気候変動対策を議論するCOP27で決まったこととは? 議論の内容と今後の展望を紹介

2022年11月にエジプトのシャルム・エル・シェイクにおいて、COP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)が開催され、多くの国・地域の代表が、世界の気候変動問題を団結して解決するために様々な議論を行いました[*1]。

具体的に、今回開かれたCOP27では、気候変動対策としてどのような議論が行われたのでしょうか。これまでの経緯と併せて詳しくご説明します。

 

COPとは

COPとはConference of the Partiesの略で、日本語では「締約国会議(条約を結んだ国々による会議)」と訳されます[*2]。

現在、様々な締約国会議が存在しますが、その中でも特によく報道されているのが、気候変動に関するCOPです。気候変動に関するCOPは、1992年に採択され、1994年に発効した「国連気候変動枠組条約」に始まり、1995年にドイツのベルリンにて開催されたCOP1から今回のCOP27に至るまで、計27回開催されています[*2, *3]。

気候変動に関するCOPには、同条約に賛同した国々が参加しています。各国はCOPを通じて気候変動問題というグローバルな問題に協力して取り組んでいますが、具体的なルールとなると、各国の事情が大きく異なるため、主張や方法論も異なってきます[*2]。

そこで、COPの交渉会議では、利害の合った国が集まって交渉グループを作り、議論を進めています[*2], (図1)。

図1: 気候変動に関するCOPにおける様々なグループ
出典: 資源エネルギー庁「あらためて振り返る、『COP26』(前編)~『COP』ってそもそもどんな会議?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/cop26_01.html

温室効果ガス削減政策の実施義務などが課されている附属書締約国の多くは、日本を含む先進国です。OECD(経済協力開発機構)に加盟する国の多くも附属書締約国であり、チェコやエストニア、ロシアなどの市場経済移行国も含まれています。

一方で、発展途上国の多くは非附属書締約国と呼ばれています。イラン、クウェートなどのOPEC(石油輸出国機構)加盟国や、南アフリカや中国、インドなどの新興国により構成されるBASICも非附属書締約国です。

COP21で採択された「パリ協定」

 
過去のCOPでは様々なルールや枠組みが議論・採択されてきました。その中でも重要なものとして、2015年開催のCOP21において合意された、2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組み「パリ協定」があります[*4]。

1997年に定められた「京都議定書」の後継となるパリ協定では、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度より十分低く保ち、1.5度に抑える努力をする」という世界共通の長期目標が掲げられています。

この長期目標を達成するために、パリ協定は、途上国を含む全ての参加国と地域に対して、2020年以降の「温室効果ガス削減・抑制目標」を定めることを求めています。

パリ協定を受けて、日本は2030年までに温室効果ガスの排出量を2013年度の水準から26%削減することを中間目標として定めています。また、EUは2030年までに1990年比40%削減、韓国は2030年までに対策を講じなかった場合の2030年比で37%削減を目指すなど、各国様々な目標を設定しています。

COP26で採択された「グラスゴー気候合意」

 
パリ協定で掲げた長期目標を達成するためには、2075年頃までに脱炭素化する必要があります。また、努力目標である1.5度に抑えるためには、2050年までに脱炭素化しなければならないことが分かっています[*5]。

しかしながら、パリ協定では1.5度達成に必要な温室効果ガス削減量が各国に割り当てられているわけではないため、各国の削減目標を足し合わせても目標達成に必要な削減量には届きません。

そこで、2021年に開かれたCOP26では、これまで努力目標に過ぎなかった1.5度を共通目標として強調した「グラスゴー気候合意」が採択されました。「グラスゴー気候合意」では、各国の削減目標を2022年末までに見直したり、強化したりすることが決まりました[*6]。

 

パリ協定からCOP27までの経緯

「グラスゴー気候合意」によって世界全体の温室効果ガス削減に向けた動きは加速しましたが、COP26以降に新たな削減目標を提出した国は20余りにとどまったほか、2030年の温室効果ガス排出量は、2010年と比べて10.6%増える見込みであることも明らかになっています。そのため、COP27では、さらなる対策の強化に向けた議論が求められていました[*6, *7], (図2)。

