フードロスを減らして、命や資源を大切にする社会を

節分の後、売れ残りの恵方巻きが大量に捨てられいる報道を見て、ショックを受けた方も多いのではないでしょうか。食品の廃棄は食料資源を無駄にしているだけでなく、飢餓、環境破壊、そして貴重なエネルギー資源の損失にもつながっています。

ここでは食品廃棄、すなわちフードロスについて考えていきます。

[1]フードロスってなに?

フードロスとは、人が食べるためにつくられた食品が失われたり、捨てられたりしてしまうことです。

定義の方法として、「フードロス(Food Loss)」を「食品の量的、質的な価値の減少」、「まだ食べられるのに廃棄(Waste)されてしまうこと」を「フードウェイスト(Food Waste)」と分けて考える場合もありますが、両者の線引きは明確にはできません。

日本では「フードロス」という語を、フードロスとフードウェイストの総称として使うのが一般的です。ここでもそれにならって説明していきます。

[2]こんなに多くの食品が捨てられている

日本で失われたり捨てられたりしている食品は、2015年度推計で、一般家庭と食品関連事業者をあわせて年間2842万tに達します。

そのうち、本来食べられるのに、売れ残ったり食べ残したり規格外のために捨てられる食品の量は、646万tに及びます。これは10tトラック1770台分の食品を毎日捨てているのと同じです。また、国民一人ひとりが毎日お茶碗1杯分のご飯を捨てているのに相当します。

世界全体では、年間約13億tの食品が廃棄されています。これは人間が食べるために生産された食料の3分の1に当たります。

 

<図1>フードロスの発生量

*図出典:農林水産
http://www.maff.go.jp/kinki/syouhi/mn/iken/attach/pdf/30nendo-8.pdf

 [3]フードロスはなぜ起きる?
日本におけるフードロスの要因

食べられるはずの食品がなぜこんなに捨てられてしまうのでしょうか。日本における主な要因を紹介します。

〈一般家庭〉

一般家庭のフードロスは、食べ残し、皮を厚く剥く、食べられる部分まで捨てる、冷蔵庫に入れたまま腐ったり期限切れになった、といった理由で発生することが多くなっています。先に紹介した<図1>を見ると、そうした理由で289万tもの食品が廃棄されていることがわかります。ちなみに家庭から出る生ごみのうち、10.3%は「手つかず」、13.6%は「食べ残し」と見られています。

〈製造・卸・小売〉

過剰生産や過剰在庫、流通や調理の過程で発生する規格外品、賞味期限切れによる返品、売れ残りなどが、メーカー・卸・小売業者におけるフードロスのおもな要因です。

この三者のあいだに存在する「3分の1ルール」という商習慣も大きな要因になっています。3分の1ルールとは、例えば賞味期限が180日の商品の場合、製造日から賞味期限までの3分の1にあたる60日以内に、卸業者から小売店に納品しなければならないというものです。それよりも納品が遅れた商品は、卸業者からメーカーに返品されたりディスカウントショップなどに転売されることもありますが、ブランドの価値を守ったり値崩れを防ぐといった目的から廃棄される食品が多いのが現状です。

この3分の1ルールは1990年代に、商品の鮮度を保つ目的などのために始まったとされています。欧米にも同じような習慣がありますが、アメリカは2分の1、イギリスは4分の3です。日本の納品期限が諸外国と比べて短いのは、日本人の鮮度や品質に対する過度のこだわりが背景にあると思われます。

〈外食産業〉

外食産業のフードロスは、過剰在庫、破損、食べ残しなどによって発生しています。食べ残しの割合を見ると、宴会で約14.2%、披露宴で約12.2%、食堂やレストランで約3.6%の食品が捨てられています。

途上国のフードロス

フードロスは先進国だけの問題ではありません。途上国でも約3分の1の食品が捨てられています。

しかしその背景は先進国とかなり異なっています。途上国では、収穫技術の問題、生産農家の保存設備や加工施設の不備、輸送手段の未整備、小売店や飲食店の衛生状態の悪さなどがおもな原因で、食品が消費者の手に渡る前に傷んでしまい、破棄せざるを得ないのが現実です。消費者が食品を捨てるということは、途上国ではほとんどありません。

