世界で観測される記録的熱波と地球温暖化の関係とは? 異常気象は今後どこまで進行するのか

2022年夏、世界各地で最高気温が40度を超える記録的な熱波に見舞われました。
国内では、5地域で6月28日に観測史上もっとも早い梅雨明けが宣言され、その後7月上旬にかけて記録的な猛暑が続きました。
厳しい暑さによって熱中症による緊急搬送者も急増し、農作物への影響も懸念されています。

世界各地で発生する熱波は異常気象の一つで、地球温暖化との関連性を明らかにする研究も進んでいます。

また、日本の猛暑には、平年よりも海面水温が低い状態が続くラニーニャ現象も影響しています。
ラニーニャ現象は海面水温が高くなるエルニーニョ現象の反対の現象ですが、どちらも世界的な異常気象の要因となるものです。

地球温暖化の進行によって、今後どこまで異常気象が続くのでしょうか。

 

世界で観測された記録的熱波とその被害

国内には厳密な定義はありませんが、熱波とは一般に35℃を上回るような高い気温が数日間続くことです。
近年では、毎年のように記録的な熱波が世界各地で観測されています。

2022年夏に国内で観測された記録的な熱波

2022年6月28日、近畿、北陸、中国、四国、九州北部の5地域で、観測史上最短で6月中に梅雨明けが宣言されました。
梅雨明け後は、6月末から7月初旬にかけて、東京都心で観測史上最長である9日連続の猛暑日が記録されています[*1], (表1)。

表1: 2022年6月末〜7月初旬にかけての東京都心での猛暑日
出典: 環境省「令和4年夏の記録的な暑さ~今後、更に深刻化するおそれ~」(2022)
https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/ic_rma/R0403/doc02-3-ref1.pdf, p.1

猛暑日とは最高気温が35℃以上の日のことで、2022年の6月は東京都心以外でも全国的に気温が高い状態が続き、各地で40℃超えも観測されました。

このような猛烈な熱波の影響で、6月中から熱中症警戒アラートが多発し、熱中症による救急搬送者や死亡者が急増するという被害が出ています。

1994年〜1998年(平成6年〜10年)と2017年〜2021年(平成29年〜令和3年)の熱中症死亡者の平均値を比較すると、その数はおよそ4倍に増加という驚くべき数字になっています[*1], (図2)。

図2: 熱中症死亡者数の推移
出典: 環境省「令和4年夏の記録的な暑さ~今後、更に深刻化するおそれ~」(2022)
https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/ic_rma/R0403/doc02-3-ref1.pdf, p.4

とくに2018年は記録的な猛暑となり、1946年の統計開始以来もっとも高い夏の平均気温となりました。2022年と同じく梅雨明け直後に全国的に高温が続き、各地で40℃を超える気温が観測されました[*2]。

熱中症による救急搬送数および死亡者数は、2008年の調査開始以降もっとも多くなっています。

 

世界各地で観測された40℃を超える記録的な熱波

2022年は欧州西部のスペインやフランスを中心に、7月下旬から記録的な高温が観測されています。
イギリス東部では最高気温40.3℃を記録し、観測史上最高気温を更新しました。

次の図3は、2022年7月12日〜20日における9日間の平均最高気温です[*3]。

図3: 欧州西部における気象実況
出典: 気象庁「世界の異常気象速報:ヨーロッパ西部を中心とした顕著な高温について」(2022)
https://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/monitor/extra/index.html

スペイン南部のコルドバでは2022年7月12日、13日に43.6℃、フランス南部のトゥールーズでは7月17日に39.4℃を記録しています。
欧州西部での記録的な熱波により、スペインとポルトガルだけでも1,700人以上の死者が出たとWHO(世界保健機関)が発表しています[*4]。

また、熱波の影響により欧州の約半分の地域が干ばつのリスクにさらされており、EUが警告を発令しています[*5]。

スペイン、ポルトガル、フランスでは大規模な山火事も発生し、多くの住民が避難を余儀なくされています。
深刻な干ばつと水不足は農作物の生産に甚大な影響を及ぼし、世界的な食糧危機を招く可能性もあるでしょう。

欧州における顕著な高温は2022年だけでなく、2021年にも発生しています。

2021年には欧州南部の地中海周辺地域で高温が続き、イタリア南部のシチリア島では最高気温48.8℃、スペイン南部のコルドバでは最高気温46.9℃を記録しています[*6]。

