地球表面積の約4割を占めている乾燥地域は、植物の生育が難しく土地が劣化しやすい地域です。
地球温暖化対策の一つとして、劣化してしまった乾燥地域の土地を植林により再生し、二酸化炭素の吸収源や炭素の貯留庫として機能させる取り組みが注目されています。
この記事では乾燥地植林という取り組みが地球温暖化解決に貢献するメカニズムと技術をご紹介します。
乾燥地植林とは 〜乾燥地が抱える問題〜
世界の地表面積の41%は乾燥地域です。さらに乾燥地域の10%〜20%はすでに劣化しており植物が生育できない地域となっています。
乾燥地の定義には乾燥の度合いを示す乾燥度指数が使用されます。
乾燥度指数は年間降水量と蒸発散量から計算され、乾燥度指数が0.05より低いと雨期はなく人間が生活するには極めて難しい極乾燥地域に区分されます。
図1の濃いオレンジ色の部分は極乾燥地域で、アフリカのサハラ砂漠や中国のタクラマカン砂漠などがあります。極乾燥地域には土地が劣化して砂漠化してしまったところもあります。
図1 乾燥地域の分布
*出典1:環境省「砂漠化する地球 -その現状と日本の役割- 砂漠化とは?」
http://www.env.go.jp/nature/shinrin/sabaku/download/p1.pdf
オレンジ色は乾燥地域で乾燥度数は0.05〜0.2の間、黄色の半乾燥地域は乾燥度数は0.2〜0.5の間で乾燥地域よりも降水量も多くなります。
このような乾燥地域と半乾燥地域では草原が主流となっています。
乾燥地域や半乾燥地域は土地が劣化しやすく、過剰な耕作や開墾、過剰放牧、農地転用などにより砂漠化が進行しています。
地球温暖化による気候変動や干ばつといった気候的な要因も砂漠化の一因となります。
以下の図2に示されるように、このような人為的・気候的要因による乾燥地域の変化は、さらに土地の劣化を促進させる悪循環を引き起こします。
図2 人為的要因による乾燥地の変化
*出典2:環境省 「人々の暮らしと砂漠化対処」(2011)p3
https://www.env.go.jp/nature/shinrin/sabaku/download/panph.pdf
乾燥地をはじめとする土地の劣化や森林減少は、地球温暖化の原因となるCO2の排出量を増やします。
図3は土地利用形態の変化による炭素排出量の推移です。
図3 土地利用形態の変化による炭素排出量の推移
*出典3 環境省「企業とNGO/NPOのパートナーシップによる世界の森林保全に向けて」p6
https://www.env.go.jp/nature/shinrin/fpp/common/pdf/guidebook.pdf
このような現状を受けて、乾燥地の植林・緑化活動が世界各国で広がっています。
乾燥地の植林は本来植物が生育できる環境であったが劣化してしまった土地の再生を目指すものと、もともと自然に植物が育ちにくい土地に工夫して植林する方法があります。
乾燥地の植林は炭素貯留量のマイナスを取り戻すだけでなく新たに二酸化炭素を吸収することが可能となり地球温暖化に大きく役立ちます。
乾燥地植林ではその地域の植物の生育環境を考慮する必要があります。
例えばもともと草原であった地域では降水量の関係から、高木を植林して森林を形成してしまうと水消費のバランスが保てなくなります。
森林は貯水効果は高いのですが、蒸散で大量の水を消費するうえに、降水量を増やすことは期待できないためです。
中国の黄河地域で1970年代以降から実施された大規模な植林では、水の循環体系に悪影響を与えた事例もあります。
植林により森林面積の増加に成功した一方で、樹木が多くの水を消費することから河川や湖に流れ込む水量が減り水不足を引き起こしています。
水が不足している土壌では植物は成長しにくいだけでなく、病気にもかかりやすく安定性が低くなっています。
乾燥地植林では水資源を保全しながらどのように植林事業を実施していくべきなのか、100年単位の長期的な視点で土地の回復を考慮する必要があります。
乾燥地植林と地球温暖化対策
ご紹介したように、乾燥地植林の活動は地球温暖化の進行を食い止める効果が期待されています。
次に植林が地球温暖化解決に貢献するメカニズムをご紹介します。
図4に示すとおり、樹木は光合成により大気中の二酸化炭素を吸収し、根(土壌)から吸い上げた水を消費して酸素と炭素を生成します。
酸素は気孔から大気中に発散され、炭素は樹木の成長のための栄養分となります。
図4 樹木の光合成のしくみ
*出典4:林野庁「森林は二酸化炭素を吸収し、地球温暖化の防止に貢献しています」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/sin_riyou/ondanka/con_2.html
