建築家・妹島和世がめざす、自然と人間と社会をつなぐ“しなやか”な建築をめぐって :The Blue Project #6

建築家・妹島和世がめざす、自然と人間と社会をつなぐ“しなやか”な建築をめぐって :The Blue Project #6

自然電力は「青い地球を未来につなぐ。」という存在意義を掲げています。この目的を共にする、11人のチェンジメーカーたちがいま考えることを探求するシリーズ「The Blue Project」。第六回は建築界のノーベル賞とも呼ばれるプリツカー賞を受賞し国内外で活躍する建築家、妹島和世さんのもとを訪ねました。妹島さんは、人間と自然のつながりに対し建築がどうかかわっていくと考えているのでしょうか。

自然に合わせて変化する建築

――妹島さんは日ごろどんなときに自然の存在を意識されますか?

雲や空を見るときが一番自然を意識するかもしれません。例えば飛行機に乗ると毎回窓から見える雲の様子が異なっていて、今日は特別だ、また次の日も特別だという具合でいつも圧倒されています。天気予報図を見ると雲や風はとても流動的で、さまざまな要因が自然をつくっているのだと気付かされます。

 

――(江東区にある)妹島さんの事務所は近くに川も流れていますし、都心とは自然との距離感も変わりそうです。

水も自然を感じますよね。この事務所は河口に近いこともあって、朝と夕方で川が流れる方向も変わるし、満潮・干潮で水位もかなり変わります。大雨が降れば川が溢れそうになることもある。茨城県日立市に生まれて小さいころから海を見ていたからなのか、水に近い場所が好きです。

 

――COVID-19によって自然との向き合い方が変わった方も増えていますが、妹島さんはいかがでしょうか?

わたし個人の変化としては、出張がほぼなくなったことが一番大きく変わったことです。以前は年間約3分の1は海外にいたので、日々のサイクルが変わってスローダウンしている。ただ、人間と自然の関係性という意味では東日本大震災が大きかったようにも思います。津波がすべてを流すさまはかなりショッキングでしたし、圧倒的な自然の前ではわたしたち人間も動物もなすすべがなかった。それ以降、世界中では山火事とかハリケーンとかいろいろなことが起こり、自然と人間の関係性はバランスが崩れていたのだと気付かされました。自然災害は比較的ローカルな事象でしたが、バランスが崩れた果てに生じた今回のCOVID-19では世界中が等しく同時に影響を受けるような状況に陥ったように思います。

 

――現在はこうした環境の変化へ対応すべく多くの人々が努力していますが、一方では個人としてどんなアクションをとればいいのかわかりづらいようにも思います。

建築の世界でも20年くらい前からエネルギー問題への取り組みは増えていましたが、日本にも北ヨーロッパの基準をそのまま持ち込んでしまっている側面があり違和感も残ります。比較的乾燥しているヨーロッパでつくられる高気密・高断熱な建物が、亜熱帯化しつつある日本や東南アジア圏の地域においても“正解”になるとはかぎらない。もっと気軽に開け閉めできるような空間でもいいのではないか、と。毎日変化する自然に抵抗するのではなく、自然に合わせて変化できるしなやかな建築の方がアジアには適しているのかもしれません。建築そのものが省エネルギーになったとしても、その周囲の環境への配慮やつくられる過程の環境負荷を考えなければ意味がないですし、多面的に環境問題を考える必要性が高まっていると感じます。

インタビューは東京都江東区の事務所にて行なわれました。

柔らかく呼吸する都市

――建築物そのもののエネルギー効率だけを考えても仕方がないわけですね。そこを訪れる人のことも考えなければいけなさそうです。

建築の世界では空間を使う人や訪れる人を「ユーザー」と呼ぶことがあるのですが、本来はユーザーじゃなく当事者であり主役ですよね。たしかに建築家は空間を組み立てることについてはプロフェッショナルですが、建築家だけが街をつくっているわけではない。市民一人ひとりが権利も義務ももっているわけで、さまざまな人々が自分たちのものだと思えるような空間をつくっていかなければいけないでしょう。或いは作るプロセスも重要だと思います。

 

――妹島さんが仰るようなかたちで建築や都市が変わっていくと、たとえば30年後の社会は自然とどんな関係を結んでいるでしょうか?

頑丈さを追い求めるのではなく、自然と一緒に柔らかく呼吸できるような都市が生まれたらいいなと思っています。これまでは重たくて頑丈な建物の方が快適だと考えられがちでしたが、柔らかくて軽くても人間が快適に過ごせる環境をつくれるようになれたらなと。そのためにはテクノロジーが変わるだけではなくて、わたしたちが自然の変化を受け入れられるようになる必要もある。画一的になるのではなく、異なる人々がお互いに調整したりリスペクトしたりしながら生きていけるような空間をつくっていきたいですね。

 

――そのためには建築側だけでなく社会や制度も柔軟に変わっていく必要がありそうですね。

そうですね。たとえば美術館や住宅をつくるときには、20〜30年後に当初とはべつの用途でも使えるようなルーズさやタフさをもたせたいと思っています。制度の面では、COVID-19を受けて「換気」があらためて注目され始めています。もっともこれまで閉じた空間を前提としてさまざまな基準や方法が設けられていた点もあるので、いろいろ考えないとうまくいかない側面もあります。いずれにせよ、建物の外の環境とまったく違うものを内部につくろうとすることに無理が出てきているように思います。

