたいこと、自分自身のパーパスはなんですかと問い掛けるカルチャーかなと。また多様な人たちと働く上で、お互いの理解もすごく大事。ですので、自分が大事にしているものや、将来成し遂げたいことなど、自分の価値観についてよく語り合いますね。これを、バリューシェアリングセッションと言っています。
先ほど話したような年配の方で、今まで日本語だけで生きてきたという方が、片言の英語でやりたいことをプレゼンされて、それをみんなで「いいね」っていう、そんな雰囲気もあります。私はその社風がすごく好きですね。
アウトドア好きなメンバーが多いので、みんなやたらとパタゴニアの服を着ているとか、それも特徴と言えるかもしれません (笑)。
自然電力グループの社員が世界中から集合するAll meetingでの一幕
自然電力の詳しい採用情報はこちら
一緒に働きたい人物像は?
福島さん:素直な人、粘り強い人、リーダーシップがある人の3つです。
僕らは、Live with nature.をビジョンに掲げています。50年後、100年後に、自然と対話しながら生活していく方法は、その時のその人のライフスタイルやバックグラウンドで正解は変わると考えています。置かれた状況の中で、いろいろと吸収しながら発信できる素直さを持つ。そんな人をすごく重要視しています。
2つ目は粘り強い人。僕らはスタートアップなので、簡単に事業は成長せず、日々、色んな難しさがあります。それをとにかく粘り強くやっていける人ですね。
3つ目のリーダーシップというのは、どんな仕事に関しても、自分の頭で考えて行動できること。アクションを取るという意味でのリーダーシップを持っている人です。
磯野:1つ目は、私はやっぱりポジティブな人ですね。うまくいかないことは山ほどあるし、できない理由なんていくらでもありますが、常にポジティブさを忘れないで前に進める人というのはとても大事だと思います。
2つ目は、コラボレーションできる人。私たちが取り組もうとしている課題はすごく大きくて、一人でできることは限られています。自然電力は、全社の事業のベースとなるすごい技術が一つあってそれを活用して事業展開するというより、ニーズとソリューションの組み合わせによって事業が成り立っています。いろんなものをつなげて実装に持ち込めるという意味で、コラボレーションできる人というのはマストだと思います。
自然電力グループのAll meetingの様子。フラットでカジュアルな社風が現れている
仕事と家庭の両立について
福島さん:制度で補充できる部分とそうじゃない部分があるので、日々改善しながら体制を考えている途中ですね。小さい子どもを育てるお父さんお母さんが、働く場所を選べないという時代はあまりにも遅れていると思うんです。社員同士がリアルに会う機会を一定の頻度で設けながら、基本的には、家で仕事をして家庭とのバランスを取るという働き方を、制度設計上は設けています。
一方で、少しハードに働かなきゃいけない時期はどうコントロールしていくか、という課題も。今の段階でできることとして、2カ月に1回、社員全員と僕で1on1をしています。テーマを設けないカジュアルなもので、言葉の端々に何か無理や歪みが聞こえてこないかっていうのを、僕自身のすごく重要な仕事のひとつと捉えてやっています。
マッキンゼーが、クライアントのために仕事をすることと、社内の人の成長のために貢献すること、この2つで会社は成り立っているという哲学を持つ会社だったので、そこから学んだものはかなり大きいですね。
磯野:組織が大きくなるにつれて、平均残業時間は少しづつ減っている実感はあります。社員が30人くらいだった時は、22時に出張から帰ってそのままオフィスに戻る社員もいましたが。男性の代表の1人が、子どもが生まれた時に2カ月間育休を取ったことをきっかけに、今は多くの社員が当たり前に育休をとる文化になりつつあります。そういう意味で、働く環境は以前より改善していると思います。
それに、自然電力は元々夜にミーティングをやることが少なく、どちらかというと朝早い時間帯で実施されることが多いですね。今でこそ社会全体でオンラインがメインの働き方が普及していますが、コロナ前から、ほとんどの時間を現場で過ごしているため、オフィスに全く来ない社員もいました。そうしたこともあってオンライン化はスムーズに進み、現在はフルフレックスワークプレイスで動いています。
とはいえ、子育てとの両立はすごく難しいと思っています。海外の方が両立はしやすいというイメージがあるので、日本の働くマインドよりは、例えばヨーロッパなどの考え方を取り入れた方がいいだろうと思っていて。個人的に理想とするところは、男性か女性か、子育て世代かどうかは関係なく、いわゆる子育て世代が、仕事と両立できるようなライフスタイルを確立できていることにより、自然とすべてのメンバーが、日々を豊かに過ごせる状況を作ることだと思います。
スタートアップで働くことの意義、喜び、難しさ
福島さん:意義、喜びは、自分の人生や自分の会社を、自分自身で選べるというところが大きいです。30人くらいの規模の会社だと、自分が今日、何を考えて何をアクションするかというのが、会社の明日を決める。それを実感できることを楽しいと思う人、ワクワクできる人にとっては、これ以上の喜びはないのではないでしょうか。
僕自身、経営者としての一番喜びは、全体ミーティングで全員そろった時に、「この人たちはみんなSANUのために働いているの?最高じゃん」と思って、不思議な感じがするんです。そうやって、いろんな人が集まっていろんな人生をシェアしながら、チームができていくこと自体が、極めて強い喜びだなと思っています。
磯野:私が自然電力に入ったモチベーションのひとつが、環境サステナビリティの分野を盛り上げたいという想いでした。2014年当時、IT系のベンチャーは成功事例がたくさんあったんですが、私が興味を持っていたのが環境サステナビリティだったので。
私が自然電力に入り、その成長のために頑張って、自然電力自体が尊敬される企業になれば、同じ分野の企業が日本にもどんどん増えていく。それがひとつ、目標とするところでした。会社の方向性を決めることにダイレクトに携われることももちろんですが、自分の会社界隈を盛り上げるというのも、スタートアップをやる意義であり喜びだと思います。
福島さん:次はスタートアップで働く難しさについて。とにかくチャレンジしかないという感じで、チャレンジも楽しみながら進んでいく、それ以上でもそれ以下でもないです。自然をテーマにしたスタートアップでいうと、まだまだ僕らも、ベンチャーキャピタルや金融の世界の方から投資していただきながらSANU独自のサーキュラー建築を展開をしています。
サステナブルだから投資をしてもらえるといった甘いことはなく、それが、僕らが日々直面している現実です。ビジネスを生業にする以上、お客さまに求められるものであり収益的であることが前提で、プラスしてサステナビリティという加点ポイントが付く、ということ。
日本とグローバルを比べた時に大きな差があり、そこにもやはり現実があるというのも日々感じています。だからと言ってやらないわけではなく、そんな中でも意義があることだと思ってやっているというのが、スタートアップの難しさかなと思います。
磯野:難しさは、本当にいろいろありますね。ひとつ言えるのは、他の人も経験している難しい場面というのは、やっぱり自分も通らなきゃいけない。コピペのソリューションはないので、自分で学びながら、やっぱり自分たちなりの回答をつくらなければならないといった難しさがあると思います。でもこれは同時に、意義や喜びでもあると思います。
SANU 2nd Home – 河口湖 1st CABIN 内観
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今回は、終始和やかな雰囲気の中、お二人がキャリアチェンジした経緯と想いを伺いました。グリーンスタートアップの経営という難しさに直面しながらも、挑戦しているからこそ感じられる意義や喜びに、勇気づけられた参加者も多かったのではないかと思います。
今後も、サステナビリティをテーマにしたベンチャー企業に興味がある方々に向けて、随時イベントを開催していく予定ですので、ぜひご参加ください。