できることから始めよう 無駄な消費・廃棄をしないミニマリスト生活

最近よく目にするようになったミニマリストという言葉。
ですが、日本のミニマリストは、環境保全と密接に結びついている欧米のミニマリストとは異なるように見えます。

環境保全と結びついた本来のミニマリストとはどのような人々のことを言うのでしょうか。

環境保全に根ざした欧米のミニマリスト

ミニマリストとは、無駄なものは所有せず、無駄なものは消費しない、というライフスタイルを実践する人々のことです。
この考え方には、労働時間を減らすことも含まれ、余った時間は自給自足のための活動に使います。[*1]

ミニマリストは、「最小限主義」を意味する「minimalism(ミニマリズム)」から派生した言葉ですが、元々は、美術や建築、音楽といった分野の装飾性を最小限まで削ぎ落とした作風のアーティストを指していました。[*1]
それが近年、欧米において、必要最小限の物だけで暮らす人々にも用いられるようになり、後に日本にも広まったのです。

ですが、この生活スタイルを実践する人々は、最近になって現れたわけではありません。
古くは、マハトマ・ガンジーがこの生活スタイルの実践者であり、流行や社会の動向に流されず、自ら決定し、選んだものだけで生活を送ることを推進していました。[*1]

それが、物を大量生産し、氾濫する広告で物の大量消費を促すこの現代において、
「物をたくさん所有し、消費しても幸せにはなれないのではないか?」
と考える人々にも広がっています。[*2]

それでは、この言葉の発信元となった欧米のミニマリストは、どのような生活を実践しているのでしょうか。

 

食べ物のこと

ミニマリストは、自分が安心できると思った物だけを選んで食べます。
その安心感は、含まれる物や作られた場所、作り方などを知ることで得られます。
そのため、ミニマリストの多くは、自然に近い環境で作られた健康的な食品を選び、大量生産された食品を制限します。
さらに進んだ人の中には、自ら野菜を生産し、家畜を育てる農場を持っていることさえあります。[*1]

このような、ミニマリストの生活スタイルは、大量生産品に付きものの包装材の削減につながります。
無駄なものを必要以上に求めませんので、食品ロスも減少するでしょう。

着る物のこと

ミニマリストは、着る物について、長く着続けることができる本当に気に入った物だけを購入します。
ファストファッションのような、流行に影響された、ワンシーズンしか着ないような服は選びません。

流行によって次々と服を変えていく現代の生活スタイルは、ここ20年間で衣類の購入量を4倍にも増大させています。
それは、水などの資源を食い尽くすと同時に、衣類由来のマイクロプラスチックによる海洋汚染という形で、環境に深刻な影響を与えています。[*2]
また、価格を抑えるために不当に安い賃金での労働を強いているケースも散見されます。

住居のこと

小さな住居を住まいとするミニマリストが増えています。
一見窮屈そうに見える狭い住居でも、様々な工夫によって快適に過ごせることに気づき、それを実践しています。[*3]

小さな家に住むことは、そもそも建築資材の削減につながります。さらに、生活スタイルの変容を促し、物の消費量やゴミの排出量などを少なくする効果があると報告されています。[*4]

使う物のこと

ミニマリストは、不必要な物や使い捨ての物を購入しないようにしています。
本当に必要な物だけをきちんと選んで購入し、愛着を持てる長く使える物だけを購入するのです。[*3]

それは、食品同様、製品の来歴へ注意を払うことにつながります。
不当な労働環境下で生産された物や環境に悪影響のある形で生産された物を消費しないようになり、エシカル消費を心掛けるようになります。

限度を超えて生産・消費し続ける世界

このようなミニマリストの生活スタイルですが、資源や環境の持続可能性を鑑みると、決して極端なこととは言えなくなっています。

世界の人口は、2019年の時点で77億人に達していますが、現状の人類はすでに、物の生産やエネルギーの消費、廃棄物の浄化などで、毎年地球1.7個分に相当する負荷を環境に与えています。(図1)[*5, *6]
これは、エコロジカル・フットプリントと呼ばれる環境指標から算出されたもので、人間の活動で生じた環境汚染や資源の消費などを、地球が一年間で回復し、再生産する能力を地球1個分として比較したものです。[*6]

