【インタビュー前編】“aeru電気”が始まります|『育む』という哲学

【インタビュー前編】“aeru電気”が始まります|『育む』という哲学

新型コロナウイルスをきっかけに、今まで無意識に”当たり前”と思っていた価値観などが揺らぎを見せています。

 

「豊かさ」もその一つ。

 

自分の外側に豊かさを追い求めることは、考え方としてシンプルで分かりやすい。
好きなものに囲まれた生活はワクワクします。

“0歳からの伝統ブランドaeru”を展開する、株式会社和える(以下、「和える」)代表の矢島里佳さんは、美しい日本の伝統産業品に囲まれることだけでなく、そこから生まれる「自身の内なる豊かさ」こそが、自分だけでなく、社会や環境もふくめた全体としての豊かさに繋がると語ってくださいました。

和えるが様々な事業形態を通じて目指す、「自身の内なる豊かさ」のカギとなる感性のお話、そして今回、和えると自然電力とがタッグを組むことで生まれた“aeru電気”が生まれるまで、矢島さんと自然電力共同代表の長谷川とがお話しました。

 

前編・後編に分けてお届けします。


 

長谷川:新型コロナウイルスの混乱の中、会社としてもいろいろな対応があると思います、こういった状況の中、インタビューをお受けいただきありがとうございます。

 

矢島:こちらこそ、よろしくお願いします。

 

長谷川:コロナの影響で、今日のインタビューもオンラインですけど、事業の方へのインパクトはいかがですか?

インタビューはオンラインで行われました。左上が矢島さん、中段右が長谷川。

 

矢島:お客様と社員の健康と安全のために、東京と京都の直営の拠点は一時休業しております。オンラインの直営店へお越しいただけるように、お声がけを進めているところです。実店舗で接客を担当しているスタッフが、aeruコンシェルジュとして、オンライン上でお客様のご相談にチャットでお答えさせていただいています。

 

長谷川:それは大変ですね。

 

矢島:弊社の場合、小売業以外にも複数の事業があるので、連携しながら乗り越えています。

 

長谷川:ああ、そうか。小売事業だけじゃないんですね。

 

事業の広がり方は縦でも横でもなく、円

矢島:はい、そうなのです。学生時代から、ジャーナリストを目指しており、日本の伝統を専門的に暮らしの中で体感値として伝えていきたいと思っていました。ただ、当時はそういうことができる企業はありませんでした。そこで、生まれたときから伝統と共に暮らせる環境を生み出すために、大学4年生の時に、株式会社和えるを創業しました。和えるのはじめの事業が、“0歳からの伝統ブランドaeru”でした。物を売ることが目的ではなく、物を通して、日本の伝統を伝えることをジャーナリストとして始めました。

 

長谷川:なるほど。

 

矢島:他にも“aeru room”、ホテルの空間を通して地域の文化や伝統を伝える事業、“aeru re-branding”、企業様の本質を見出し、整えて次世代につなぐ事業など、様々な方法で日本の伝統を暮らしの中で生かしながら、次世代につなぐ取り組みを展開しています。様々なビジネスモデルに挑戦してきたことが今、役に立っているのかなと実感しています。

 

長谷川:ホームページを拝見していますが、本当にバラエティ豊かですね。それぞれの事業はどういった関係性で成り立っているんですか?

和える事業展開図(提供:株式会社和える)

 

矢島:“0歳からの伝統ブランドaeru”は、和えるの、アイデンティティ、柱のような事業と捉えています。

 

長谷川:なるほど。すみません、経営的な質問ばかりになっちゃうんですが、それはつまり収益的にも柱になっているということでしょうか?新しい事業にどんどん挑戦されているということは。

 

矢島:創業時はもちろんこの事業のみでしたので、収益の柱でしたが、ここ1~2年で他の事業も各々に育ってきているので、収益の柱のバランス感は変化してきています。ただ、やはり「なぜ和えるが生まれたの?」という問いに対しては、この“0歳からの伝統ブランドaeru”が、あるからこそなので、この子が真ん中にいて、その周辺に他の子たちが円になって一緒にいるような感覚です。

 

長谷川:ああ、イメージできました。円、いいですね。

 

矢島:私たち和えるは、各事業ごとに縦割りになっていないので、事業同士が、相互関係を持ちながら共に動いている感覚です。この事業展開図は和えるのメニューのようなものです。2011年に創業して、今、9歳の和える君は、こんなことができますよ、と。その中からお客様に合わせて、ご提案させていただいています。

“0歳からの伝統ブランドaeru” オンライン直営店(写真提供:株式会社和える)

 

伝統を通じて「育みたい」もの

長谷川:真ん中にある“0歳からの伝統ブランドaeru”から広がっていった複数の事業は、「日本の伝統を次世代につなぐ」という軸で繋がっているんでしょうか?

