主語は常に「地域」。相手の困り事にただ寄り添うことからすべてが始まる ~東松島市で自然電力が取り組むサステナブルな関係づくり~

再生可能エネルギー発電所の開発を主力事業とする自然電力で地域開発を担う南井駿さんの活動拠点は宮城県東松島市。自然電力入社後に東松島市へ移住して、現地の企業や農業・漁業従事者と共に、再生可能エネルギーを活かした地域課題解決型の新規事業創出や地域活性化活動を行っています。発電所開発企業と開発地域の住民との間に深い溝ができてしまうケースも散見されますが、地域に根ざし信頼関係を築くために大切なことは何なのでしょうか。

南井駿 / Minai Shun
1988年、静岡県清水市生まれ、神奈川県横浜市育ち。商社、SaaS企業を経て2022年自然電力に入社。入社間もなく訪れた宮城県東松島市に一目惚れし、即移住を決断。再エネを起点としたまちづくり、特に一次産業との連携を目指し、ソーラーシェアリングに取り組む。現場主義で自らも農業、漁業に従事。

海の恵みと共にある、宮城県東松島市

宮城県東松島市は、県庁所在地仙台市と県第二の都市・石巻市の間に位置する、人口約38,000人のまち。日本三景「松島」の東端「奥松島」を有しており、豊かな自然と便利な都市機能を備えた暮らしやすいまちとして知られています。栄養豊富な海からとれる海苔や牡蠣は全国的にも有名です。

2011年3月11日の東日本大震災では、想定を遥かに超える最大約10mもの津波が街を襲いました。市の面積の36%(市街地の約65%)が浸水、死者・行方不明者は当時の全市民の約3%にあたる1,133名に上り、全世帯の約73%となる11,073棟が半壊以上の被害を受けました。農地や漁港をはじめとする産業施設や社会基盤施設も含め、街全体が壊滅的な被害を受けました。

震災後、東松島市は震災復興と未来志向のまちづくりを推進。優れたSDGsの取り組みを提案する地方自治体「SDGs未来都市」は初回の2018年に、環境省主導の「脱炭素先行地域」は初回の2022年にそれぞれ選定されるなど、その先進的な取り組みに注目が集まっています[*1]。

自然電力と東松島市とのつながり

自然電力と東松島市との関係は、津波による浸水で居住困難となった野蒜地区沿岸部に2013年に建設された、被災地第一号となる「奥松島『絆』ソーラーパーク」に端を発します。この開発・建設事業は、現自然電力株式会社 執行役員の瀧口直人が、当時勤めていた三井物産で、被災地の復興支援を目的に東松島市の協力を得て進めたもの。太陽光発電所によって被災地の土地評価額が上がり、高台への集落移転事業の原資になった経験から、東松島市は、再生可能エネルギーを活かした自然災害に強い、子ども・若者・高齢者全ての世代にとって住みよい持続可能なまちづくりを進めています。

一方自然電力は、気候変動問題の解決のため、再生可能エネルギー100%の世界を作ることを目指しています。それだけでなく、再生可能エネルギーをベースにしたエネルギーインフラによってローカルコミュニティが自立することで、新しい経済・社会のシステムを構築できると考え、創業当初から地域に根ざした発電所開発を大切にしてきました。自治体や地元企業と共同出資して設立した合同会社に入る売電収益の一部を地域事業支援に活用したり、売電収益の一部を村の奨学金制度の原資にしたりと、ただ発電所を建設するのではなく、地域の発展につなげる仕組みづくりを共に行っています。

そのような両者の関係性から、地元で太陽光発電の設計・施工を中心に手掛ける株式会社セラウェーブが敷地内に設けたソーラーシェアリングの実証実験施設「東松島エコヴィレッジ鷲塚」に垂直式太陽光パネルを設置して営農型太陽光発電の実証実験を行ったり、自然電力が主体となって立ち上げた地域人材育成プログラム「Green Business Producers」の受講者向け視察プログラムの会場となるなど、長年にわたって地域をより良くするために共に取り組んでいます。

