脱炭素ドミノは海外へ! 日本の自治体・企業が取り組む都市間連携事業

主要排出国を含む多くの国が合意して成立したパリ協定の発効以来、温室効果ガス排出削減による気候変動の解決は、世界共通の課題です。

2050年カーボンニュートラルを宣言している日本では、モデルケースとなる脱炭素先行地域を全国各地へ次々と波及させていく「脱炭素ドミノ」の展開を目指しています。

そして、この脱炭素ドミノを海外にも展開していくために、主に途上国・新興国の脱炭素化を促進する都市間連携事業を行っています。

都市間連携事業は国を超えた温室効果ガス削減に貢献するだけでなく、日本の自治体・民間企業にとっても多数のメリットがあります。

この記事では、脱炭素社会実現のための都市間連携事業の意義と、近年実施されたプロジェクトの事例について紹介します。

 

世界各国で加速する脱炭素化に向けた動き

2015年に国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)において採択されたパリ協定は、2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新しい国際的な取り組みです。

パリ協定が歴史的に見て画期的である点のひとつとして、途上国・新興国を含む全ての参加国が2020年以降の「温室効果ガス削減・抑制目標」を定めていることが挙げられます[*1]。

近年、急速に経済発展を遂げつつある新興国での脱炭素推進は、気候変動の解決に大きく寄与すると考えられています。

さらに2030年を年限として設定されている国連の持続可能な開発目標(SDGs)においても、ゴール13「気候変動に具体的な対策を」として、気候変動の解決がゴールの一つとして設定されています。

開発が遅れている国においても、効果的な取り組みができるように、能力を向上させるための仕組みづくりが推進されています[*2]。

このように世界的に脱炭素化に向けた動きは加速しており、2021年11月の時点で154か国・1地域が2050年にカーボンニュートラルを実現することを宣言しています[*3], (図1)。

図1: 年限付きのカーボンニュートラルを表明した国・地域
出典: 経済産業省 資源エネルギー庁「第1節 脱炭素を巡る世界の動向」(2021)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2022/html/1-2-1.html

カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みやシナリオは国によって異なりますが、電化や水素化などの技術革新が必要であるという点においては、各国の政策の方向性は一致しています。

 

脱炭素社会を実現するための都市間連携事業

環境省では、国内での脱炭素化の取り組みに加えて、海外都市と日本の自治体が連携して脱炭素プロジェクトを実施する都市間連携事業を行っています。

都市間連携事業の狙いは、日本の脱炭素技術を途上国で普及展開し、一足飛び(リープフロッグ)型の発展を支援することで、効率的に世界規模の脱炭素化を進めることです[*4], (図2)。

図2: 脱炭素社会に向けた一足飛び型発展の概念図
出典: 環境省「脱炭素社会実現のための都市間連携ガイドブック」
https://www.env.go.jp/earth/coop/lowcarbon-asia/project/data/jcm_guidebook_C2C_2020_JP.pdf, p.6

都市間連携事業では、環境省と契約した日本の民間企業や自治体が海外のパートナー都市と連携してさまざまな脱炭素プロジェクトを実施し、脱炭素社会の実現を目指します[*5], (図3)。

図3: 都市間連携事業の概要図
出典: 環境省 脱炭素ポータル「脱炭素社会の実現に向けた『都市間連携事業』とは何か?」(2023)
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/topics/20230315-topic-43.html

パートナー都市の脱炭素化に資する案件の発掘・形成調査や、制度構築支援、人材育成などの協力事業をパッケージ化して提供することで、効率的に脱炭素化を進めることを可能にします。

都市間連携事業に参画することは、気候変動の解決に貢献するだけでなく、知名度向上やグローバル人材の育成、自社製品の売り上げ向上、海外市場の開拓など、さまざまなメリットがあります。

さらに、地元企業が海外進出し、企業として成長することで、地域経済の活性化が進むことも期待されます[*5]。

このようにプロジェクトに参画するステークホルダーそれぞれにメリットがあるため、日本の自治体や民間企業はさまざまな目的で、都市間連携事業に参画しています[*4], (図4)。

図4: 都市間連携事業に参加する目的
出典: 環境省「脱炭素社会実現のための都市間連携 ガイドブック」
https://www.env.go.jp/earth/coop/lowcarbon-asia/project/data/jcm_guidebook_C2C_2020_JP.pdf, p.29

また、都市間連携事業のような脱炭素技術を海外に導入するプロジェクトでは、二国間クレジット制度が活用できます。

二国間クレジット制度とは、支援を実施したパートナー国の温室効果ガス排出削減・吸収量などの成果を両国で分け合う仕組みです[*6], (図5)。

図5: 二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism [JCM])とは?
出典: 環境省 アジアの脱炭素都市の実現に向けた情報提供サイト「都市間連携事業」(2022)
https://www.env.go.jp/earth/coop/lowcarbon-asia/project/