さらに2021年は、北半球の広範囲で記録的な高温が続き、ロシアやアメリカ、カナダなどで最高気温が観測されました[*7]。

これらの一連の熱波をもたらした要因としては、偏西風の蛇行による温暖高気圧の発生に加えて、地球温暖化に伴う世界的な気温の上昇が影響したと考えられています[*3, *6]。

 

日本の猛暑の原因となるラニーニャ現象とは

日本の猛暑には、ラニーニャ現象の発生も影響しています。

ラニーニャ現象とは、太平洋赤道付近から南米沿岸の海面水温が平年よりも低くなり、その状態が1年程度の長期間続くことです[*8]。

エルニーニョ現象はラニーニャ現象とは反対に、同じ海域が高い水温になることで、この2つの現象は数年おきに発生します[*8], (図4)。

図4: エルニーニョ現象(左)とラニーニャ現象(右)
出典: 気象庁「エルニーニョ/ラニーニャ現象とは」
https://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/data/elnino/learning/faq/whatiselnino.html

ラニーニャ現象とエルニーニョ現象はどちらも、世界規模で異常気象を引き起こす要因となります。

日本では、夏にかけてラニーニャ現象が発生すると、西太平洋熱帯域の海面水温が上昇し、太平洋高気圧が北に張り出すことで気温が上昇します。

さらに、南からの湿った気流の影響によって、沖縄・奄美では降水量が多くなる傾向があります[*9]

気象庁の発表では、2021年秋に発生したラニーニャ現象が2022年の夏も継続しています。
今後は秋の間に平常時の状態に戻る可能性が40%、2023年の2月まで続く可能性が60%と予測されています[*10], (図5)。

図5: エルニーニョ/ラニーニャ現象の発生確率(予測期間:2022年6月〜2022年12月)
出典: 気象庁「エルニーニョ監視速報」(2022)
https://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/elnino/kanshi_joho/kanshi_joho1.html

ラニーニャ現象が冬季まで継続すると、平年より気温が低い厳冬となり、豪雪災害が発生する可能性も高まります。

 

熱波と地球温暖化の関係とは

熱波をはじめとした異常気象が発生する背景として、地球温暖化による気候変動が影響していると考えられています。
地球温暖化の影響は、気温の上昇によって暖かい日が増えて、寒い日が減るというだけではありません。

地球全体を対象にコンピューターでシミュレーションする気候モデルを用いた研究によって、熱波や寒波、豪雨や干ばつなどの極端な気象現象と地球温暖化に関連があることが分かってきています。

地球温暖化によって、年間の平均気温の上昇だけでなく猛暑日も増加しています[*11], (図6)。

図6: 全国の猛暑日の年間日数の経年変化(1910~2021年)
出典: 気象庁「大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化 [全国(51地点平均)の日降水量200mm以上の年間日数]」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/extreme/extreme_p.html

1992年〜2021年の直近30年間と、統計が開始された1910年〜1939年の30年間を比較すると、猛暑日の年間平均日数は、約3.3倍に増加しています。

気象庁が実施した気候モデルによる数値シミュレーションによれば、猛暑をもたらす熱波は地球温暖化がなければ起こりえなかったと評価されています[*12]。

2018年の記録的猛暑と地球温暖化との関連性も検証されており、地球温暖化がなければ猛暑は発生しなかったことも明らかになっています。

次の図7は、日本上空約1,500mの月平均気温頻度分布です。温暖化がある場合とない場合の気候条件でそれぞれシミュレーションしています[*13]。

図7: 気候条件を変えて⾒積もった平成30年7⽉の猛暑の発⽣確率
出典: 気象庁気象研究所報道発表「平成30年7⽉の記録的な猛暑に地球温暖化が与えた影響と猛暑発⽣の将来⾒通し」(2019)
https://www.mri-jma.go.jp/Topics/R01/010522/press_release.pdf, p.7

青の点線が温暖化なしの気候条件、赤線が温暖化ありの気候条件による結果で、温暖化がなければ、2018年(平成30年)7月のような高温が発生する確率は、かぎりなく0に近くなっています。