つまり人類は、毎年地球0.7個分、地球の再生能力を超えて環境を汚染したり資源を食い潰したりしていることになります。

図1:世界のエコロジカル・フットプリントの推移
*出典:世界自然保護基金(WWF)「あなたの街の暮らしは地球何個分?」(2019)
https://www.wwf.or.jp/activities/activity/4033.html

 

食料の生産と消費を考えてみましょう。
近代的な農業は、多量の化学肥料を用いますが、これは限られた資源である窒素含有鉱石を精製することで得られます[*7]。
そして、農薬の使用により、自然の浄化能力を超えて環境を汚染しています。

また、乱獲などにより、海洋の資源量は、下降の一途をたどっています。
現在では、漁業の対象となる海産物のおよそ30%が乱獲状態、つまり絶滅する危険性があります。
さらに、50%の海産物が限界まで漁獲されており、今以上に獲ることができる海産物は10%しかありません。[*8]

それにも関わらず、食品ロスの割合は、生産される全食料の3分の1にも及び、一年間に廃棄される食料は、重量にして13億トン、経済価値にして1兆ドルにも達しています。[*9]

図2:世界の水産資源の推移
*出典:世界自然保護基金(WWF)「持続可能な漁業の推進」(2019)
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3554.html

 

衣類の生産と消費も、持続可能であるとは言えません。
衣類の生産には、大量の水を必要とし、1着のTシャツを作るのに2,700リットルもの水を必要とします。[*10]

また、衣類の生産によって排出される二酸化炭素は、2030年までに現在の60%以上も増大し、2億3千万台もの自動車の年間排出量に相当する、年間28億トンに達する見込みです。[*11]

そのほか、衣類に付きものの染料は多量の水を消費しますし、原料のポリエステルやナイロンはマイクロプラスチックとなって海を汚染します。

このように、人類は限度を超えて生産し、消費し続けているわけですが、日本の責任も少なくありません。
日本のエコロジカル・フットプリントは、世界平均の1.7を上回る2.8です。
これは、世界中の人々が日本と同レベルの生活を送った場合、地球が2.8個必要になることを意味しています。(図3)[*12]

図3:各国のエコロジカル・フットプリント
*出典:世界自然保護基金(WWF)「あなたの街の暮らしは地球何個分?」(2019)
https://www.wwf.or.jp/activities/activity/4033.html

 

また、世界の人口は、2050年には95億人に及ぶと予想されています[*13]。
つまり、2050年には、現在よりも18億人分多くの物を生産する必要があるのです。
それは、可能でしょうか。
可能だとしても、そのときの資源の残存量は、どの程度になっているのでしょうか。
物の生産・廃棄に伴う土壌や水、海洋の汚染は、今よりもずっと進行しているのはないでしょうか。

だとすれば、資源を多く必要とする製品や環境負荷が高い製品の価格が上がっている可能性があります。
つまり、資源の価値が高騰すると共に、環境汚染の浄化コストが製品の価格に上乗せされるのが当たり前になることを意味します。
もちろん、浄化コストを製品価格に含めることは、環境にとって良いことです。
ですが、このとき、私達の生活は、今とは異なっているでしょう。
それはきっと、今ミニマリストと呼ばれる人々の生活に近いものなのではないでしょうか。

ミニマリストとは無駄に消費しない捨てない人のこと

一方、日本にも、所有しないことを良しとする考え方が広まっています。

しかし、どうやら、捨てることだけに偏っていたり、消費削減を実践せず、シンプルな生活のスタイリッシュさのみが強調されていたりすることが多いようです。
物を捨てられるだけ捨てるものの、家に物を置きたくないことから使い捨て品を多用するなど、むしろ環境保全に反した行動をする人も中にはいるようです。

そもそも、欧米のミニマリストは、物を捨てずに寄付したりリサイクルしたりします。[*14]
寄付する先が分からなかったり、感染症対策として寄付しづらいこともあるかも知れませんが、そのときは、捨てる物を可能な限り分解し、丁寧に分別してリサイクルすることが大切です。