つまり、優れた脱炭素技術を活かしてパートナー国を支援することは、日本の温室効果ガス削減目標達成に貢献することにつながります。

2013年度から開始した都市間連携事業は、2022年度までに世界の13カ国45都市・地域と日本の20自治体が参画しています[*5], (図6)。

図6: 都市間連携事業参画都市一覧
出典:  環境省 脱炭素ポータル「脱炭素社会の実現に向けた『都市間連携事業』とは何か?」(2023)
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/topics/20230315-topic-43.html

都市間連携事業に参画している自治体の多くは、エコタウンやコンパクトシティなどの先進的な取り組みを行っている、日本の脱炭素社会実現を牽引する存在です。

途上国への支援においても、そのノウハウや強みを活かした独自のプロジェクトを展開しています。

 

都市間連携事業の取り組み事例
東京都・さいたま市とクアラルンプール市が進める脱炭素プロジェクト

東京都は2019年からマレーシア・クアラルンプール市の脱炭素都市実現に向けた支援として、建築物の脱炭素化を目指す制度基盤の構築を支援してきました。

2022年度からは連携都市としてさいたま市も加わり、脱炭素都市・街区実現のための制度基盤構築に取り組んでいます。

プロジェクト期間中に、クアラルンプール市は2050年カーボンニュートラルを目指すことを他の途上国に先駆けて宣言しており、市内の建築物や市域全体の脱炭素化を進めています[*7]。

2019年度に始まったこのプロジェクトでは、クアラルンプール市の市有施設のエネルギーデータベースの構築、二酸化炭素排出量の削減ポテンシャルの推計、シナリオ作成などの支援を行い、東京都が目指す2030年カーボンハーフ実現に向けた制度や指針についても共有しています。

2022年度からプロジェクトは新たなフェーズに入り、さいたま市が民間企業と取り組んできた美園地区の「スマートホームコミュニティ」や「シェア型マルチモビリティ」に関する知見やノウハウの共有、技術移転を行っています[*7, *8]。

クアラルンプール市では、脱炭素化の先行実証地として「ワンサマジュ・カーボン・ニュートラル成⻑センター」の構築を宣言しています[*9], (図7)。

図7: プロジェクト概要
出典: 環境省「マレーシア国クアラルンプール市ー東京都/さいたま市に関する都市間連携」(2022)
https://www.env.go.jp/earth/coop/lowcarbon-asia/project/data/JP_MYS_2022_PPT_01.pdf

「ワンサマジュ・カーボン・ニュートラル成⻑センター」は、ワンサマジュ地区の北部に位置する、イオンモールを中心に商業施設や住宅地が広がるエリアで、20万人以上の住人がいます。街路等のLED化や太陽光発電施設の導入などを進めながら、スマートシティにすることを目指しています。

クアラルンプール市での脱炭素地区構築に向けて、さいたま市のスマートホームコミュニティのノウハウ提供や、さいたま市の事業者とのビジネスマッチングを実施しています[*10]。

環境先進都市富山市による国際連携事業

SDGs未来都市にも選定されている富山市では、優れた環境技術を活かし、インドネシア、マレーシア、チリ、フィリピン、モルディブなど多数の国に支援を行い、世界規模での温室効果ガス削減に向けた取り組みを行っています[*11]。

2014年には、稲作がさかんなインドネシア・タバナン県からの協力要請を受け、電力不足や農業衰退などの課題を解決するために協力協定を締結しました。

このプロジェクトでは、棚田群の用水路に4基の小水力発電設備と200本の街灯を整備し、住民や観光客の利便性向上に貢献しています[*12], (図8)。

図8: 小水力発電設備と200本の街灯を整備
出典: 富山市「富山市の国際連携」
https://www.city.toyama.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/005/134/brochure_2021.pdf, p.2

また、2019年にはインドネシアのスマラン市の公共バス72台のディーゼルエンジンを天然ガスでも走行可能なハイブリッドエンジンに改造するプロジェクトを、富山市内の企業と連携して実施しました[*13], (図9)。

図9: ハイブリッドエンジンを導入した公共バス
出典: 富山市「特集 富山市の国際連携 ~都市の理想を、富山から~」
https://www.city.toyama.toyama.jp/etc/pr/mag/210205/pages/1.html

ハイブリッドエンジンが導入された公共バスは、二酸化炭素排出量を最大約40%削減することが期待されています。

さらに技術提供だけでなく、パートナー都市の自律的発展を促すために、インドネシアの技術者を対象とした研修などの人材育成も行っています[*11]。

北九州市が取り組むアジア地域の脱炭素プロジェクト

日本最大のエコタウンを有する北九州市では、アジア地域の脱炭素化を進めるために、さまざまな取り組みを行っています[*14]。

2010年にはアジア地域の低炭素化による地域経済の活性化を図ることを目的として、「アジア低炭素化センター」を開設しました。2023年には脱炭素社会の実現に向けた取り組みを一層推進していくために、「アジアカーボンニュートラルセンター」に名称変更しています。

