オフィス街「日本橋」だからこそ生み出せるインパクトとは?コーヒーロースター「Overview Coffee」のリジェネラティブ・オーガニック農法普及への挑戦

地球環境を次世代につなぐことを考える上で、気候変動問題は世界共通の社会課題として既に広く認知されていますが、「土壌への負荷の低減」もまた重要な社会課題のひとつであることをご存じでしょうか。先進国における大量消費に応えるため、効率を重視した単一作物の大規模生産を続けた結果、生産国の土壌は傷つき、地球温暖化への影響も指摘されています。

世界で水の次に飲まれているコーヒーの農地も、大規模生産により土壌が傷ついていると言われています。

今回は、持続可能な農法「リジェネラティブ・オーガニック」によって生産されたコーヒーの普及に取り組む「Overview Coffee」の増田啓輔さんに、農法の特徴やOverview Coffeeのコンセプトなどについてお話しいただきます。

株式会社 OVERVIEW COFFEE JAPAN代表の増田啓輔さん

リジェネラティブ・オーガニックとは?

リジェネラティブ・オーガニックとは「環境再生型有機農法」、つまり農業や生産活動を通じて土壌を回復させることを最優先事項とする農法を指します。化学肥料や農薬などの不使用などはよく聞かれるオーガニック(有機農法)と同様ですが、それに加え環境の再生と土壌や生態系の回復を重視した農法です。

2017年に設立された認証機関リジェネラティブ・オーガニック・アライアンス(ROA)が、「土壌の健康」「動物福祉」「社会的公平性」の3要素を重視し、生産環境を定量的に評価しています。

Overview Coffeeの成り立ち

Overview Coffeeは、コーヒーの栽培方法を見つめなおし、土壌の再生と気候変動問題の解決へ寄与することをミッションに、ポートランドで発足したスペシャルティコーヒーロースターです。創設者のAlex Yoderはパタゴニア・アンバサダーとして活動しているプロスノーボーダー。環境問題に関心を持つようになり、コーヒーが地球上で水の次に多く飲まれていること、石油の次に取引量が多いこと、また、不公平な取引や児童労働などの社会課題をも抱えていることを知りました。「コーヒーは地球に大きなポジティブインパクトを与えられる」との想いから、2020年春にOverview Coffeeを立ち上げたのです。

Alexは毎年スノーボードをするために来日しており、そこで出会った彼の想いに私も強く賛同したことがきっかけで、日本でも2021年から「Overview Coffee Japan」を展開することになりました。今は尾道市瀬戸田町(広島県)で焙煎を行いながら、東京日本橋と一宮町(千葉県)の店舗でコーヒーを販売・提供する他、ECサイトや全国の卸先のパートナー店舗でもコーヒーを販売・提供しています。

Overview Coffee Japanのフラッグシップストアである、尾道市瀬戸田町の焙煎所兼カフェ。建物は140年前に建てられた塩蔵を改装したもの。国内各店で取り扱うコーヒー豆はすべてここで焙煎している

そもそも「健康な土壌」とはどんな状態?

健康な土壌について知る前に、不健康な状態がどのようなものか考えてみましょう。農地の場合、単一栽培がその要因のひとつと言われます。作物が育つのに必要な栄養素は、作物ごとに異なっています。つまり、コーヒーだけ植えた土地からは、コーヒーが育つために必要な栄養素だけが偏ってしまうので、肥料を与えたところで、不必要な栄養素はCo2として吐き出してしまうのです。さらに、効率的かつ安定的に大量生産するため農薬を散布すると、コーヒー以外の草が枯れ、虫やその他の生態系が近づかなくなり、多様性は失われ、土壌が固くなっていきます。農薬や化学肥料は土壌汚染や生態系破壊のみならず、生産者の人体にまでも悪影響を及ぼすのです。