このように途上国のフードロスはインフラや衛生環境の問題など、「貧しさ」が背景にあります。一方、先進国のフードロスは食べ残しや売れ残り、品質や見た目へのこだわりといった「豊かさ」に起因することが多いといえます。

[4]捨てられた食品はどこへ行く?
一般家庭のフードロスは焼却か埋め立てに

一般家庭から出される食品廃棄物の90%以上は、焼却されるか埋め立てに回されます。肥料やエネルギーに再生利用される割合はわずか約7%にとどまっています。<図2>

 

<図2>一般家庭のフードロスの約90%は焼却か埋め立てに

*図出典:環境省「食品廃棄物等の利用状況等(平成27年度推計)概念図より抽出
https://www.env.go.jp/press/files/jp/108984.pdf

企業系廃棄物は再生利用率が向上

日本では2001年に、「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律」(いわゆる「食品リサイクル法」)が施行し、食品関連事業者に対して、食品廃棄を抑制して廃棄量を減らすこと、再生利用を促進することなどが義務付けられました。さらに同法のその後の改正によって、各業種に対する再生利用率と発生抑制値が具体的に示され、年間100t以上の食品廃棄物を出す事業者には、再生利用の状況などを定期的に報告することも義務付けられました。

このような法の整備や関連事業者の努力によって、食品業界全体のフードロスは年々減少しています。再生利用率は、食品リサイクル法制定時は37%ほどでしたが、その後上昇しており、2015年度の推計データによれば、食品関連業者から出された食品廃棄物2010万tのうち、約70%にあたる1426万tが再生利用されています。内訳を見てみると、飼料化される量が1059万t、肥料化が249万t、電気や熱としてエネルギー利用される量は117万tとなっています<図3>。

循環型社会の形成を目指している国は「バイオマス活用推進基本計画」において、食品廃棄物のエネルギー利用率を2020年に約40%まで上げたいとしています。さらなる再生利用の促進が求められるところです。

 

<図3>関連事業者の廃棄食品の約70%は再生利用されている

*図出典:環境省「食品廃棄物等の利用状況等(平成27年度推計)概念図より抽出
https://www.env.go.jp/press/files/jp/108984.pdf

[5]世界では9人に1人が飢えている
500万人の子どもが飢餓で5歳まで生きられない

先進諸国で多くの食品が捨てられている一方、世界には飢餓で苦しんでいる人が大勢います。その数は8億人以上。世界人口の9人に1人の割合です。発展途上国では、飢餓によって5歳になる前に命を落とす子どもが年間約500万人に達しています。

このように飢餓に苦しむ人々を助けるために、世界では年間320万tの食料援助が行われていますが、先に紹介したように、日本において本来食べられるのに捨てられる食品の量は年間646万tにも上ります。日本だけで、世界の食糧援助量の約2倍の食品が捨てられているわけです。

世界全体では年間約40億tの食料が生産されています。本来ならこれで世界人口を十分に賄うことができるのですが、食料供給が先進諸国に偏り、途上国には満足に行き渡らないという「食の不均衡」が起きています。

気候変動によって飢餓が増えている

第二次世界大戦直後の1945年に国連が設立されて世界の食糧生産が増加し、1990年から1997年までのあいだに、世界の飢餓人口は9億5900万人から7億9100万人へと減少しました。

ところが近年は再び上昇に転じ、8億人を超えています。その要因の一つが気候変動です。国連の調査によれば、近年、農作物栽培地域の気温は上昇しており、猛暑も頻繁に発生。洪水、干ばつ、嵐などが起きる頻度が高く、その激しさも増しています。このような気候変動によって、小麦、コメ、トウモロコシなど主要作物の生産が影響を受けており、また、自然災害によって被災した人々が食料危機、栄養不良に陥っています。

日本でも貧困が深刻に

日本はアメリカ、中国に次いで世界第3位の経済大国です。しかし先進国のなかでは貧困率が高く、2017年の「OECD経済審査報告書」によれば、OECD加盟国35か国中7位の貧困率となっています<図4>。

所得、栄養、健康、教育などの水準が著しく低く、生存の危機に瀕するほど貧しい状態を「絶対的貧困」というのに対して、その国や地域の平均的な生活水準と比べて所得が著しく低い状態を「相対的貧困」といいます。