「アジアカーボンニュートラルセンター」は、北九州市国際村交流センターに位置する施設で、技術輸出の支援や専門人材の育成、調査研究の情報発信などを行っています[*16]。

他にも、北九州市はアジアのさまざまな都市で都市間連携事業を行い、市内企業が有する優れた技術を海外展開しています[*15], (図10)。

図10: 北九州市がプロジェクトを実施しているアジア諸都市
出典: 北九州市「アジアカーボンニュートラルセンター」
https://www.city.kitakyushu.lg.jp/kankyou/file_0477.html

姉妹都市の一つであるベトナム・ハイフォン市とは、エコ工業団地推進事業を行っています[*17], (図11)。

図11: エコ工業団地推進事業の概要
出典: 北九州市「ベトナム・ハイフォン市の脱炭素化に向けたエコ工業団地推進事業(概要)」
https://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/000987586.pdf

北九州市の再生可能エネルギー推進やエコタウン構築に関するノウハウを移転し、省エネ・再エネ・スマートエネルギー・廃エネ回収などの優れた低炭素技術の導入を進めています。

 

まとめ

世界規模での気候変動に対応するために、日本では先進的な取り組みを意欲的に行ってきた環境都市や民間企業が中心となって、海外都市と連携したさまざまなプロジェクトを進めています。

都市間連携事業では、脱炭素社会実現のためのノウハウ共有や人材育成を行い、途上国・新興国における持続可能なまちづくりの実現を支援しています。

日本の優れた技術を活かして脱炭素ドミノを海外まで展開してくことで、気候変動の解決にまた一歩近づくことができるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
経済産業省 資源エネルギー庁「今さら聞けない『パリ協定』~何が決まったのか? 私たちは何をすべきか?~」(2017)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/ondankashoene/pariskyotei.html

*2
ユニセフ「 13: 気候変動に具体的な対策を」
https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/17goals/13-climate_action/

*3
経済産業省 資源エネルギー庁「第1節 脱炭素を巡る世界の動向」(2021)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2022/html/1-2-1.html

*4
環境省「脱炭素社会実現のための 都市間連携ガイドブック」
https://www.env.go.jp/earth/coop/lowcarbon-asia/project/data/jcm_guidebook_C2C_2020_JP.pdf, p.6, p.29

*5
環境省 脱炭素ポータル「脱炭素社会の実現に向けた『都市間連携事業』とは何か?」(2023)
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/topics/20230315-topic-43.html

*6
環境省 アジアの脱炭素都市の実現に向けた情報提供サイト「都市間連携事業」(2022)
https://www.env.go.jp/earth/coop/lowcarbon-asia/project/

*7
東京都環境局「クアラルンプール市との都市間連携事業」(2023)
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/policy_others/international/collaboration_with_kl.html

*8
さいたま市「クアラルンプール市(マレーシア)との都市間連携事業」(2023)
https://www.city.saitama.jp/001/009/004/010/p099122.html

*9
環境省「マレーシア国クアラルンプール市ー東京都/さいたま市に関する都市間連携」(2022)
https://www.env.go.jp/earth/coop/lowcarbon-asia/project/data/JP_MYS_2022_PPT_01.pdf

*10
環境省「令和4年度 脱炭素社会実現のための都市間連携事業委託業務 調査報告書」(2022)
https://www.env.go.jp/earth/coop/lowcarbon-asia/project/data/JP_MYS_2022_01.pdf, p.12, p.13, p.14, p.31

*11
富山市「国際連携事業(SDGs未来都市)」(2022)
https://www.city.toyama.lg.jp/kurashi/gomi/1010247/1010250/1005134.html

*12
富山市「富山市の国際連携」
https://www.city.toyama.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/005/134/brochure_2021.pdf, p.1

*13
​​富山市「特集 富山市の国際連携 ~都市の理想を、富山から~」
https://www.city.toyama.toyama.jp/etc/pr/mag/210205/pages/1.html

*14
環境省「ベトナム・ハイフォン市ー北九州市に関する都市間連携」
https://www.env.go.jp/earth/coop/lowcarbon-asia/project/data/JP_VNM_2022_PPT_02.pdf

*15
北九州市「アジアカーボンニュートラルセンター」
https://www.city.kitakyushu.lg.jp/kankyou/file_0477.html

*16
アジアカーボンニュートラルセンター「アジアカーボンニュートラルセンターパンフレット」
https://asiangreencamp.net/about/document/pamphlet_j.pdf, p.1, p.2

*17
北九州市「ベトナム・ハイフォン市の脱炭素化に向けたエコ工業団地推進事業(概要)」
https://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/000987586.pdf

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