 

矢島:はい。そしてもう一つ、全ての事業に共通しているのは、「教育」の視点です。わたしたちは「教育」という言葉を「育む」と言い換えています。「育む」と伝統を次世代につなぐということはいつもセットですね。

 

長谷川:「育む」。

 

矢島:わたしたちの事業の一つに“aeru room”というのがあります。ホテルや旅館のお部屋をお任せいただき、地域の文化や伝統が伝わる、物語のあるお部屋を設えるという事業です。これは、わたし自身が中学高校時代の茶華道部のときに感じていた、お茶室にいると不思議と心が落ち着く感覚を、体感できる場所を全国に生み出したいと思ったことがきっかけでした。

 

長谷川:ああ、いいですね。

 

矢島:私自身、日本全国の職人さんのところへ出張した際に、ホテルに泊まるといつも感じることがあります。せっかく文化や伝統が根付いている地域に来ているのに、全国どこでも標準化された様なホテルの部屋で目覚めると、自分がどこにいるのか分からない感覚になるのです。

 

長谷川:僕も出張が多いのでよく分かります。

 

矢島:ホテルのお部屋の中って意外と滞在時間が長いのですよね。睡眠時間も含めると少なくとも10時間近くになります。せっかく訪れたのだから、お部屋の中でも地域の文化や伝統を感じることができて、質感の良い日本の職人さんたちが生み出したものに囲まれる心地よさを体感していただけると、自分のお家にもそういった豊かな物たちを迎え入れてみたいな、という感覚を育むことができるのではないかと考えました。

“aeru room” 第三話 ~“お庭に泊まる“大和の心を感じるお部屋”〜

 

長谷川:地域ごとの「らしさ」や魅力は、僕たちもよく考えるテーマです。というのも、自然エネルギーの発電所を作ることは、発電所を作ってお金をいただければそれでいいね、ということでは全く無いと自然電力では思っていて。地域をどうやって未来に繋げていくか。どうやって魅力を維持してより人を惹きつけるような地域にしていくか。その中で自然エネルギーっていうものがうまく活用されていけばいいなと。地域の未来を地域の方々と一緒に考えて作っていくことが主軸であるべきだなと考えてるんです。だから、地域に行ったときに、人口減少だから機能的なコンパクトシティに、というのは、合理性は理解できるんですが、やっぱりどこにいてもその地域の特色を感じられないというのは、なんだか寂しいし勿体ないなと。なので今のお話を聞いて、自然電力の地域の未来を形作っていく文脈に、自然エネルギーとあわせて各地域の伝統の再認識がちゃんと組み込めていけたら、すごく素敵だなと思ったんです。

 

矢島:すごく嬉しいです。私もそういう場所に対して寂しさを感じるんですよね。哀しさと言いますか。その前をよく知っているわけでは無いけれど、その場所に、どこにでもある均一な建物やお店ができるわずかな時間よりも、果てしない時間をかけてその場所で営まれてきたであろう地域ならではの暮らしを想うと、そうした積み重ねを一瞬で無かったものにしてしまう近代の開発とは何なのだろうと。そうした時間や空気感は、一度失ってしまうと、、お金を払って、もう一度作れる物ではないのですよね。

 

長谷川:そうですね。

 

矢島:でも、まだそこに息づいている何かを繋げたいと思うとき、職人さんたちの手にはその何かがまだ残ってるのです。生きた伝統とでも言うのでしょうか。過去形ではなく、未来形にできる伝統。だからこそ、先人たちの営みや智慧は改めて重要視されてきていると感じます。

 

感性の扉を開くということ

長谷川:なるほど。でもこれって正直、結構難しいことじゃないですか。僕たちをはじめ、この慌ただしい現代生活を送る多くの人たちにとって、今おっしゃったような事はまだかなり距離があると思うんですね。

 

矢島:はい、本当にそう思います。感性をもう一度磨くことが必要だと思うのですよね。想像力を持ち、心を寄せることができるのか。先ほどお話した“0歳からの伝統ブランドaeru”や“aeru room”は、「そうそうこういう物が欲しかったの」とか「こういう部屋に泊まりたかったのよ」という潜在的なニーズをお持ちの方に対してのご提案になりがちです。そこで、感性の芽を育むところからご一緒できないかと考え、2年前の2018年に「aeru school」という事業を立ち上げたのです。

 

長谷川:スクール事業。

 

矢島:色々な理由で現代社会では感性を開き続けたり、研ぎ澄ませることが難しい方も多くいらっしゃると思うのです。特に都心部ですと、例えば、満員電車で感性を最大限開いていたら、それこそ心を病んでしまうと思います。

 

長谷川:たしかにそうですよね。ある程度、鈍感力というか、鈍感になることもコントロールできないとやっていけないというのが現代なのかもしれないですね。

 

矢島:そうなのです。そこのバランス感が非常に重要と思って捉えています。また、長い間感性を閉じていると、感性の開き方を忘れてしまいますよね。

 

長谷川:なるほど。

 

