「地中熱」を利用? ヒートアイランド現象の現状と最新の対策を紹介!

近年、都市化が進んでいる地域ほど、平均気温、日最高気温、日最低気温の上昇率が大きい傾向にあり、その影響が深刻化しています[*1]。

都市の中心部の気温が郊外と比べて高くなることをヒートアイランド現象と言いますが、その緩和に向けて様々な対策が実施されています。特に近年、対策の一つとして再生可能エネルギーである「地中熱」を活用した取り組みにも注目が集まっています[*2]。

地中熱を活用したヒートアイランド対策とはどのようなものなのでしょうか。ヒートアイランド現象の原因と併せて、詳しくご説明します。

ヒートアイランド現象のメカニズムと現状

ヒートアイランド現象とは

ヒートアイランド現象とは、都市の気温が周囲よりも高くなる現象のことです。気温の分布図を描くと、高温域が都市を中心に島のような形状となることから、ヒートアイランド現象と呼ばれています[*3]。

近年、地球温暖化の影響が深刻化していますが、その仕組みや規模はヒートアイランド現象と異なります[*4]

地球温暖化は、大気中の温室効果ガスの増加等によって気温が上昇する現象で、その広がりは地球規模ですが、ヒートアイランド現象は都市を中心とした限定的なものです[*4], (図1)。


図1: ヒートアイランド現象の仕組みの概念図
出典: 気象庁「ヒートアイランド現象と地球温暖化は違うのですか?」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/himr_faq/03/qa.html

また、ヒートアイランド現象は、温室効果ガス由来ではなく、人工的な構造物や排熱などによって気温が上昇する点が大きな違いと言えます。

国内外におけるヒートアイランド現象

ヒートアイランド現象は、国内外の都市において広く発生しています。国内においては、東京、名古屋、大阪の3都市と、都市化の影響が比較的小さいとみられる網走や山形、宮崎などの15地点とでは年平均気温の推移をみると気温の上昇率に差があるため、その影響が顕在化していることが分かります[*4], (図2)。


図2: 国内の都市と地域における年平均気温偏差及び日本近海の海面水温の推移
出典: 気象庁「ヒートアイランド現象と地球温暖化は違うのですか?」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/himr_faq/03/qa.html

都市化の影響が比較的小さい15地点の平均気温と日本近海の海面水温も上昇傾向にありますが、東京など3都市の上昇率はそれらを上回っています

海外の都市でも、都市化によるヒートアイランド現象は深刻化しています。例えば、ニューヨークやパリ、ベルリンなどの大都市では、世界平均気温の上昇率と比べるとその上昇率が高くなっています[*5]。

また、2023年7月には、アメリカのアリゾナ州フェニックスにおいて30日連続で最高気温43℃以上を記録しました。気温が最も高い時期には、直射日光にさらされたアスファルト舗装、コンクリート舗装の表面温度が82℃にまで達することもあるとされ、世界各国でもヒートアイランド現象が深刻化しています[*6]。

ヒートアイランド現象の主な原因

ヒートアイランド現象は、様々な要因が重なることで発生します。主な原因として今回は、人工排熱の増加、地表面被覆の人工化、都市形態の高密度化の3点を解説します[*7], (図3)。


図3: ヒートアイランド現象の原因
出典: 環境省「1. ヒートアイランド現象とは」
https://www.env.go.jp/air/life/heat_island/guideline/h24/chpt1.pdf, p.4

人工排熱の増加

都市では日々、商業施設や住宅に設置されている空調機器や自動車、工場や火力発電所、ごみ焼却場から熱が排出され、これらの熱によって都市の大気が暖められています[*7], (図4)。


図4: 様々な人工排熱
出典: 環境省「1. ヒートアイランド現象とは」
https://www.env.go.jp/air/life/heat_island/guideline/h24/chpt1.pdf, p.5

これらから排出される熱を人工排熱と言いますが、東京23区におけるその排出源を見ると、建物からの排熱が全体の50%、自動車など交通からが28%、事業所からが20%となっています[*8]。

人工排熱からどの程度気温が上昇するのでしょうか。東京大学等の研究グループによると、エアコン利用による人工排熱は、人工排熱が出ない場合と比較すると、以下のように平均気温が変化するとしています[*9], (図5)。


図5: エアコン由来の人工排熱の有無による8月平均気温の変化
出典: 国立研究開発法人 産業技術総合研究所「気候変動に伴う暑熱関連死亡の将来予測」
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2023/pr20231228/pr20231228.html