大気中から吸収した炭素は森林内に蓄積され、落ち葉などにより土壌にも貯留されます。
植林を実施することで土壌を含めた炭素蓄積を増大させ、伐採後も土壌に蓄えられた炭素蓄積は着実に増加していきます。(図5)
図5 植林の実施前後における炭素蓄積量の変化
*出典5:国立環境研究所 地球環境研究センター「植林による温暖化対策」(2010)
https://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/3/3-2/qa_3-2-j.html
つまり植林は長期的に見て炭素蓄積量を増やすことが出来るのです。
世界の乾燥地の面積は地表面積の41%もあります。
地球上で大きな割合を占めている乾燥・半乾燥地域に植林をすれば、膨大な二酸化炭素の吸収源、炭素の貯留庫として生まれ変わる可能性を秘めています。
地球温暖化を食い止めるために乾燥地植林は大きな効果が期待されています。
1997年に地球温暖化防止のために採択された京都議定書では、CDM(Clean Development Mechanism:クリーン開発メカニズム)という途上国における植林事業が地球温暖化対策の一つとして認められています。
一方で森林が減少するスピードと比較すると植林は時間がかかります。
森林は伐採されると数年間のうちに蓄積された炭素が排出されます。
排出された炭素を再吸収するには、樹木が成長するまでの数十年単位の時間が必要になります。
そのため植林は短期的に効果が期待できるものではありません。
乾燥地植林は地球温暖化だけでなく生物多様性やその地域に住む人々の生活環境向上にも効果が期待されています。
植林は地球温暖化の早急な解決策ではありませんが、長期的な効果を見据えて着実に進めていく必要があります。
世界での植林活動と乾燥地植林の技術
世界の植林活動と森林面積の変化
地球温暖化対策としても期待されている乾燥地の植林・緑化は世界各国で進められています。
まずご紹介するのは2010年から2015年にかけての世界の森林面積の国別純変化です。
世界の森林は減少面積が8169haに対し増加面積はわずか1552ha、植林などの緑化活動よりも圧倒的に早いスピードで森林は減少しています。
このように森林は世界的に見て減少が著しいですが、一部で森林面積が増加している国もあります。
図6の緑色の国は森林面積が増加しています。
図6 世界の森林面積の国別純変化(2010年〜2015年、年平均)
*出典6:環境省「森林と生きる」(2016)p2
https://www.env.go.jp/nature/shinrin/download/forest_pamph_2016.pdf
次の図7は国別の2010年から2015年の森林面積の変化です。
図7 森林面積の変化の大きな国10カ国(2010年〜2015年、年平均)
*出典6:環境省「森林と生きる」(2016)p2
https://www.env.go.jp/nature/shinrin/download/forest_pamph_2016.pdf
中国やオーストラリアは内陸に乾燥地域を有する国ですが、積極的な植林活動により森林面積が増加しています。
中国は世界で4番目に国土面積の広い国で、内陸部は砂漠などの乾燥地域が多く人口の急増などにより砂漠化が深刻化しています。
そのため緑化活動や大規模な植林が国家プロジェクトで進められています。
オーストラリアは国土の3分の2が乾燥地域で、20年以上前から乾燥地の植林プロジェクトが進められています。
次に世界の地域別の植林の動向を見てみましょう。(図8)
図8 世界の植林の動向(1990年〜2010年)
*出典7:一般社団法人 海外産業植林センター「世界の森林の現状と産業植林の課題」(2015)p7
http://www.jopp.or.jp/event/pdf/20150816001.pdf
図8でアジアで植林(人工林)面積が大きく増加しているのは、先にふれたように大部分が中国での植林事業の成果です。
植林は世界全体でも増加傾向にあり、2010年の時点で森林面積の約7%を占めています。
乾燥地植林の技術
植物が育ちにくい乾燥地に植物を生育するのは容易ではなく、さまざまな技術が必要です。
乾燥地では降水量が少ないだけでなく、雨量の流入が少なくなることで土壌の塩分濃度が高くなる塩類集積の問題もあります。
そのため乾燥地では、乾燥や塩分などのストレスに耐えて成長できる樹種を選択する必要があります。
西オーストラリアの乾燥地の植林では、高い塩分濃度でも成長が旺盛なユーカリの一種が選択されました。
さらに塩類集積地では塩分の影響を回避するために、1m程度のパイプを使用する試みにより森林化を目指しています。
図9 樹種の選択
*出典8:森林総合研究所「熱帯乾燥地に炭素を蓄える」(2008)