伝統と共に暮らすと人が優しくなれる

矢島:では、どうしたら感性を開くことができるのか。そこでお役に立つのが、日本の伝統です。日本の伝統産業は、感性を開くきっかけ作りにとても適しています。それは私たちが普段からお伝えしている、「伝統と共に暮らすと人は優しくなれる」ということにつながるのですが。

 

長谷川:具体的に、どのように伝統が感性や優しさに影響を与えるのですか?とても関心があるのでもう少し詳しくお聞きしたいです。

 

矢島:例えば、aeruの商品を出産祝いにご友人から贈られて、初めて日本の伝統産業に出逢ったというお客様がいらっしゃいました。お子さんがaeruの『こぼしにくい器』はとても大事に扱うのです、と教えてくださいました。他にも、aeruの『こぼしにくい器』だと苦手な野菜も食べられるのです、aeruの『こぼしにくいコップ』だと苦手な麦茶も飲んでくれるのです、といった声をいただいています。

 

長谷川:へぇ!面白いですね。

 

矢島:論理的に説明するのは非常に難しいですが、その器やコップがお家にやってくると、大事にしたり、苦手を克服できたり、分かりやすい変化がお子さんに起こることが多いのです。きっと、職人さんが自然の恵みから生み出したものたちが人の心に何かを訴えかけているのですよね。そして子どもたちもそれに気づいて、心を寄せられる。それが心の優しさにつながっているのだなと感じています。こうした変化はお子さんに限ったことではなくて、大人の中でも生まれています。物との向き合い方、所作が変わるのですね。

 

長谷川:なるほど。そう考えると、我が家でも先祖から代々引き継がれている食器などを結構使っているんですけど。

 

矢島:わぁ、素敵ですね。

 

長谷川:お正月とか子どもの節句の時とか、そういう特別な時に出してきて使うようにしてるんです。きちんと紙や布に包まれているところから引っ張り出してきて、広げて洗って使って。また使い終わったら丁寧に洗ってそこに戻して。面倒くさくないと言ったら嘘になりますが、その時に感じられる空気感とか、思い出す過去とか、それが優しさかもしれないなって思いました。

 

矢島:それも優しさだと思います。そして感性ですよね。

 

長谷川:これは深いですねぇ。

“aeru onaoshi” 金継ぎ・銀継ぎした器たち

 

矢島:伝統に触れることで感性が開き、感性が開くと心を寄せやすくなる。思いやり方面への想像力が豊かになると感じます。すると、所作や行動に現れるようになり、「優しくなる」ということにつながっているんでしょうね。

 

長谷川:そういうことですね。

 

矢島:伝統と共に暮らすと人は優しくなれる。優しい人が増えると、美しい社会がやってくる。みんな優しかったら、社会システムの循環も美しいはず、そういう感覚です。これが私たちが目指す社会の姿です。

 

自分に優しくできなければ、他人や自然に優しくはできない

長谷川:なるほど。よく分かりました。これって伝統を自然に置き換えることもできますね。普段から海や山を身近に感じている人は、自然によって感性が開かれ、自然に対しての想像力が持てている、海や山を汚すような行動をしたらどうなってしまうかとか。

 

矢島:そうです。例えばごみのポイ捨てにしても、野生動物や自然環境にどう影響するのでしょうか。そのたった一人の、ごみをポイ捨てするという行為が積み重なることでどれだけの影響になるかということを考えてしまいますよね。そこに思いを馳せることが大切だと思うのです。

 

長谷川:そうですね。

 

矢島:ただ、器にしろ自然にしろ、その背景にある繋がりに心を寄せられないからといって、そういう人が悪い人であるとは言い切れないと私は思っています。何かに心を寄せられないということは、自分自身に対しても優しくできていない状態の方なのかなと思うのです。自分に優しくするということは、義務感やべき論の様な他者が決めた基準で行動するのではなく、自分の感性を受け入れている状態だと思います。

 

長谷川:ああ、自分に優しくできていないのか。なるほど。

 

矢島:自分に優しくできないときは、他人や物、自然にもなかなか優しくできないですよね。まずは自分に優しくなるためにも、自分の感性を開いてくれるものと暮らしてみることが大事なのではないかなと思います。

 

長谷川:おっしゃる通りですね。海とか自然に対しても、いきなりそこに対して思いやりが持てるわけではないと思います。僕の場合は、社会人になってから自然エネルギー業界に関わるまではコンサルティングの会社で多忙な毎日を送っていたんです。そんな時も週末は海でずーっとサーフィンをしていた。海に浮いてると、自然と自分の心に安らぎが訪れて。それでむちゃくちゃ忙しい平日とのバランスが取れていたんです。結果として気候変動などの情報に目が行くようになり、こうやってサーフィンが自分の孫の代まで普通に楽しめる地球であってほしい、そのために何が自分にできるんだろうって考え始めたんですよね。

(つづきます)

後編はこちら:https://shizen-hatch.net/2020/05/13/interview_aeru_02/