当然のことながら日本で増えているのは相対的貧困です。例えば、現在日本人の3人に1人が非正規雇用者ですが、国税庁の2016年のデータでは非正規雇用の女性の平均年収は約150万円。月額約12.5万円ですが、それで家賃、光熱費、食費、交通費、通信費、被服費、交際費などを賄うとすれば経済的にギリギリです。そこから何を節約するかといえば「食事」ということになりかねません。

子どものいる世帯はさらに深刻です。2014年に、NPO法人フードバンク山梨、新潟県立大学の村山伸子教授(栄養学)、NHKの三者共同で「子どもの食生活調査」を行ったところ、食品支援を必要とする子どものいる家庭269世帯の約7割が、1日1人あたり400円未満の食費で生活していることがわかりました。つまり1食133円ほどです。これでは栄養が十分にとれているとは考えにくく、子どもの発達、発育、健康への影響が懸念されます。日本国内でもこのような「食の不均衡」が起きているのです。

 

 <図4> 日本の貧困率はOECD加盟国中7位と高い

*図出典「OECD経済審査報告書」
https://www.oecd.org/eco/surveys/Japan-2017-OECD-economic-survey-overview-japanese.pdf

[6]フードロスは資源の無駄、環境破壊でもある
生産地の資源やエネルギーを捨てるのと同じ

国内で消費する食料を国内生産でどの程度賄えるかを示す指標を、「食料自給率」といいます。2017年度の日本の食料自給率は38%。つまり食料の60%以上は海外から輸入しているわけです。

食料を生産するにはさまざまな資源、労力、輸送用の燃料などが必要です。海外から食料を輸入し、それを食べ残しや売り残しなどで廃棄するということは、生産国の貴重な資源やエネルギーを無駄にしていることになります。

地球温暖化を進行させている

家庭から出る食品廃棄物の90%以上、食品関連事業者から出る食品廃棄物の約17%は焼却か埋め立て処分されています。

そうした食品廃棄物を運搬したり焼却施設で焼却する際には、二酸化炭素(CO2)が排出されます。大気中にCO2が大量に放出されると、地球の周りを取り囲んでいる「温室効果ガス」の濃度が増加します。すると地表面からの赤外線が大気圏外に放出されにくくなり、地球の気温が上昇します。これが「地球温暖化」です。

人類は18世紀後半の産業革命以降、化石燃料を燃やしてエネルギーとして利用するようになりましたが、その影響もあり世界の平均気温は1880年から2012年の間に0.85度上昇したことがわかっています。地球温暖化がこのまま進行すると、「高潮や沿岸部の洪水」「大都市部への内水氾濫」「食糧不足」「生態系の変化」「熱波による死亡や疾病の増加」など、あらゆる分野のリスクが高まると予測されているのです。

また、埋め立て場に捨てられた食品廃棄物が腐敗するとメタンが発生します。メタンも温室効果ガスの一種です。

先に、世界の飢餓人口の増加は気候変動が一因だと述べましたが、その気候変動の大きな要因が地球温暖化、つまり大気中に多量に排出されるCO2です。地球温暖化に関する研究を行う科学者や専門家の世界的ネットワーク「IPCC」は、2007年に「気候変動 2007年」を発表。その中で、「現在、進行している深刻な地球温暖化はある程度人間の活動に起因するものであり、大きな是正措置がとられなければさらに悪化する」と警告を発しています。

日々、何気なく捨ててしまう食品が地球の環境を悪化させ、同時に多くの人々を飢餓に陥れている大きな要因であることを、私たちは真剣に受け止める必要があります。

飢餓を減らし資源を大切にするために

2015年、国連に加盟している150を超える国と地域が参加して国連サミットを開催しました。そして「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択し、人間、地球および繁栄のための行動計画として、SDGsの名で知られる17の目標を掲げました<図5>。

「食料の損失と廃棄の削減」は、その目標の一つに設定されています。生産から消費まで食品に関わるすべてのプロセスでフードロスを減らすことによって、地球温暖化を抑止し、飢餓の撲滅、栄養不良の解消、資源効率の改善、天然資源の効率的な利用などを同時に達成していくことを、今、世界は目指しています<図6>。