さらに、夏に猛暑をもたらす二段重ね高気圧がなかったとしても、温暖化が発生している現在の気候条件においては、猛暑となる可能性が12.2%となっています。

また、異常気象を引き起こすエルニーニョ現象やラニーニャ現象と地球温暖化の関連性に関しては、地球温暖化が原因である可能性を示す調査結果がある一方で、自然変動であるという説もあり、研究者によって意見が分かれています。

今後、地球温暖化が進行することによって、エルニーニョ現象やラニーニャ現象が頻発し、気候に影響を及ぼす規模が大きくなるのかに関しても、現状では結論はでていません[*14]。

 

地球温暖化による今後の気象予測

地球温暖化の進行によって、将来も気温上昇が続くことが予測されています。

複数の気候モデルを用いた気温上昇の将来変化予測では、温室効果ガス排出量が最大となるRCP8.5シナリオにおいて、21世紀末の年平均気温は2.6〜4.8℃上昇すると予測されています[*15], (図8)。

図8: 世界の年平均気温の将来変化
出典: 環境省「気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018 ~日本の気候変動とその影響~」(2018)
https://www.env.go.jp/content/900449806.pdf, p.1

猛暑日も増加する見込みで、将来(2076年〜2095年)と20世紀末(1980年〜1999年)を比較すると沖縄・奄美では54日も増加することが予測されています[*16], (図9)。

図9: 猛暑日の年間日数の地域別変化量(左)と変化分布図(右)
出典:国土交通白書2020「第2節 地球環境・自然災害に関する予測」(2020)
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r01/hakusho/r02/html/n1221000.html

熱波は、私たちの生活や産業に大きな影響を与えます。

熱中症などの健康被害や農作物の品質低下、生態系の破壊などのさまざまなリスクがあります。
猛暑日が増加している日本では、適切な熱中症対策をしなければ、日常生活のなかで命が脅かされる危険があります。

すでに進行している温暖化が引き起こす熱波への適応方法を身につけるとともに、地球温暖化の進行を抑える緩和策に積極的に取り組むことが重要です。

 

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参照・引用を見る

*1
環境省「令和4年夏の記録的な暑さ~今後、更に深刻化するおそれ~」(2022)
https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/ic_rma/R0403/doc02-3-ref1.pdf, p.1 p.4

*2
気象庁「平成30年報道発表資料 夏(6〜8月)の天候」(2018)
https://www.jma.go.jp/jma/press/1809/03c/tenko180608.html

*3
気象庁「世界の異常気象速報:ヨーロッパ西部を中心とした顕著な高温について」(2022)
https://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/monitor/extra/index.html

*4
NHKニュース「欧州で40度超の猛暑 WHO『死者1700人以上 各国は連携対応を』」(2022)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220723/k10013732301000.html

*5
国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター「581. EUとイギリスの半分近くが干ばつリスク」(2022)
https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20220719

*6
気象庁「世界の異常気象速報:ヨーロッパ南部を中心とした顕著な高温について」(2021)
https://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/monitor/extra/extra20210817.html

*7
気象庁「世界の異常気象速報:北半球の顕著な高温について」(2021)
https://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/monitor/extra/extra20210701.html

*8
気象庁「エルニーニョ/ラニーニャ現象とは」
https://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/data/elnino/learning/faq/whatiselnino.html

*9
気象庁「日本の天候に影響を及ぼすメカニズム」
https://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/data/elnino/learning/faq/whatiselnino3.html

*10
気象庁「エルニーニョ監視速報」(2022)
https://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/elnino/kanshi_joho/kanshi_joho1.html

*11
気象庁「大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/extreme/extreme_p.html

*12
国土交通省白書「気候変動に伴う災害の 序 章 激甚化・頻発化
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r03/hakusho/r04/pdf/np100000.pdf, p.5

*13
気象庁気象研究所報道発表「平成30年7⽉の記録的な猛暑に地球温暖化が与えた影響と猛暑発⽣の将来⾒通し」(2019)
https://www.mri-jma.go.jp/Topics/R01/010522/press_release.pdf, p.7

*14
気象庁「よくある質問(エルニーニョ/ラニーニャ現象)」
https://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/data/elnino/learning/faq/faq8.html

*15
環境省「気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018 ~日本の気候変動とその影響~」(2018)
https://www.env.go.jp/content/900449806.pdf, p.1

*16
出典:国土交通白書2020「第2節 地球環境・自然災害に関する予測」(2020)
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r01/hakusho/r02/html/n1221000.html

 

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