また、日本においては、3R(リデュース・リユース・リサイクル)を実践している人こそがミニマリストと言えるのではないでしょうか。
リデュースは無駄なものは買わず買ったものは長く使いゴミを減らすこと、リユースは捨てずに再利用することです[*15]。
これらの意味から、3Rの実践者はまさにミニマリストと言えるでしょう。

これからミニマリストになろうと思っている方は、捨てることから始めず、無駄な物を買わないことから始めてください。
捨てることはいつでもできますし、今家にある物が大切な物となり、長く使う物になるかも知れません。

ミニマリストは、物を捨てる人ではなく、購入する物を慎重に選ぶ人です。
生産地や生産方法など、できるまでの背景も知ることで、物の本当の安全性や生産・輸送することによる環境負荷などが分かります。

そして、より安心できる物は、地域の産物から得ることができます。
なぜならば、生産者の顔を知ることで安心感が得られますし、物を大切にする意識が高まると考えられるからです。

このように、日本では、3Rと地産地消に取り組む人こそが、ミニマリストと言えるのではないでしょうか。

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参照・引用を見る
  1. EcoMENA「How Living a Minimalist Lifestyle Can Help Our Environment」(2020)
    https://www.ecomena.org/minimalist-lifestyle/
  2. Climater Tracker「MINIMALISM TREND: WILL IT SAVE THE PLANET?」(2017)
    http://climatetracker.org/minimalism-trend-will-it-save-the-planet/
  3. Global Citizen「5 Ways To Live Minimally And Help Save The Environment」(2016)
    https://www.globalcitizen.org/en/content/minimalism-how-to-living-simply-meat-recycling/
  4. The Conversation「When people downsize to tiny houses, they adopt more environmentally friendly lifestyles」(2017)
    https://theconversation.com/when-people-downsize-to-tiny-houses-they-adopt-more-environmentally-friendly-lifestyles-112485
  5. 国連人口基金東京事務所(UNFPA)「State of World Population 2019」
    https://tokyo.unfpa.org/sites/default/files/pub-pdf/%E4%B8%96%E7%95%8C%E4%BA%BA%E5%8F%A3%E7%99%BD%E6%9B%B82019%20%E8%8B%B1%E8%AA%9E%E7%89%88.pdf p164
  6. 世界自然保護基金(WWF)「あなたの街の暮らしは地球何個分?」(2019)
    https://www.wwf.or.jp/activities/activity/4033.html
  7. 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構「食料増産と資源・環境問題としての肥料」(2010)
    http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/pdf/mgzn12301(3).pdf p1
  8. 世界自然保護基金(WWF)「持続可能な漁業の推進」(2019)
    https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3554.html
  9. 国連広報センター(UNIC)「目標 12 持続可能な消費と生産のパターンを確保する」(2018)
    https://www.unic.or.jp/files/Goal_12.pdf p2
  10. World Wildlife Fund (WWF)「The Impact of a Cotton T-Shirt」(2013)
    https://www.worldwildlife.org/stories/the-impact-of-a-cotton-t-shirt
  11. Global Fashion Agenda「PULSE OF THE FASHION INDUSTRY 2017」
    https://globalfashionagenda.com/wp-content/uploads/2017/05/Pulse-of-the-Fashion-Industry_2017.pdf p11
  12. 世界自然保護基金(WWF)「あなたの街の暮らしは地球何個分?」(2019)
    https://www.wwf.or.jp/activities/activity/4033.html
  13. 農林水産省「世界の食料の需給動向と我が国の農産物貿易」(2014)
    https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h26/h26_h/trend/part1/chap1/c1_1_01_2.html
  14. World Wildlife Fund (WWF)「When environmentalism and minimalism converge」(2017)
    https://blogs.wwf.org.uk/blog/green-sustainable-living/environmentalism-minimalism/
  15.  一般社団法人 産業環境管理協会「3Rについて」
    https://www.3r-suishinkyogikai.jp/intro/3rs/

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