ESG投資って? 拡大の背景や近年の動向を見てみよう

現在、持続可能な社会の構築が国際的な課題となっていますが、解決に向けた取り組みを進める、企業への支援が重要です[*1]。

そうした企業への支援の方法として、近年、社会・環境課題を考慮して投資を行う「ESG投資」と呼ばれる手法が世界的に拡大しています。

特に、ESG投資のうち、投資の効果(インパクト)に着目する手法として、「インパクト投資」に注目が集まっています。インパクト投資を推進することで、グリーンエネルギー分野のさらなる普及拡大につながると期待されています。

ESG投資とはどのような投資手法なのでしょうか。拡大の背景、国内外の最新動向とともに、詳しくご説明します。

 ESG投資とは
ESG投資の定義

ESGは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の英語の頭文字を合わせた言葉です[*2], (図1)。

図1: ESG投資とは
出典: 年金積立金管理運用独立行政法人「ESG投資」
https://www.gpif.go.jp/esg-stw/esginvestments/

投資家が企業等へ投資する際の判断材料として、これまでは主にキャッシュフローや利益率などの定量的な財務情報が使われてきました。しかしながら、気候変動問題や労働問題、企業の不祥事など様々な問題が顕在化するなかで、これらの問題も考慮した投資の必要性が叫ばれるようになりました。

そこで、従来の財務情報に加え、非財務情報であるESGの要素を考慮するESG投資が注目を集めています。ESG投資とは、投資先のESGの取り組みを評価して投資対象を選別し、ESG課題への継続的な配慮を促す投資のことです[*3]。

ESG投資は、環境・社会・ガバナンスにおける課題の解決に資する投資ですが、同時に投資によるリターンの追及も行います。この点が、従来の寄付や援助との大きな違いです[*3], (図2)。

図2: ESG投資とリターンの関係
出典: 野村アセットマネジメント株式会社「ESG投資とは」
https://www.nomura-am.co.jp/special/esg/detailesg/esginvestment.html

ESG投資の歴史

ESGを考慮した投資の起源は古く、1920年代まで遡ります。当時のアメリカにおいて、キリスト教協会などで、宗教上の理由によりタバコやアルコール、ギャンブル等の産業への投資を禁止したことが始まりと言われています。その後、1990年代には環境課題への意識が高まり、ESGの考え方が徐々に広がりました[*3]。

ESGの本格的な普及は、2006年からと言われています。投資家が投資の意思決定をする際に、ESGの観点を考慮すべきであるとする世界共通のガイドライン「責任投資原則」を国連が提唱したことから、広く普及するようになりました[*3], (図3)。

図3: 世界のESG投資の歴史
出典: 野村アセットマネジメント株式会社「ESG投資とは」
https://www.nomura-am.co.jp/special/esg/detailesg/esginvestment.html

日本では、世界最大規模の年金積立金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が2015年に「責任投資原則」に署名しており、そこから広く注目を集めるようになりました。

 ESG投資の種類

サステナブル投資を促進する国際団体であるGSIA(Global Sustainable Investment Alliance)は、ESG投資を以下の7つに分類しています[*4], (図4)。

図4: ESG投資の種類
出典: 野村アセットマネジメント株式会社「ESG運用戦略」
https://www.nomura-am.co.jp/special/esg/esg-integration/strategy.html

ネガティブ・スクリーニングは、ESGに関して評価基準を定め、それに満たない国や部門、企業を投資対象から外す投資手法です。

ポジティブ・スクリーニングは、投資対象のなかでESG関連の評価が相対的に高い企業等に投資する手法です。

規範スクリーニングは、ESG分野での国際基準に照らし合わせ、その基準を満たしていない企業等を投資先リストから外す手法です。

 ESG統合とは、ESGなどの財務分析だけでは見えない要素も投資判断のプロセスに組み込む投資手法のことです。

サステナブル・テーマ投資は、サステナビリティに貢献し得るテーマや企業等に投資する手法です。

インパクト投資とは、投資収益に加えて社会や環境へ測定可能なポジティブなインパクトを与えることを目的とする手法のことです。

最後に、エンゲージメント・議決権行使とは、投資家として企業等に対して中長期的な視点から経営の改善等について対話する手法のことです。

これらの手法は重複して用いられることも多く、特にエンゲージメント・議決権行使は、他の手法と重複するケースが多くなっています。

急拡大するインパクト投資

インパクト投資は、先述したように、「リスク」と「リターン」だけでなく、「インパクト」という第3の軸を取り入れた投資手法であり、その投資額は近年急増しています[*5], (図5)。