エアコンによる人工排熱が発生した場合の平均気温は、人工排熱が発生しなかった場合のシナリオと比較して現在・過去気候条件下で0.046℃の差が生じます。また、気候変動により日本付近の気温が3℃上昇したシナリオだと、その気温は0.181℃上昇することが予測されています[*9]

地表面被覆の人工化

緑地が減り、アスファルトやコンクリートなど人工的な被覆面が増えることも、ヒートアイランド現象の発生につながります[*7], (図6)。


図6: 地表面の状態と気温の関係
出典: 環境省「1. ヒートアイランド現象とは」
https://www.env.go.jp/air/life/heat_island/guideline/h24/chpt1.pdf, p.8

植物は、地表の温度を抑制するのに重要な役割を果たします。植物は葉から水分を蒸発させる蒸散作用を通じて、周囲の大気を冷やします。このプロセスでは、熱が大気に放出されるのではなく、水蒸気として植物から離れる際に周囲から熱を奪い、その結果、周囲の空気が冷却されます。また、大きな木は日射を遮ることで、地表面温度の上昇を抑制します。

一方で、東京23区などの都市では、緑地の少なさが大きな課題となっています[*10]

例えば、江東区における緑被率(樹木、草地、屋上緑化など緑に覆われた部分の割合)は、区全体のおよそ21%程度となっています。なお、樹林地の多い仙台市の緑被率は78.4%となっており、自治体によって大きな差があります[*11, *12], (図7)。

図7: 江東区における緑被地分布図
出典: 江東区「緑被率及び緑視率調査の結果について」
https://www.city.koto.lg.jp/470132/machizukuri/midori/green/documents/09r4midorinojittaityosagaiyouban.pdf, p.1

都市形態の高密度化

建物が密集すると、風向きによっては地上近くを流れる風が弱くなり、熱が十分に拡散されず、空気が上昇する力が低下することがあります[*7]。

高層ビル群がない場合とある場合における風の変化を見ると、高層ビル群がある場合には、その風下地域で部分的に弱まることがあることが分かっています[*7], (図8)。

図8: 高層ビル群がある場合とない場合の風の計算結果
出典: 環境省「1. ヒートアイランド現象とは」
https://www.env.go.jp/air/life/heat_island/guideline/h24/chpt1.pdf, p.11

また、高いビルが密集した地域では、天空率(空の見える割合)が低くなります。そのような場所では、夜間における冷却が進まず、日中にたまった熱が明け方まで持ち越されやすくなります[*7], (図9)。

 

図9: 天空率と放射の関係
出典: 環境省「1. ヒートアイランド現象とは」
https://www.env.go.jp/air/life/heat_island/guideline/h24/chpt1.pdf, p.11

以上のように、都市においては建物が密集することでもヒートアイランド現象が発生しやすくなっています。

ヒートアイランド現象への主な対策
行政による対策

都市部では、様々なヒートアイランド対策が実施されています。例えば、横浜市では「暑さをしのぐ環境づくりのためのヒントマップ」とその手引きを作成し、建築、開発、まちづくりの際にできる取り組みを紹介しています[*13], (図10)。

図10: 都市環境気候図を活用した暑さをしのぐ環境づくりの手引き
出典: 横浜市「ヒートアイランド対策」
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/machizukuri-kankyo/ondanka/etc/heat.html

同手引きでは、市内における地域ごとの風の吹き方や緑被率を知ることができるとともに、それらを踏まえた具体的な取り組みを例示しています。

例えば、横浜駅周辺の地域では、風を利用した住宅設計や、植樹や菜園づくりなど敷地内の緑の創出、室外機からの排熱を歩行空間に向けて出さないなどの取り組みが例示されています。

また、横浜市では、身近なヒートアイランド対策として打ち水のやり方についても資料を公開しており、住民に呼びかける取り組みを展開しています。

「地中熱」を利用した対策

地中熱による対策とは

緑化や打ち水など従来のヒートアイランド対策以外にも、「地中熱」と呼ばれる再生可能エネルギーを活用した取り組みも近年注目を集めています。

地中熱とは、深さ10mほどのところにある地中の熱のことです。地中の温度は一定であるため、夏は外気温より低く、冬は外気温より高いという特徴を利用して冷暖房等を行うことが可能です[*14]

この地中熱を活用した冷暖房・給湯システムを「地中熱利用ヒートポンプ」と言います。地中熱利用ヒートポンプは排熱を大気中に放出せず、地中に放熱するため、ヒートアイランド現象の緩和にも役立ちます[*14], (図11)。