奥松島『絆』ソーラーパーク奥松島『絆』ソーラーパーク

地域には地域のコミュニケーションの流儀がある

地域の課題解決に共に取り組むといっても、最初は互いに知らない者同士。地元の人たちからの信頼が得られなければ、いくら「この地域のためになりたい」と思っていても、物事は動きません。誰がどんな仕事をしていて何に関心があるのか、みんなが互いによく知っているコミュニティでは、コミュニケーションの取り方も物事の進み方も、都市部、あるいは会社同士のそれとは大きく異なります。取材中にも、こんな会話がありました。

「●●さんが太陽光パネルを敷地内に設置できないかなぁってこないだ言ってたよ」
「え、あの場所にですか?今ちょうど置き場をどうしようかと思っているパネルがあるんですよね」
「本当!?じゃあ今度一緒に話そうよ」

「東松島の人と話すとき、こちらから再エネの話を持ち掛けることはほとんどないんですよね」と南井さんは話します。「再生可能エネルギーが今後多くの自治体に入っていく流れは、世の中の動きからみて不可逆的なものだと思う。でも、それを地域住民が誰に託すのか?と考えたとき、彼らは信頼できない相手を選ばないでしょう。今自分が携わっている活動は、その時に選ばれるための準備だと思っているんです」

主語は、相手の困り事。再エネを主語にしない

南井さんはこう続けます。「私自身のミッションは再エネと地元の産業を掛け合わせて新規事業を作り出すことですが、地元の方と話をするとき最初に再エネを主語にしてしまうとうまくいかない。それはこちらが一方的にやりたいことであって、相手の望むことではないからです」

外からその地域に入り、一緒にそこをより良くするため信頼関係を築きたいのであれば、まず彼らにとっての困り事を理解し、それを主語にする、中心に据えることがスタートになる、と言います。

「移住して数年たちますが、信頼関係が生まれるのに近道はないなと実感しています。私が意識しているのは、相手が困っていることが何なのか、とにかく話を聴くこと。そして、その時自分にできることを行動で返す。ひたすらその繰り返しです。たとえ再エネがその時の問題に役立たなかったとしても、相手の困り事が解決するならそれでいいんです」

それではここで具体的な事例として、東松島に住む人たちの困り事や相談に応える南井さんの活動をいくつか見てみましょう。

鳴瀬カキの収穫作業

朝3時、体の芯まで冷える寒さの中、真っ暗な港にぽつぽつと漁師が集まり始めます。港の外に出るための小さな船を操るのは、東松島のブランド牡蠣「鳴瀬牡蠣」を生産する後藤水産の三代目、後藤晃一さん。南井さんは、地元のつながりから後藤さんと知り合い、収穫作業の人手が足りないことを知り、2023年12月から冬期に行われる牡蠣の収穫作業を手伝っています。

鳴瀬牡蠣の養殖・収穫は独特です。通常牡蠣の養殖には2〜3年を要しますが、海の恵み豊かな松島湾では1年で牡蠣が大きく育ち、収穫することができます。穏やかで豊かな栄養分に恵まれた内湾で種牡蠣(牡蠣の赤ちゃん)を採苗し、浅瀬の厳しい環境にさらし牡蠣を鍛えます。そこから波の荒い外湾に移す(沖出し)ことで、牡蠣はたっぷりと栄養分を蓄え、より大きく育つのです[*2]。

後藤水産では、収穫した牡蠣をその日のうちに加工・出荷しており、収穫作業は時間との勝負です。海に沈む牡蠣の連なるロープをコンベアにひっかけて巻き上げると、ロープと分離された牡蠣がどんどん万丈に注がれていきます。牡蠣で詰まったひとつ30kgにもなる万丈を、陸揚げしやすいよう手際よく3段に積み上げます。この日は約2時間で万丈90箱分を収穫し、夜明けとともに港へ戻りました。