翻って、どのような状態を健康な土壌と言うのでしょう?腐葉土や枯葉が積み重なり少し水分を含んだ、ふかふかした柔らかい土。これが健康な状態の土壌です。登山やキャンプをする方ならイメージしやすいかもしれません。このような土壌は多様な生物、菌、栄養素を含み、生物の糞や死骸が発酵して土に還っていく、という本来の自然界のサイクルが保たれています。さらに、多様な植物が植わっていることで、土が健康になっていくことで、CO2を土壌の中に閉じ込めておくことができます。単一性ではなく多様性こそ、健康な土壌づくりの鍵と言えます。

今、生産国で起こっている変化

コーヒーの生産国はまだまだ貧しい国が多いのが実情です。彼らは生きる糧を得るために、消費側である先進国の需要に合わせて単一大規模栽培を続けてきました。しかし、先進国でオーガニックの考え方が普及し「少し高くてもオーガニック品を選ぶ」という消費行動が広がったことで、生産者側の意識にも少しずつ変化が生まれました。

これまで農薬に投資していた分を、有機肥料を育てる投資に回す。オーガニック認証が取れれば、これまでより生産量が下がってもプレミアムがついて高く売れる。生産者の健康も守れる・・・「大規模栽培よりもオーガニック栽培の方が儲かる」という認知が広がったのです。

もちろん、生産方法の切り替えは簡単なことではありません。化学肥料と農薬の使用から有機肥料へ切り替えると、コーヒーの木が病気になってしまったり、収穫量が落ちてしまったり、といったリスクは当然起こり得ます。それに耐え切れず元の慣行農法に戻してしまう農家も少なくありません。成功例がいくつか生まれ、転換点(ティッピングポイント)となるまで続けることが何よりも難しいのです。

リジェネラティブ・オーガニックはオーガニックよりもさらに難しい挑戦です。実際に認定機関から認証を受けたコーヒー農園は、まだ世界に3~4軒しかありません。リジェネラティブ・オーガニック認証を得ようとしている農園では、農地にコーヒーだけでなく様々な作物を植える取り組みをしています。CO2を土壌に閉じ込める役割を果たすマメ科の植物や、バナナ、アボカド、柑橘類などですね。実はこれ、土壌にも農家にも良い効果があるんです。土壌にとっては、先ほど述べたように単一栽培のように特定の栄養素だけが偏って失われることがないので、土壌のバランスが保たれます。また、気候変動による病気などの影響や農法の切り替えによりコーヒーの生産量が減ってしまっても、その他の作物による収入が得られることで、農家の経済的な持続可能性にもつながります。

リジェネラティブ・オーガニック農法のコーヒー農園は、まるで「コーヒーの森」のよう。一般的なコーヒー畑とは様相が大きく異なっている

Overview Coffee Japanの取り組みとコーヒー業界の動き

私たちは地球温暖化の抑制に対して最も効果的と言われるリジェネラティブ・オーガニック農法、または同農法に切り替えを検討している農家、オーガニック認証を取得したスペシャルティコーヒー豆を専門に取り扱っていますが、取り扱う豆の量は1社ではまだまだ少なく、農園を直接的に支援できるまでには至っていません。今の私たちにできる、そしてやるべきことは、リジェネラティブ・オーガニック農法を実践している農園からコーヒー豆を買い続けること、農園に訪れ、関係性を構築していくこと。買い続けるには、当たり前ですが、このようなコーヒーがあることを知ってもらい、ファンを増やしていかなければなりません。まずは自分たちが日本におけるリジェネラティブ・オーガニックのコーヒーのモデルケースになれるよう、店舗運営はもちろんのこと、エキスポに出展するなどして、コーヒーに関わる幅広い業種の方にリジェネラティブ・オーガニックのコーヒーを伝える活動を行っています。

コーヒーに限らず何事も同じだと思うのですが、第一次産業に関わるビジネスで一気にスケールさせる特効薬はないとつくづく思います。いくら私たちが取引量を拡大させたくても、生産者は自分の生活がかかっているので、「この人はずっと買い続けてくれる」と信頼できる人としか取引しません。生産者との信頼関係は一足飛びには構築できない。苗を植えてから実が収穫できるまでに3-4年はかかる。どうしても時間がかかります。