<図5>「持続可能な開発のための2030アジェンダ」で掲げられた17の目標

*図出典:国際連合広報センター
https://www.unic.or.jp/files/sdg_logo_ja_2.pdf
https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/sdgs_logo/

<図6>フードロスの減少は飢餓、資源利用などとも密接に関係している

*図出典:農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/index.html

[7]スペインの町には余った食品をシェアする公共の冷蔵庫がある

フードロスを減らすために、各国ではさまざまな工夫が行われています。

フランスでは食品廃棄に罰則規定がある

フランスでは2016年、議会の全会一致で「食品廃棄禁止法」が成立しました。同法では、大型小売店は貧困者に対して食料支援等を行っている一つ以上の慈善団体と契約し、売れ残った食品を寄付することを義務付けています。また、食べられる食品を廃棄した場合は日本円で約49万円の罰金が科せられます。この法律はフードロスと貧困の同時改善を目指している点が特徴といえます。

フランスでは同法に先立って、食品の賞味期限の表示をやめ、消費期限の表示のみにするという法律も成立させています。

スペインは「連帯冷蔵庫」で貧困者をサポート

2015年、スペインのバスク州ガルデカオで、「連帯冷蔵庫」と呼ばれる公共の冷蔵庫が町角に設置されました。家庭や飲食店などで余った料理、食品、消費期限の迫った食品などをこの冷蔵庫に入れて、貧困者など食事を必要とする人々が受け取れるようにしたシステムです。「肉、魚、卵など生食食品は入れない」「家庭で作った料理は調理した日付を明示する」などのルールがあり、ボランティアが定期的に庫内を確認して食品のチェックを行っています。設置から約1か月で推定200~300㎏の食品が廃棄されずにすんだという報告も行われています。

アメリカは「ドギーバッグ」で食べ残しを持ち帰る

アメリカでは、飲食店などで食べ残した料理を持ち帰る取り組みが習慣化しつつあります。持ち帰り用の袋や容器は「ドギーバッグ」と呼ばれます。日本語にすると「ワンちゃん袋」。残り物を持ち帰るのは恥ずかしいという心理に配慮し、「飼い犬に食べさせるため」という理由を表向きとしているのです。

ドギーバッグは、中国、台湾、フィリピンなどでも積極的に行われるようになっています。スコットランドでは、利用促進の目的で11のレストランにドギーバッグを設置してパイロット事業を行ったところ、食べ残しが平均24.3%減少。スタッフと客の意識向上にも役立ったという結果が出ています。

ドイツはインターネットで余剰食品をシェア

ドイツには、余った食品をシェアするための「foodsharing」(フードシェアリング)というインターネットの情報交換サイトがあります。同サイトを立ち上げたのは、食料廃棄をテーマにしたドキュメンタリー映画『Taste The Waste』(邦題『もったいない』)の制作者ヴァレンティン・トゥルン氏です。このウェブサイトでは、個人、小売業者、生産者等が余った食品などを投稿し、食料を必要とする人と連絡を取り合って受け渡しを行うといった方法で食品のシェアが行われています。

[8]日本は国をあげてフードロス削減へ取り組んでいる
国や自治体の責務が明確に

日本では国、地方自治体、事業者、消費者がそれぞれの立場で、さらに積極的にフードロスの削減に努力することが求められています。

そのような中、2019年5月14日に超党派の議員連盟がまとめた「食品ロス削減推進法案」が衆議院消費者問題特別委員会で可決されました。同法案は、フードロスの削減を国民全員がそれぞれの立場で取り組む「国民運動」と位置付け、以下のように国、自治体、事業者のそれぞれの責務、消費者の役割を明確に示しています。

 

・政府の責務:フードロス削減の推進に関する基本方針を定める

・自治体の責務:基本方針を踏まえて削減推進計画を定め、対策を実施する

・事業者の責務:国と自治体の施策に協力し、フードロス削減に積極的に取り組む

・消費者の役割:食品の購入や調理方法などを改善し、自主的に削減に取り組む

 