夜明け前の牡蠣の収穫作業

船の中に積みあがる牡蠣の万丈

「しんどい思いをして収穫しても出荷できないレベルの牡蠣は売れない、意味がない。だからどこに良い種牡蠣がいるか、どこに沈めれば大きく育つか、どの海域が収穫に値する大きさ・質に育っているか・・・長年の経験から、常に潮の流れや海の様子を見て決めています。収穫作業は本当に重労働。南井さんが手伝ってくれるから何とか漁ができているといってもいいくらい。自然電力からうちに移ってくれないかなぁ(笑)」と後藤さん。

南井さんはこう続けます。「人手不足だけでなく、今東松島でも海水温上昇が重要な問題になっています。夏は海水温が30℃にもなるため、かつてのように牡蠣が大きく育たなくなっているのです。気候変動は漁師にとって既に身近に迫る脅威となっている。危機感を共有する者同士、何かできることがないか共に模索しています」

石巻西高校「街ミッション」への協力

東松島市の東端にある石巻西高校では「震災を乗り越え持続可能な未来を創造する人材育成プログラム」を掲げ、学校・行政・大学・地元企業の協力のもと、地域への愛着や対話力を育てるカリキュラムを運営しています[*3]。この日南井さんは、地元企業で労働を体験しながら与えられた課題に対する解決策を考え提案する「街ミッション」というプログラムに協力し、1年生4人を受け入れました。

垂直式太陽光パネルを前に説明を聞く石巻西高校の生徒たち東松島エコヴィレッジ鷲塚で営農型太陽光発電について説明する南井さん(右)と、一緒に東松島市で活動する板谷百華さん(左)

東松島エコヴィレッジ鷲塚の垂直式太陽光パネルと畑の組み合わせや、絆ソーラーパークの太陽光パネルを見学しながら、南井さんは高校生に問いかけます。

「自然エネルギーってよく聞くと思うんだけど、具体的にどんなエネルギーがあるかな?」
「携帯を充電するのに実際必要な電気の量って何ワットくらいだと思う?」

「・・・太陽光、風力と・・・水力は・・・違う?」
「30ワットくらいかなぁ」「5ワットくらい?」

じゃあ実際に見てみよう、と南井さんが取り出したのは、40cmサイズの蓄電池。エコヴィレッジ鷲塚の太陽光パネルで発電した電気を貯めているので、純度100%の再生可能エネルギーです。蓄電池に表示される数字を見て、実際の使用量がわかるなんて、とみんな驚いた様子。

蓄電池の電気消費量を見る高校生たち

南井さんは、松島湾の海水温上昇など身近な問題を取り上げながら、地球温暖化の原因について説明します。運輸や工場以上に発電所で排出されるCO2が全体の約4割を占め、中でも火力発電が最もCO2を多く排出すること。でも電気を使わない生活は非現実的であり、発電そのものは止められないこと。「だから、自然電力は自然エネルギーに変えていこうとしている。僕たちが他の電力会社とちょっと違うのは、『地球を楽しむ』をとても大切にしているところ。蓄電池を使って映画上映会をしたり、太陽光パネルでスキーリフトを動かしたり、知り合いと夜中にイカ釣りに行ったときもこの蓄電池を使ったんだよ」

最後は蓄電池で沸かしたお湯でココアを淹れながら、みんなでエネルギーについて話します。「農業と自然エネルギーが組み合わせられると初めて知った」「今日学んだことを家族と話してみようと思う」など、少しエネルギーが身近になったようです。

地域人材育成プログラム「Green Business Producers」のオフサイトプログラム設計

自然電力が主体となって立ち上げた地域人材育成プログラム「Green Business Producers(GBP)」では、地方で社会課題解決に取り組む事例の実地見学(オフサイト)を行っています[*4]。ここ東松島市もその舞台のひとつ。南井さんは、東松島で活動するGBP1期生の板谷百華さんとともに、現地の方々の協力を仰ぎながら、オフサイトのプログラムを設計しています。

地域で課題解決に取り組むリーダーに必要なものは何なのか。震災からの復興という難しい問題に対し、東松島市の人々はどんな想いで行動したのか。行政はどのように市民と合意形成を図ったのか。当事者の生の声を届けることで、受講生が自分の地域で志を実現するために何が必要なのか、自分事として考えてもらうことを大切にしています。