事務所でも自然電力のでんきが使われています。

どう公共空間をつくるか

――妹島さんは海外でのお仕事も多いですが、自然と建築の関係は地域によっても変わるものでしょうか。

地域ごとに光の違いは強く感じますね。たとえばメキシコだと強い日差しによって影が生まれることで涼しい空間がつくられるけれど、日本で同じことをすると薄暗い湿っぽい空間が生まれてしまう。ただ、どちらがいいというより自然現象の変化を楽しめる空間をつくることが重要じゃないでしょうか。単に自然や外部を遮断してしまうのではなく、外部に対してつながっていくような空間をどうすればつくれるのかよく考えています。たとえば大阪芸術大学の新校舎では、大きなひさしのような3枚の屋根が重なり合って光を乱反射させ、中と外の境界線をはっきりさせない薄明るい空間を生み出しています。

 

――内と外という観点から都市を見ると、公共空間は両者をつなぐものでもありそうです。妹島さんはよく「公園」という空間に言及されていますよね。

わたしはよく公園みたいな場所をつくりたいと言葉にしておりますが、それはいろいろな目的をもったいろいろな年代の人々が同時にいられる場所をつくりたいということです。それぞれが自分の時間と空間をもちがなら適当に過ごしているけど、同時にそこにいる他の人と一緒に場所をつくっているということも感じられる場所。COVID-19によって人と会うことは減っていくと時々言われますが、そんな時代にこそいろいろな人が一緒にいられる場所は重要だと思っています。街は個人の生活だけではなく、いろいろな人が集まることで生まれるもの。だから多様な人々がそれぞれを尊重しながら過ごせる空間を建築家としてどうつくっていけるのか考えたいと思います。最近は「公共空間」といっても、実際は限られた人しか使えない、或いは同じような人のみが集まってくるような場所も増えているように思います。

妹島さんが手掛けた大阪芸術大学の新校舎の制作過程はドキュメンタリーとして公開もされています。

建築家の役割が変わる

――公園や公共空間というと海外の方が豊かな印象もありますが、日本との差異は感じますか?

でも、日本にも小さな公園や遊歩道はありますよね。事務所のそばの運河にもあるときから遊歩道がつくられたのですが、運動する人もいれば散歩する人もいて。以前は近くにどんな人が住んでいるのかわからなかったけれど、自然とコミュニケーションが生まれることもあります。ロンドンには一定の地域の人々が共同で管理する庭みたいなものがありますが、そういったコミュニティの人々によって空間が生まれていくのも興味があります。

 

――建築家の役割もますます広がっていくんでしょうか。

学生など若い方々とやりとりするなかでも、変化は感じますね。建築物だけを設計するというより、もっと違う考え方から空間にアプローチしているような気がします。わたし自身、犬島のプロジェクトではとくに変化を感じました。これまではひとつの建築や空間をつくってプロジェクトが完結することが多かったのですが、犬島は小さかったこともあり、島全体に広がる取り組みとして続けてみたくなった。ある完成を目指すのではなく、作りながら問題を考え続ける。風景としては都市問題にとても貢献していて、でも使われ方としては完全にパブリックでなくもう少し閉じながら維持されている。当初は面積が限られているからこそ成り立つ取り組みなのかと思っていたのですが、本来は東京でも成立するんじゃないかと。わたしは建築家として空間を使って関係性をつくってきたので、その意味ではアプローチする対象が広がっているともいえそうです。

 

――妹島さんが仰っているような変化が起きていくと、自然と建築、自然と人間の関係性も変わりそうです。

わたしとしては、アジア的な自然との関わり方から、環境と循環していける建築や街をつくれたら面白いなと思っています。気候の変化をはねのけるような街ではなく、変化に寄り添っていけるような街。建築をつくることは必ずしもゼロから新しい空間をつくることではなく、これまでの習慣や文化の上に乗るものをつくっていくことでもある。建築家に限らず、それぞれの分野のプロフェッショナルがこれまでとは違う考え方から生活のサイクルをつくっていけるといいのかもしれません。

 

*「The Blue Project」とは、「青い地球を未来につなぐ。」という存在意義を掲げる自然電力のプロジェクト。その目的を共にするチェンジメーカーたちと、いま考えることを探求していきます。
*黄色い照明は、自然電力の活動に賛同するLittleSunのプロダクトです。

妹島和世 Kazuyo Sejima

建築家。1981年日本女子大学大学院修了。1987年妹島和世建築設計事務所設立。1995年西沢立衛とSANAA設立。2010年に第12回ヴェネツィアビエンナーレ国際建築展ディレクターを務める。現在、ミラノ工科大学教授、横浜国立大学大学院Y-GSA教授、日本女子大学客員教授、大阪芸術大学客員教授。

自然と未来が対話する。チェンジメーカーたちが今感じていること。
THE BLUE PROJECTの他インタビューはこちら。
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