なお同法案は、2019年の通常国会での成立が見込まれています。

福祉施設や貧困世帯に食品を提供する「フードバンク活動」

前述の「食品ロス削減推進法案」は、国と自治体に対して「フードバンク活動」を支援することも促しています。

「フードバンク活動」とは、まだ食べられるにも関わらず通常の販売が困難になった食品をメーカーや農家等から無料で引き取り、児童養護施設、障がい者施設、ホームレス支援団体などに無償提供する活動です<図7>。包装の印字ミスをはじめとする規格外品、パッケージや商品が破損したりつぶれてしまったもの、小売店の売れ残り、余剰在庫、賞味期限が迫っているものなどが、食べ物を必要とする人々に提供されています。

フードバンク活動は1967年にアメリカで誕生しました。日本では2000年以降に始まり、今では全国で80近い団体が活動しているといわれています。食品の品質や衛生管理、利用者間のルールなどは、国が作成した手引書に沿って行われています。

東京都内にある「セカンドハーベスト・ジャパン」の例を紹介しましょう。セカンドハーベスト・ジャパンは、2002年に活動を開始した日本初のフードバンクです。開始当初の食品取扱量は30tほどでしたが、2014年は約2300t、食品を寄贈した団体と個人は691に達しました<図8>。災害発生時には、被災者への支援も積極的に行っています。2011年の東日本大震災の際には、1万個以上の食品の詰め合わせを被災地に送り、2016年の熊本地震の折には、約99tの支援物資と約2200箱の食品の詰め合わせを届けました。

このようなフードバンク活動は、フードロスの削減や食料資源の有効活用はもちろんのこと、だれもが必要なときに食べ物を手に入れることができる「フードセーフティネット」を確立していく上でも非常に重要です。

 

<図7>フードバンク活動のしくみ

*図出典:農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/foodbank.html

 

 <図8>セカンドハーベスト・ジャパンの活動実績例

*図出典:東京都環境局「フードバンク活動の推進」
http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/resource/recycle/tokyo_torikumi/torikumi/foodbank.html

賞味期限の3分の1ルールの見直しも

先に述べたように、メーカー・卸・小売業者のあいだには「3分の1ルール」という商習慣が存在します。日本における食品の納品期限は諸外国と比べて厳しく設定されており、それが食品の過剰在庫、返品や廃棄の増加につながっていますが、この商習慣を見直す動きが始まっています。販売に携わっている大手スーパーとコンビニエンスストアを見てみると、納品期限の見直しに取り組んでいる企業は2012年度にわずか2社でしたが、2017年は25社に増え、これによって返品率や返品額も減少しています<図9>。

国の試算では、納品期限を製造日から賞味期限までの期間の2分の1に延長すると、流通、保管、廃棄にかかるコストが約86.6億円削減できるとしています。また、サプライチェーンの過剰労働も改善することができます。フードロスの削減は、企業経営の効率化にもつながっていくのです。食品関連事業者全体が連携を図り、一丸となって改善努力していくことを期待したいです。

 

<図9>納品期限を見直す企業が増えている

*図出典:農林水産省「1/3ルール等の食品の商習慣の見直し」より抽出
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/katsuryoku_kojyo/choujikan_wg/dai5/siryou4.pdf

山口県の「やまぐち食べきっちょる運動」

現在、日本では「NO-FOODLESS PROJECT」(ノーフードプロジェクト/食品ロス削減国民運動)が展開されていることをご存知でしょうか。これは生産・製造・卸・流通・小売りなど食品供給に関わるすべての段階でフードロスの削減に取り組み、国民一人ひとりが食べ物を大切にするために自らの行動を改めて、フードロスの削減を実現していこうとする国民運動です。

地域一丸となってこの運動を行うところも増えてきています。例えば山口県は三方を海に囲まれ海の幸に恵まれた土地ですが、山口の食材を〝おいしく、ぜんぶ、たべきる〟「やまぐち食べきっちょる運動」を全県あげて展開しています。大きな特徴は、県、企業、飲食店や旅館・ホテル、小売店、そして県民が広く参加する協議会形式で行われ、「みんなの問題」という意識を強くもって取り組んでいる点です。

具体的な取り組みとしては、「やまぐち食べきり協力店」に登録した飲食店や旅館などでは、客とのコミュニケーションをはかって好き嫌いや適当な量を聞いたり、仕入れや調理方法を工夫し、食材をできるだけ捨てないようにしています。協力店は2014年時点で180店を超えています。また、「やまぐち食べきりアイディアレシピ」を県民から広く募り、レシピ集にまとめてスーパーの店頭などで配布したり、実際に作ってみる「エコクッキング講座」を開催するといった地道な活動も広がっています。