図2: COP27の位置づけ
出典: 公益財団法人 地球環境戦略研究機関「COP27の結果:総論」
https://www.iges.or.jp/sites/default/files/inline-files/Tamura_1.pdf, p.4

このような経緯を踏まえて、COP27では、締約国の気候変動対策の強化を求める「シャルム・エル・シェイク実施計画」、2030年までの温室効果ガス削減目標の引き上げを目指す「緩和作業計画」が採択されました[*8]。

また、国連の「気候変動に関する政府間パネル」による報告書は、世界で30億人以上の人々が気候変動に対応できない状況で暮らしていると指摘しています。気候変動による被害を最小限にする取り組みを進めるのに必要な資金確保に向けた議論なども交わされました[*6]。

「シャルム・エル・シェイク実施計画」の概要

 
「シャルム・エル・シェイク実施計画」は、COP26全体決定である「グラスゴー気候合意」を踏襲しつつ、緩和や適応、ロス&ダメージ、気候資金などの分野で締約国の対策強化を求める文書となっています[*9], (図3)。

図3: 各議題の交渉結果概要
出典: 環境省「国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)結果概要」
https://www.env.go.jp/council/content/i_05/000089213.pdf, p.3

例えば、気候変動の緩和に向けては、パリ協定の1.5度目標に基づく取り組みを実施することの重要性を確認し、NDC(温室効果ガス排出削減目標)を設定していない締約国に対して、2023年までに目標を再検討・強化することを求めています[*8, *9]。

また、気候資金については、パリ協定2条1(c)(世界全体の資金の流れを気候変動の取り組みに整合させることを目的とした規定)に関する理解を促進するための「シャルム・エル・シェイク対話」の開始を決定しました。さらに、先進国全体による適応のための資金の倍増に関する報告書を作成することも決定しました。

このように、COP27では様々な議題が検討されましたが、緩和やパリ協定6条(排出量削減に向けた国際炭素市場のメカニズム等に関する規定)に関して、具体的にどのようなことが決まったのでしょうか。

「緩和作業計画」の策定

  
COP27は、全体決定「シャルム・エル・シェイク実施計画」に加え、2030年までの緩和の

野心と実施を向上するための「緩和作業計画」を策定しました[*8]。

先述したように、グラスゴー気候合意によって削減目標を引き上げた国々は20余りだけであるため、1.5度目標にはまだ足りません[*6]。

計画期間を2026年までとして削減状況の進捗を毎年確認すること、全ての温室効果ガス排出分野や分野横断的事項(後述するパリ条約6条市場メカニズムの活用含む)についても進捗確認の対象とすることが規定されました。また、最低年2回のワークショップの開催および報告、緩和作業計画の成果を毎年閣僚級ラウンドテーブルで議論することなどが決定しました[*8]。

パリ協定6条が規定する取り組み実施に向けた各種決定

  
パリ協定では、全ての国が自国の温室効果ガスの排出削減目標を定めることが求められています。排出削減目標の達成に向けては、炭素クレジットの活用などパリ協定6条の活用が期待されています[*10]。

パリ協定6条は3つの取り組みを規定しており、国際的に排出削減量をクレジットとして移転できる「市場アプローチ」と、緩和や適応、資金、キャパビル(能力構築)など炭素市場を介さない「非市場アプローチ」に大別されます[*11], (図4)。

図4: パリ協定6条の全体像
出典: 公益財団法人 地球環境戦略研究機関「COP27におけるパリ協定6条の結果とカーボンクレジットの動向」
https://www.iges.or.jp/sites/default/files/inline-files/Takahashi.pdf, p.3

市場アプローチには、現在日本が実施している「JCM(二国間クレジット制度)」や、先進国の政府や企業が途上国で温室効果ガス削減プロジェクトを行い、削減分を自国に持ち帰る仕組み「CDM(クリーン開発メカニズム)」などがあります[*11, *12]。