コーヒー業界全体を見てみると、様々な形で農園を支援する動きが生まれています。例えばコロンビアでは、輸入業者が豆の購入額の一部を還元し、排水処理システムを構築しようという取り組みがあります。農園単体ではやれない設備投資の支援をしようという試みです。また、ホンジュラスは義務教育が12歳までしかなく、農業従事者の教育水準が低いために、貧困のサイクルから抜け出せないという社会課題があります。そういった方々に教育支援を行っています。健康な土壌づくりは教育から、という考えですね。

ホンジュラスのコーヒー農園を訪問、生産者との対話を重ねる

消費国、オフィス街だからこそ生み出せるインパクトだってある

2024年2月、都心部で初めての店舗となる「Overview Coffee Nihonbashi」を東京日本橋にある自然電力のビル1階にオープンしました。それまでは瀬戸田町(広島県)や一宮町(千葉県)という自然豊かな場所に出店してきましたが、オフィス街だからこそできるサステナブルな活動もあるはずだと考えたからです。

オフィス街は確かに自然は少ないですが、たくさんの人が行き交う分、消費量や認知度は地方と比べ物にならないほど大きいです。リジェネラティブ・オーガニックのコーヒーを続けていくためには、消費量や認知度を拡大させることが必須であり、オフィス街は数という意味で大きなインパクトを生み出せる場と言えます。

日本橋の店舗周辺にはコーヒーチェーン店やコンビニが林立しています。例えば毎日3杯コーヒーを飲む人がいるとして、そのうち1杯を私たちのコーヒーに変えるだけでも、大きなインパクトになります。また、私たちは売上の1%を地球に還元する取り組み「1% for the Planet」に加盟、売上の1%を環境保護団体に寄付しており、我々のコーヒーをたくさんの方に知って飲んでいただくことが環境保護に貢献することにもつながります。消費者はコーヒーを育てることはできませんが、消費行動を変えることで、間接的に環境負荷を低減することができるのです。私たちの店舗が、コーヒーという日常生活の身近な飲み物を通して健全な消費活動について問題提起を投げかけられる場になればと思っています。

一杯ずつ丁寧にコーヒーを淹れてくれる(Overview Coffee Nihonbashi提供)

想いを共にする人たちと共に

自然電力のビルに店舗を置いたもうひとつの理由は、自然電力のパーパス「青い地球を未来につなぐ」と、私たちOverview Coffeeのミッションが根底でつながっていると感じたからです。再生可能エネルギー発電所の開発とコーヒー(農業)というまったく異なる業種ではありますが、お互いのもつ知識を活かしあうことで、インパクトを生み出せると思っています。

自然電力のクルーの皆さんにコーヒーを飲んでもらうこと、広めてもらうことがリジェネラティブ・オーガニックの普及につながりますし、私たちの土壌に対する知見を共有することで、環境負荷の少ない発電所開発の実現につながれば、これほどうれしいことはありません。

Overview Coffeeという名前は、Overview Effect(外観効果、宇宙から地球を眺めた宇宙飛行士たちが、地球の美しさや儚さを目の当たりにしたことで世界の平和や環境の保全などに対する思いが強まったという心理的な変化)という言葉に由来しています。生産国、消費国と分けて考えるのではなく、それぞれの立場でやるべきことをやれば、包括的に見るとインパクトが生まれ、健全な未来につながっていくと信じ、これからも想いを同じくする方たちと共に行動していきたいと思っています。

Overview Coffee Nihonbashiはコーヒースタンド型の店舗だが、自然電力の東京オフィス Tokyo Action Hubの1階にコミュニティ型シェアオフィス〈Soil Work〉と一緒に入居しており、会員や自然電力のクルーが店内でコーヒーを楽しむ

Overview Coffee Nihonbashi

〒103-0023 東京都中央区日本橋本町2丁目4-7
東京メトロ 三越前駅 徒歩3分、JR総武本線 新日本橋駅 徒歩5分
営業時間:8:30 – 17:00
定休日:土・日 ・祝
駐車場・駐輪場:なし
Web: https://overviewcoffee.jp/pages/location_nihonbashi
Instagram: https://www.instagram.com/overviewcoffeejapan/

 

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