図11: 地中熱ヒートポンプの仕組み
出典: 環境省「地中熱とは?」
https://www.env.go.jp/water/jiban/post_117.html

2021年度末時点で国内の地中熱利用ヒートポンプ累計設置件数は3,218件であり、主に戸建住宅、事務所、庁舎等で広く利用されています[*15], (図12)。

図12: 地中熱利用ヒートポンプを用いた施設別累計設置件数(2021年度末時点)
出典: 環境省「地中熱利用にあたってのガイドライン(第4版)」
https://www.env.go.jp/content/000122999.pdf, p.8

海外では日本と比べて地中熱利用ヒートポンプの導入が進んでおり、設備容量で見ると中国がトップで、その後にアメリカ、スウェーデンが続きます。また、日本と同程度の国面積であるドイツやフィンランドでも、日本の約10倍以上の地中熱が利用されているため、日本でもさらなる導入に向けた取り組みを促進させることが求められています[*15], (図13)。

図13: 地中熱利用ヒートポンプの国別累計設備容量
出典: 環境省「地中熱利用にあたってのガイドライン(第4版)」
https://www.env.go.jp/content/000122999.pdf, p.9

個人が地中熱利用ヒートポンプを導入するには

地中熱利用ヒートポンプは戸建住宅でも設置できるため、個人でもできるヒートアイランド対策の一つです。一方で、導入にはコストがかかるため、設置が難しいという方もいるかもしれません。

その場合には、自治体等が実施する補助金等がないか確かめてみるのも良いでしょう。例えば、仙台市では「熱利用システム導入支援補助金」を実施しており、住宅への地中熱利用システム導入にかかる費用の5分の1まで(上限50万円)を補助しています[*16]。 

まとめ

ヒートアイランド現象の主な原因や自治体で行われている対策等について紹介してきました。

今回紹介してきたように、地中熱を活用したヒートポンプなど、自治体だけでなく家庭でもできる取り組みは多くあります。

ヒートアイランド現象の緩和に向けて、地中熱のような再生可能エネルギーの活用など新しい取り組みを検討してみてはいかがでしょうか。

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参照・引用を見る

*1
気象庁「気温の長期変化傾向と都市化率の関係」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/himr/himr_1-2.html

*2
環境省「ヒートアイランド対策技術分野(地中熱・下水等を利用したヒートポンプ空調システム)」
https://www.env.go.jp/policy/etv/field/fp06/index.html

*3
気象庁「ヒートアイランド現象とはどのようなものですか?」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/himr_faq/01/qa.html

*4
気象庁「ヒートアイランド現象と地球温暖化は違うのですか?」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/himr_faq/03/qa.html

*5
気象庁「都市化の影響は外国の都市でも現れているのですか?」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/himr_faq/06/qa.html

*6
Reuters「アングル:灼熱の都市部、ヒートアイランド現象で世界的酷暑が悪化」
https://jp.reuters.com/article/world/-idUSKBN2ZE0G7/

*7
環境省「1. ヒートアイランド現象とは」
https://www.env.go.jp/air/life/heat_island/guideline/h24/chpt1.pdf, p.4, p.5, p.8, p.11, p.12, p.13

*8
東京都環境局「夏の暑さ対策の手引」
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/kankyo/heat_island-regulation-files-atsusa_tebiki_h30kaitei, p.29

*9
国立研究開発法人 産業技術総合研究所「気候変動に伴う暑熱関連死亡の将来予測」
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2023/pr20231228/pr20231228.html

*10
東京都「緑の現状」
https://www.tokyogreenery.metro.tokyo.lg.jp/green-situation/situation.html

*11
江東区「緑被率及び緑視率調査の結果について」
https://www.city.koto.lg.jp/470132/machizukuri/midori/green/documents/09r4midorinojittaityosagaiyouban.pdf, p.1

*12
仙台市「杜の都の緑の分布 仙台市」
https://www.city.sendai.jp/ryokuchihozen/kurashi/shizen/midori/documents/chosakekka.pdf, p.2

*13
横浜市「ヒートアイランド対策」
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/machizukuri-kankyo/ondanka/etc/heat.html

*14
環境省「地中熱とは?」
https://www.env.go.jp/water/jiban/post_117.html

*15
環境省「地中熱利用にあたってのガイドライン(第4版)」
https://www.env.go.jp/content/000122999.pdf, p.8, p.9

*16
仙台市「熱利用システム導入支援補助金」
https://www.city.sendai.jp/ondanka/syoene/netsuriyousetubi.html

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