COP26では、パリ協定6条の実施指針については決定していましたが、クレジットの報告様式やガイドラインなど、実施に向けた詳細については確定していませんでした。そこでCOP27では新たに、クレジットの報告様式や審査のガイドライン、記録・追跡するシステムの仕様などが決定しました[*11], (図5)。

図5: COP27におけるパリ協定6条決定事項
出典: 公益財団法人 地球環境戦略研究機関「COP27におけるパリ協定6条の結果とカーボンクレジットの動向」
https://www.iges.or.jp/sites/default/files/inline-files/Takahashi.pdf, p.6

また、非市場アプローチについても、COP26での議論を踏まえ、非市場アプローチを登録するウェブ・プラットフォームの設置と運用、今後の作業計画について決定しました[*8]。

「サンティアゴ・ネットワーク」の完全運用化に向けた各種決定

 
現在、気候変動の影響に備える適応の取り組みは各国で進んでいますが、備えていても防ぐことのできない「ロス&ダメージ(損失と被害)」にも対応が求められます[*13]。

特にその被害は、アフリカや中央アジアなど低開発途上国で大きく、国際社会による支援が必要です。

COP25では、新たな専門家グループや、技術支援を加速するための「サンティアゴ・ネットワーク」の設置が決定し[*14]、COP27では、完全実用化に向けて、同ネットワークの構造、諮問委員会・事務局の責任と役割等の制度的取り決めについて決定しました[*8]。

グローバル・ストックテイクの実施

 
グローバル・ストックテイク(GST)とは、パリ協定14条に定められた、パリ協定の目標達成に向けた世界全体の進捗を5年ごとに評価する仕組みのことです。評価結果は各国の行動および支援を更新・強化するための情報や国際協力を促進するための情報として活用されます[*15]。

GSTは「情報収集・準備」「技術的評価」「成果物の検討」の3つのフェーズから構成され、フェーズ2の「技術的評価」では計3回の技術的対話が実施されます。第1回技術的対話は2022年6月に実施され、今回のCOP27では第2回技術的対話が実施されました。

第2回技術的対話において日本は、緩和については地域脱炭素に向けた取り組み、適応については地域・自治体レベルでの取り組みの重要性を中心に発表等を実施しました[*8]。

また、COP27では、COP28に実施されるGSTの成果物の検討のため、2023年4月に準備のためのコンサルテーション、10月に検討要素の整理を行うためのワークショップの開催が決定されました。

気候資金に関する交渉

 
気候資金とは、途上国の気候変動対策実施を可能にするため、また、既に広がっている気候変動の影響に対して適応していくために援助される、国際開発金融機関や先進国からの資金や民間からの融資などのことです[*16, *17]。

パリ協定の9条1項には先進国から途上国への資金供与の義務が明記されており、2015~2016年の間に、COPに対して官民合わせて年間6,800億ドルの拠出・投融資がなされるなど、既に多くの気候資金が支援されています[*16]。

COP27においては、気候資金援助のさらなる活発化に向けて、長期気候資金、2025年以降の新規気候資金の数値目標、ロス&ダメージの資金面での措置に関する事項など幅広い議題についての交渉が行われました[*8]。

例えば、途上国側の強い要求を受けて新規議題となったロス&ダメージの資金面での措置に関しては、特に脆弱な国に対する資金援助の一環として、ロス&ダメージ基金(仮称)を設置することを決定しました。

また、長期気候資金に関しては、先進国の年間1,000億ドル資金目標の未達成に対して、途上国から進捗の報告を求める声が強くあったため、隔年で進捗報告書を作成することとなりました。

さらに、グラスゴー気候合意で決定された先進国全体での2025年までの適応資金の倍増についても、途上国の要求により報告書を作成することとなるなど、COP27では気候資金に関わる様々な進展が見られました。

 

COP28以降に向けた今後の展望

以上のように、様々な議論が行われ、一定の進展を見せたCOP27ですが、一方で課題も山積しています。例えば、今回策定された「緩和作業計画」では、経済的なライバルである中国やインドの削減対策強化を促進したい先進国と、先進国の動向を強く警戒する新興国との対立が浮き彫りとなりました[*13]。