図5: 投資における第3の軸
出典: GSG Impact JAPAN「インパクト投資とは」
https://impactinvestment.jp/impact-investing/about.html

インパクト投資は、ESG投資と同様に、持続可能性等の実現とともに、財務的なリターンを求めています。一方で、ESGに関する取り組みに積極的な企業や業種に投資するESG投資と比べて、インパクト投資は「投資がもたらす社会面・環境面での課題解決」をより強く意図しています。

日本では、インパクト投資額が増加傾向にあります。GSG国内諮問委員会の調査によると、2023年度のインパクト投資残高は、前年度比197%の11兆5,414億円でした。また、銀行や運用機関、保険会社などインパクト投資に取り組む機関数も年々増えており、2023年には58機関にまで増加しています[*6], (図6)。

 図6: 日本においてインパクト投資を開始した組織数
出典: GSG国内諮問委員会「日本におけるインパクト投資の現状と課題 2023年度調査」
https://www.siif.or.jp/wp-content/uploads/2024/04/ImpactInvestmentReport2023.pdf, p.19

 

ESG投資を取り巻く国内外の状況
世界全体のESG投資動向

世界全体の2021年末時点のESG投資額は9,281億ドルであり、2015年末時点の662億ドルから急拡大しています。地域別に見ると、欧州における投資額の増加が著しく、投資額2位であるアジア太平洋地域の2倍以上となっています[*7], (図7)。

図7: 世界の地域別ESG投資額変化
出典: 株式会社三菱総合研究所「世界と日本のESG投資動向」
https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20221125.html

ESG投資のなかでも、環境問題への解決に貢献するグリーン投資が増加傾向にあります。この背景には、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う各国の金融緩和により、投資が促進された影響があると見られています。

地域別・投資先別のグリーン投資を見ると、世界全体ではエネルギー部門、建物部門、輸送分野で全体の8割を占めています[*7], (図8)。

  

図8: 地域別・投資先別グリーン投資(2021年)
出典: 株式会社三菱総合研究所「世界と日本のESG投資動向」
https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20221125.html

また、国別のグリーン投資額を見ると、アメリカが最も多く、次いで中国、フランス、ドイツとなっています。一方で、日本は世界で11位であり、経済規模と比較して非常に少ないのが現状です[*7], (図9)。

図9: 国別グリーン投資額(2021年)
出典: 株式会社三菱総合研究所「世界と日本のESG投資動向」
https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20221125.html

インパクト投資も同様に、その投資額が拡大しています。2017年から2022年にかけて市場規模は約10倍の11,640億ドルに増加しており、今後もさらなる拡大が期待されています[*8], (図10)。

図10: 世界のインパクト投資の市場規模
出典: 一般財団法人 社会変革推進財団「インパクト投資の国内外の最新動向」
https://www.mof.go.jp/pri/research/seminar/fy2022/lm20221130.pdf, p.7

 日本におけるESG投資動向

日本におけるESG投資も活発化しています。アジア太平洋地域において、日本は中国に次いで2番目に投資額が多くなっています[*7]。

しかしながら、その投資額は韓国と同程度であり、また、名目GDPが日本の約3分の1であるオーストラリアの倍程度と、日本では経済規模に比して投資が進んでいないと言えます[*7], (図11)。

図11: アジア太平洋地域のESG投資額(2021年)
出典: 株式会社三菱総合研究所「世界と日本のESG投資動向」
https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20221125.html