同運動が始まったのは2011年ですが、山口県周南市のごみ排出量を見てみると、2010年には58,511tでしたが、年々減少。2017年度は48,134tで、約18%の削減を達成しています<図10>。

 

<図10>山口県周南市のごみ排出量は約18%削減された

*図出典:山口県周南市「平成29年度のごみ量とごみ処理経費について」
https://www.city.shunan.lg.jp/soshiki/19/31051.html

[9]フードロスを減らすために私たちができること

日本には昔から、「もったいない」という心でものを大切にする文化があります。環境分野でノーベル賞を受賞したワンガリ・マータイ女史は来日した際、この「もったいない」という日本語を聞いて感銘を受け、「Mottainai」という語とその精神を世界に広めることを提唱しました。

食べられるものを捨てるのはもったいない。食材を無駄にしたらもったいない。私たちもそういう心で食べ物を大切にしたいものです。

フードロスを減らすために、消費者としてできることをまとめてみました。

買いすぎない、見た目だけで判断しない

買い物に行く前には冷蔵庫の中身をチェックし、必要なものをメモしておくと買いすぎを防ぐことができます。また、「安いから」と安易に買わず、食べきれるかどうかを考えましょう。

形が少しいびつな野菜、運搬中などにパッケージがへこんでしまった商品などは、値引きされていることがあります。そういう商品を購入するのもフードロスの削減につながります。

作りすぎない、調理や保存方法を工夫する

食べられる分だけ作るようにしましょう。食べられずに残った料理は、冷凍保存したり、別の料理にアレンジして有効利用してみましょう。

野菜の皮や芯にも栄養があります。丸ごと使って調理する工夫をして、生ごみを減らすように心がけましょう。

また保存方法を工夫すると食品が長持ちし、おいしさも保つことができます。食品ごとに適切な保存方法は違うので、ネットなどで調べてみるといいでしょう。

消費期限と賞味期限を正しく理解する

加工食品などには「消費期限」と「賞味期限」が表示されています。その違いを知っておくことも大切です。

消費期限とは「食べても安全な期限」のことです。弁当、サンドイッチ、生めん、総菜、ケーキといった品質の劣化が早い食品に表示されています。消費期限を超えたものは食べないほうが安全です。

賞味期限とは「おいしく食べられる期限」のことです。スナック菓子、カップめん、缶詰め、レトルト食品、ハム・ソーセージ、卵など、品質の劣化が比較的遅い食品に表示されています。賞味期限を超えてもすぐに食べられなくなるわけではありません。個別に見た目やにおいを確かめて、無駄にしないようにしましょう。

飲食店などでの食べ残しを防ぐ工夫

ボリュームが多くて食べきれそうにないと思ったら、注文するときに量を少なめにするよう頼んでみましょう。セットメニューの場合は、1品抜いてもらうのもいいでしょう。

食べきれなかった料理は、持ち帰りができるかどうか店に確認してみましょう。最近は、持ち帰り用の袋や容器を用意している店が増えています。

フードロスの解消アプリを利用する

フードロスを削減したい飲食店や小売店と、低料金で料理や食品を入手したい消費者とをつなぐプラットフォームの役割を果たすアプリが、近年いくつか登場してきました。パソコンやスマホで検索して、自分のライフスタイルに合うサービスを利用するのもいいでしょう。

フードバンクに寄付する

先に紹介した「フードバンク」では、個人からの食料品の寄付を受け付けているところがあります。お歳暮やお中元などでもらった食品の詰め合わせ、買ったままになっているインスタント食品やレトルト食品や缶詰、米やパスタなどを寄付することで、社会貢献にもつながります。受け付け品目、受け渡しや郵送方法などはフードバンクごとに違いますので、各フードバンクへ問い合わせてみてください。

 

野菜、肉、魚、食べものはすべて自然の恵みです。フードロスを削減していくことは、自然の恵みを無駄にしないということです。十分に食べられずに苦しんでいる人たちのことを思い、貴重な資源を大切にし、将来につながる豊かな世界を作っていくことにつながっています。私たち一人ひとりが、できるところからぜひ取り組んでいきましょう。

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