https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2008/documents/p10-11.pdf
西オーストラリアの乾燥地域では、塩類集積地以外にハードパン型土壌と呼ばれる表土が硬い地域もあります。
ハードパン型土壌は土が固まって表面が硬い層となり水を通さないため、雨が降っても土壌にしみこまず植物の生育が難しい土地です。
ハードパン型土壌では表面の硬い層を爆破して土壌を改善してから植林を実施します。
また中国の内陸部に多い砂漠では、風による砂の移動により植物が育ちにくくなっています。
砂漠で植林を実施するには、砂の移動を抑えて水を管理することが重要です。
そのため砂漠では草方格と呼ばれる砂防技術を利用して、植林が行われます。
草方格とは枯れ草や麦わらなどを地面に押し込んで1m四方の格子をつくり、砂の移動を抑える仕組みです。
図10 草方格が施行された砂丘斜面
*出典9:環境展望台HP「砂漠緑化」
https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=97
まずは乾燥地域で生育可能な植物の種をまき、その上に枯れ草や麦わらを並べて押し込んでいきます。
枯れ草や麦わらは保水力があるだけでなく、後に肥料にもなることで植物の生育を助けます。
草方格は砂防と植林を同時に行える植栽技術です。
このように乾燥地には塩類集積地、ハードパン型土壌、砂漠といったさまざまな環境があり、それぞれの気象条件や環境に適した植林手法を取り入れる必要があります。
乾燥地での環境ストレスに強い植物の品種開発も進められています。
まとめ
乾燥地植林は新たに二酸化炭素を吸収し、炭素の貯留庫を作り出す有用な地球温暖化対策として期待されています。
2015年に採択された国連の持続可能な開発目標(SDGs)の目標15「陸の豊かさも守ろう」では世界全体の新規植林及び再植林を増大させることをターゲットとしています。
また乾燥地の砂漠化にも対処し、砂漠化、干ばつ及び洪水の影響を受けた土地を回復し、土地劣化に加担しない世界の達成に尽力することを目標としています。
海に囲まれた日本に乾燥地はなく、植林事業に関しても日本国内での活動は限られています。
しかし世界的に見ると乾燥地は地表面積で約4割を占めており、乾燥地の植林は大きな意味を持っています。
そして乾燥地の土地劣化は地球温暖化により引き起こされる気候変動とも関係しており、私たちの生活で排出されている二酸化炭素が原因の一つとなっています。
植林は数十年、数百年単位で考えるべき時間のかかる事業ではありますが、地球温暖化解決へと繋がる壮大なプロジェクトです。
私たちの暮らしにおいても決して無関係な話ではありません。
まずは乾燥地植林の意義や土地再生の重要性を知ることからはじめてみましょう。
参照・引用を見る
- 環境省「砂漠化する地球 -その現状と日本の役割- 砂漠化とは?」
http://www.env.go.jp/nature/shinrin/sabaku/download/p1.pdf
- 環境省 「人々の暮らしと砂漠化対処」(2011)p3
https://www.env.go.jp/nature/shinrin/sabaku/download/panph.pdf
- 環境省「企業とNGO/NPOのパートナーシップによる世界の森林保全に向けて」p6
https://www.env.go.jp/nature/shinrin/fpp/common/pdf/guidebook.pdf
- 林野庁「森林は二酸化炭素を吸収し、地球温暖化の防止に貢献しています」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/sin_riyou/ondanka/con_2.html
- 国立環境研究所 地球環境研究センター「植林による温暖化対策」(2010)
https://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/3/3-2/qa_3-2-j.html
- 環境省「森林と生きる」(2016)p2
https://www.env.go.jp/nature/shinrin/download/forest_pamph_2016.pdf
- 一般社団法人 海外産業植林センター「世界の森林の現状と産業植林の課題」(2015)p7
http://www.jopp.or.jp/event/pdf/20150816001.pdf
- 森林総合研究所「熱帯乾燥地に炭素を蓄える」(2008)
https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2008/documents/p10-11.pdf