日本のESG投資のなかで最も多いのがグリーン投資であり、その内訳を見ると製造業が最も多く、次いでエネルギーとなっています[*7], (図12)。

 

図12: 日本のグリーン投資額(業態別、金融を除く)
出典: 株式会社三菱総合研究所「世界と日本のESG投資動向」
https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20221125.html

先述したように、日本のグリーン投資の投資額は、その経済規模と比較すると低水準です。特にエネルギー部門のグリーン投資割合は28%と、アジア太平洋地域における投資割合の37.6%よりも低いため、この分野での投資をより増やしていくことが肝要です。

 

グリーン投資活用事例

これまで紹介してきたように、投資額が拡大しつつあるESG投資ですが、ESG投資を通じて調達された資金はどのように活用されているのでしょうか。

例えば、セイコーエプソン株式会社は、2023年7月に、グリーンボンド(債券)を発行し、700億円調達しました[*9], (図13)。

図13: セイコーエプソン株式会社による資金調達事例
出典:  環境省「グリーンファイナンスによる資金調達を行った企業の取組事例」
https://greenfinanceportal.env.go.jp/pdf/case_01.pdf, p.27

同社は、2030年までに1,000億円の費用を環境投資として投入することを目標としており、環境適応製品の生産・開発や再生可能エネルギー購入等に資金を活用するとしています。

自治体によるグリーンボンドの発行も活発化しています。2017年に東京都が五輪関連施設の環境対策、気候変動影響への適応(中小河川整備)等を目的として200億円のグリーンボンドを発行しており、2018年以降も毎年発行しています[*10]。

2022年には福岡市、三重県、仙台市、兵庫県なども発行しており、今後も自治体のグリーンボンド発行は増える見込みです。

 

今後の展望

今回紹介してきたように、急拡大を続けるESG投資ですが、課題も山積しています。例えば、インパクト投資については、評価手法の未確立や政府による制度の未整備、投資先等の不足など、様々な課題があります[*11]。

環境問題の解決に向けた企業等への支援をより一層進めるため、これらの課題解決に取り組むことが求められていると言えるでしょう。

 

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参照・引用を見る

*1
インパクト投資等に関する検討会「インパクト投資等に関する検討会報告書」
https://www.fsa.go.jp/singi/impact/siryou/20230630/01.pdf, p.1

*2
年金積立金管理運用独立行政法人「ESG投資」
https://www.gpif.go.jp/esg-stw/esginvestments/

*3
野村アセットマネジメント株式会社「ESG投資とは」
https://www.nomura-am.co.jp/special/esg/detailesg/esginvestment.html

*4
野村アセットマネジメント株式会社「ESG運用戦略」
https://www.nomura-am.co.jp/special/esg/esg-integration/strategy.html

*5
GSG Impact JAPAN「インパクト投資とは」
https://impactinvestment.jp/impact-investing/about.html

*6
GSG国内諮問委員会「日本におけるインパクト投資の現状と課題 2023年度調査」
https://www.siif.or.jp/wp-content/uploads/2024/04/ImpactInvestmentReport2023.pdf, p.4, p.19, p.23, p.24

*7
株式会社三菱総合研究所「世界と日本のESG投資動向」
https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20221125.html

*8
一般財団法人 社会変革推進財団「インパクト投資の国内外の最新動向」
https://www.mof.go.jp/pri/research/seminar/fy2022/lm20221130.pdf, p.7z

*9
環境省「グリーンファイナンスによる資金調達を行った企業の取組事例」
https://greenfinanceportal.env.go.jp/pdf/case_01.pdf, p.27, p.28

*10
東日本電信電話株式会社「東京都は約400億円! 環境政策の財源確保に『グリーンボンド』を導入する自治体多数」
https://business.ntt-east.co.jp/bizdrive/column/post_168.html

*11
GSG Impact JAPAN「インパクト投資の課題とこれから」
https://impactinvestment.jp/impact-investing/issue-vision.html

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