COP28 自然電力グループ代表の現地レポートと、世界の脱炭素をめぐる3つの要点

第28回国連気候変動枠組条約の締約国会議(COP28)がアラブ首長国連邦のドバイで2023年11月30日から12月13日に開催されました。今回のCOP28では、再生可能エネルギー(以下、再エネ)導入の加速や化石燃料からの脱却などのパリ協定実現に向けた進捗管理と、グローバルノース対サウス※1の被害格差を資金的に支援する「損失と損害」基金の進展が主な論点になりました。

自然電力グループの創業者の一人であり、代表の長谷川雅也は、JCLP(日本気候リーダーズ・パートナーシップ)視察団の一員として、また世界経済フォーラムがひらくラウンドテーブルの出席者として参加しました。現地の様子とともに、会場でよく耳にした世界の脱炭素をめぐる3つの要点についてお話しします。

注1: 資本主義やグローバリゼーションの文脈を考慮したうえで、世界の社会経済的な格差を表す言葉。経済的に豊かな国が北半球に多く、その逆に南半球に発展途上の国が多いことを端的に表す。

COP28 会場での長谷川雅也(左)
アフリカで主に森林を対象とした環境保全事業を通じて地域の課題解決を行う3T社のSolomon氏(中)とIan氏(右)


――まず、参加者としてCOP28の会場は、どのような雰囲気なのか教えていただけますか?

長谷川:ひとつの街が大きな催事をホストするという状況は日常とは違っていて、一見するとオリンピックに似ています。しかしCOPは危機感があるために集まる場なので、みなさん意思を持って参加している様子で、訴えかけに来ているように感じました。

会期中のCOP28会場内広場

会期中に一つの出来事がありました。当初合意文書の素案に入っていた「化石燃料の段階的廃止」の文言が、石油輸出国の影響力によって一時削除されました。これに対して非政府系のアクターの方々が、即座に会場やドバイ市内にいる人々に対して署名活動を展開していました。主に「廃止」の文言を復活させることを目的にした内容で、私がいたホテルにも署名が回り、サインをしました。この署名活動は会場の中だけではなく、ドバイの街の中でも展開されていました。スーザン・サランドンやジェーン・フォンダといった著名な俳優から、哲学者、科学者、企業家、政治史的指導者、アーティスト、若者など幅広い属性の人々が署名し、結果として2,000名以上の署名が集まったとのことです。これに対し、翌日以降に行われた本会議の場で、議長が署名について言及するという状況が生まれました。こうしたパッションと、今すぐアクションしなければという危機感が、街に溢れている雰囲気です。

COP28議長とジョン・ケリー氏

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――JCLPの視察団としては、どのような場に参加したのでしょうか?

長谷川:予定していただいた専門家会合に、一日4件ほど出席しました。JCLPは持続可能な脱炭素社会を目指す企業が加盟するグループなので、主に銀行や企業、法律や経済政策に関わる政府系機関に属する方々からのお話を聞きました。

専門家会合の様子

――世界の脱炭素の現在を把握する上で有意義な場だったと思いますが、今回のCOP28の特徴や要点はありますか?

長谷川:はい。違う角度からのお話を聞いていても、よく聞くキーワードが出てきます。それらを重ね合わせると、ビジネスの領域にいる私の立場からみた場合、大きく3つの興味深い要点があると感じました。


GreenwashingとGreenhushing
グリーンウォッシングとグリーンハッシング

長谷川:まずは、脱炭素をテーマに企業が消費者とコミュニケーションする難しさを感じたキーワードをあげたいと思います。

グリーンウォッシングは、企業側があたかも脱炭素に貢献する商品であるかのようにうたって販売促進をする手法のことですが、これはもはや聞き慣れた言葉かと思います。そして、そのさきに、業界によってはグリーンハッシングという状況が生まれている。ハッシングとは英語ではHush、つまり「黙る」こと。企業側が脱炭素について語ること自体にリスクを感じて、話題にすることを避けている状況を指します。

すでにEU域内では、消費者をグリーンウォッシュから守るために「ネットゼロ」や「カーボンニュートラル」といった曖昧なエコ表示や宣伝を禁止する規制が敷かれています。では、脱炭素に貢献している企業はもっと表現の自由が増すのではないか? と思えるのですが、そうではないようです。全体としてグリーンウォッシュの手法がより先鋭化し、それに対する訴訟も欧州では増えているとのこと。結果、優良な企業も含めて「グリーン」に関する表現を避ける傾向が生まれている。

窮屈なようにも見えますが、逆を言えば、消費者の側が「本当にインパクトのある取り組みは何か」を見定めようとしている状況だとも言えますので、この事態にどう挑戦するのかを産業界として考えていければと思います。

会期中のドバイ市内の様子

IRAとCBAM
米国インフレ抑制法とEUの炭素国境調整メカニズム

長谷川:2つ目に挙げたいのは、気候変動対策にも地域の特色が出ると実感したキーワードです。

細かな説明はこの場では省きますが、アメリカが進めるIRA※2は約3,910億ドル(約57兆円)という巨額の予算を気候変動対策に当てており、ビジネスチャンスを創出し資本や才能を世界から集めようとする傾向が強いと感じます。世界中のインフラが再エネをベースに転換することが間違いない中で、サプライチェーンの中心地をアメリカに引き寄せるという発想に見えます。