オフサイト研修の設計にあたり「グリーンビジネス(※)の本質を知る」をテーマとし、グリーンビジネスに必要な「カーボンニュートラル・ネイチャーポジティブ・サーキュラーエコノミー」と、3つの社会的概念を実際の現場で学べる機会をつくりました。板谷さんは「研修中は、見学や話を聞くだけではなく、地域の方同士でのトークセッションやワークショップを組み込み、受講生が地域への可能性を感じ、より実践的に考えられるよう工夫しました」と話します。
※環境保全に配慮した、技術・製品・サービスを提供するビジネス

移住コーディネーターとして移住希望者と東松島市をつなぐ関口雅代さんは、このオフサイトプログラムづくりにおける重要人物のひとり。関口さんがつないでくださった市役所職員や農家、漁師、企業経営者など地元で活動する方々は、皆GBPの想いを理解し、ご自身の経験や想いを率直に語り、現場を見せてくださいました。ご自身も関東地方からの移住者だという関口さんに、なぜ地元の方がこれほど外の人を受け入れてくれるのかと尋ねたところ、こんな話をしてくれました。

「野蒜地区は、実は100年以上前に野蒜築港計画という国家プロジェクトがあり、海外からたくさんの移住者が来ていたんです。それに、松島基地の隊員さんは3年周期でどんどん入れ替わっていくから、外から人が入ってくることにもともと慣れていたんだと思います。だから、震災のときも外からの助けを受け入れるか拒絶するかとなったとき、受け入れる道を選べた。そういった背景があるからじゃないでしょうか」

板谷さん、関口さん、南井さん左から、板谷さん、関口雅代さん、南井さん。のれんに映る「ちゃんこ萩乃井」の大将さんも、まちでの取り組みのよき理解者

最後に:再生可能エネルギー100%の世界を”共に”つくるために最も大切なこと

南井さんは自分から多くを語りません。それなのに、会う人みんなが「こちらの要望を聴いて動いてくれる人だから、つい頼ってしまうんだよね」と口をそろえます。そう思わせるものは何なのでしょうか?「街ミッション」の中で、そのヒントになりそうなエピソードがありました。

緊張しているのか、質問に対しても高校生の答えはぎこちなく、沈黙の時間が続きます。そんな中、一人が小さな声で「太陽が出ていないと発電しないなら、雨を使った発電ができたらその間を補えるのかなぁ」と自分の意見を述べました。「すごくいいアイデアだね!もし自然電力で開発できたら、君に発明料を支払うよ(笑)」南井さんが答えると、彼はとてもうれしそうな表情に。そこからその場は一気に打ち解け、みんな少しずつ自分の考えていることを話してくれるようになったのです。

自分の言葉や考えが受け入れてもらえたという喜びは、誰もが持つ感情です。だから、皆自分のことを受け入れてもらいたくて、自分の考えを一生懸命話すだけになりがち。しかし、本当の信頼関係は、お互いに「この人は自分の話を聴いてくれる」と思い合えることから始まるのではないでしょうか。

「”共に”つくるために大切なことは、相手の話が主役だととらえ、相手の話にただ耳を傾けること。主語を自分たち(再エネ)にしない。常に東松島の人たちを主語にして、何かできることがないかと考え行動すること。それに尽きると思います」

 

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参照・引用を見る

*1
東松島市 『東日本大震災復興記録誌』
https://www.city.higashimatsushima.miyagi.jp/shisei/shinsaifukko/fukkyu-fukko-ayumi/fukkokirokushi.files/ReconstructionRecordHMC_digest_web.pdf

*2
後藤水産「鳴瀬牡蠣の育て方から収穫まで」
https://www.gotosuisan.jp/narusekaki/

*3
経済産業省「令和3年度地域との協働による高等学校教育改革推進事業(地域魅力化型成果物)」宮城県 石巻西高等学校 成果物
https://www.mext.go.jp/content/20221101-mext_koukou02-000024131_6.pdf

*4
一般社団法人GBPラボラトリーズ「GBPスクール2期 第2回オフサイト研修@宮城県東松島市を実施しました」
https://gbplab.net/news/gbp-school-offsite2/

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