実際、「緩和作業計画」には各国に新しい目標を課すものではないとただし書きがあり、

排出削減目標・行動の強化を実際に促す仕組みとしては十分に機能しない可能性のあるものとなりました[*7]。

今後は各国国内の取り組みに加え、COP交渉外での取り組みを強化していくことが求められています。また、ロス&ダメージ基金など気候基金の運用についても拠出側である先進国の納得・理解が得られるような内容に整備していくことで、世界全体の気候変動対策がさらに前進するでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
公益財団法人 地球環境戦略研究機関「UNFCCC COP27 特集」
https://www.iges.or.jp/jp/projects/cop27

*2
資源エネルギー庁「あらためて振り返る、『COP26』(前編)~『COP』ってそもそもどんな会議?」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/cop26_01.html

*3
国立環境研究所 地球環境研究センター「気候変動枠組条約第1回締約国会議(COP1)報告」
https://www.cger.nies.go.jp/publications/news/series/cop/cop1.pdf, p.1

*4
資源エネルギー庁「今さら聞けない『パリ協定』 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/ondankashoene/pariskyotei.html

*5
公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン「パリ協定とは?脱炭素社会へ向けた世界の取り組み」
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/4348.html

*6
NHK「温暖化・気候変動対策COP27とは? エネルギー危機でどうなる?」
https://www3.nhk.or.jp/news/special/energy/focus/focus_005.html

*7
公益財団法人 地球環境戦略研究機関「COP27の結果:総論」
https://www.iges.or.jp/sites/default/files/inline-files/Tamura_1.pdf, p.4, p.8, p.10

*8
外務省「国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27) 結果概要」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1_001420.html

*9
環境省「国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)結果概要」
https://www.env.go.jp/council/content/i_05/000089213.pdf, p.1, p.3

*10
髙橋 健太郎「パリ協定6条と事業活動における影響」
https://www.iges.or.jp/jp/publication_documents/pub/nonpeer/jp/12518/2205%E3%83%91%E3%83%AA%E5%8D%94%E5%AE%9A6%E6%9D%A1%E2%91%A1+%281%29.pdf, p.28

*11
公益財団法人 地球環境戦略研究機関「COP27におけるパリ協定6条の結果とカーボンクレジットの動向」
https://www.iges.or.jp/sites/default/files/inline-files/Takahashi.pdf, p.3, p.4, p.6

*12
特定非営利活動法人 「環境・持続可能」研究センター「クリーン開発メカニズム(CDM)/国際協力」
http://www.jacses.org/climate/cdm.html

*13
公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン「気候変動に関する国連COP27会議結果報告」
https://www.wwf.or.jp/activities/activity/5190.html

*14
外務省 国際協力局 気候変動課「気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)」
https://www.iges.or.jp/sites/default/files/inline-files/COP25%E5%A0%B1%E5%91%8A_%E5%A4%96%E5%8B%99%E7%9C%81_200117.pdf, p.3

*15
公益財団法人 地球環境戦略研究機関「パリ協定・第1回グローバル・ストックテイク(GST):COP27における第2回技術的対話と交渉会合の結果」
https://www.iges.or.jp/jp/publication_documents/pub/briefing/jp/12650/%E3%83%91%E3%83%AA%E5%8D%94%E5%AE%9A%E3%83%BB%E7%AC%AC1%E5%9B%9E%E3%82%B0%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%86%E3%82%A4%E3%82%AF_COP27%E3%81%AE%E7%B5%90%E6%9E%9C_f.pdf, p.2

*16
株式会社日本ビジネス出版「2020年の国際社会の動向を予測する 『気候資金』を巡る最近の動きとは」
https://www.kankyo-business.jp/column/024994.php

*17
認定特定非営利活動法人 FoE Japan「気候資金〜Climate Justice のための資金メカニズム」
https://www.foejapan.org/climate/finance/pdf/190722.pdf, p.5, p.13

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