他方で、EUが推し進めようとするCBAM※3は、いわゆる国境炭素税とも呼ばれるように、セメントや電力などの炭素が集約された製品に対して課されるもので、そのような製品の域内での競争力をあらかじめ削ぐためのルールを率先して敷く、という発想です。こういったルールはCBAMに限らずいずれにせよ必要となるものなので、先んじて自分たちで作ってしまおう、ということです。そして早くグリーンになれた国が勝つ競争が、CBAMのルールに則って始まるわけです。

これら二つの政策の対比は、国際的な観点でとても興味深いと感じました。

注2: 米国インフレ抑制法のこと。米国で2022年8月に成立した法案で、過度なインフレを抑制すると同時にエネルギー安全保障と気候変動対策を強力に推進することを目的にしているとされる。

注3: Carbon Border Adjustment Measure
ある製品が国境を超えて売買される際に、その製品が作られた際に排出した炭素に対する価値を価格に還元し、脱炭素を目的とした競争力の調整を行うための取り決め。

――IRAとCBAMの導入は、中国がサプライチェーンの中心地になっていることに懸念を持つからこそ発動されている政策とも言われます。エネルギーをめぐる世界の分断を乗り越える方法はあるのでしょうか。

長谷川:3つ目にあげたいキーワードはそれに関わります。


Loss & Damage FoundationとGST
「損失と損害」基金とグローバル・ストックテイク

長谷川:「損失と損害」基金は前回のCOP27で設立の合意が取れたもので、炭素排出量が総じて少ない途上国の方が、災害などのダメージをより受けやすい現状に対応するためのものです。先進国が任意で財源を拠出します。

GST(グローバル・ストックテイク)は、パリ協定の目標達成に向けて、各国が立てた温室効果ガス排出量の削減目標に対して、取り組みや進捗がどの程度進んでいるかを確認し、評価する仕組みのことです。今回のCOP28では、初めてGSTの結果を受けた決定が採択されました。それにより、合意文書には2030年までに、再エネを3倍、エネルギー効率を2倍にすることが盛り込まれました。

「損失と損害」基金については開会前には協議の難航が予想されていたものの、初日に合意されたことに私の周りの人々含めて皆驚いていました。ただ、必要とされる金額に到達しているとは言い難い状況です。また、資金がどのように使われていくのかについても今後の課題となるでしょう。

「損失と損害」基金とGST、いずれも公平性に基づいているようで希望を感じさせますが、困難な道のりが待っていることには変わりありません。気温上昇を50%の確率で1.5度に抑えるための累積CO2排出量(カーボンバジェット)の残りは、2023年と同等の年間排出量が続く場合、あと約7年で使い切ってしまうと推計されているからです。

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あらゆるレベルでの行動が必要

長谷川:はじめにお話しした署名活動のように、大きな枠組みに頼らずに、自分が今できることをやり切るスタンスで全ての人が動く必要がある状況だと捉えています。

世界の脱炭素は国レベルのイニシアチブが目立ちますが、危機的状況の中で企業や個人のプレゼンスも確実に増しているのです。出席した世界経済フォーラムのラウンドテーブルでは、グローバルサウスにおいて再エネを増やすためにプライベートとパブリックの各セクターはどうするべきかという議題を各国大臣や経営者と共に話し合いました。私は、「再エネは今や、国単位のエネルギー政策の都合だけではなくユーザーのニーズが市場を動かす時代になった。この現状を踏まえると、今日のような話し合いでは再エネユーザーの意見を重視すると良い」と主張しました。なぜなら、私たちが関わった途上国での電源開発では、再エネに転換したくても政府や電力会社側の都合でスピードが追いつかずに苦戦をしている会社をみてきたからです。

トランプ政権下のアメリカが2017年6月にパリ協定から脱退を宣言した5日後に、1,200以上の企業や投資家などが集まって「We are still in」つまり、われわれはパリ協定に残るとの声明文を出したことが思い起こされます。その人や、その企業にあったサイズの取り組みを迅速に実行に移すことが、強いメッセージになるのです。

自然電力が創業当時から行ってきた地域経済へのコミットメントもこれと同じ考え方に基づきます。「損失と損害」基金の今後の働きやGSTの効果には大いに期待しますが、私の立場でできることは、再エネの電源開発をより拡大性のある形で進めることや、電源開発で関わっている目の前のローカルの独自性に向き合うことです。エテルギー転換を可能な限り早く達成し、経済の面でもエネルギーの面でもローカルが自立して横でつながり合って、分断を乗り越えるグローバルを成すような社会に近づくこと、それが私たちのパーパスである「青い地球を未来につなぐ」ための道のりを進む一つの方法だと信じています。

COP28や世界経済フォーラムといった場で交わされるマクロな議論に触れたことで、反対に目の前の状況に向き合うことの切実さを改めて実感した訪問でした。

 

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