現代はモノが大量生産され、国を超えた輸送も便利な社会です。
一方で、多くの「ムダ」も生まれています。必要以上のモノが生産されては大量に破棄されたり、それらを必要以上に燃料を使って運んだりしています。
しかし、資源は限られており、かつ世界で人口増加が続く中では、こうした社会がいつまでも持続できるとは考えられません。
そこで、資源を「必要なときに、必要な分だけ」使うようにする社会に向けた国内外の取り組みについて紹介します。
燃費向上だけでは解決できない輸送部門のCO2排出量
EUのレポートによると、EUでは2018年段階で1990年に比べて約25%のCO2排出量削減に成功しています(図1)。
図1 EUのCO2排出量の推移
(出所「Annual European Union greenhouse gas inventory 1990–2018and inventory report 2020」)
https://www.eea.europa.eu//publications/european-union-greenhouse-gas-inventory-2020 p iii
しかし、部門別のCO2排出量の増減を見ると、CO2排出量が増加している部門もあり、最も増加しているのが道路輸送部門です(図2)。1990年と比べ2018年では、1.72億トン増えています。
図2 EUの部門別CO2排出量の増減(1990年~2018年)
(出所「Annual European Union greenhouse gas inventory 1990–2018and inventory report 2020」)
https://www.eea.europa.eu//publications/european-union-greenhouse-gas-inventory-2020 p v
日本でも輸送部門のCO2削減は大きな課題になっています。
技術の進歩により貨物自動車の燃費は改善しています(図3)。しかし、人口の減少や、消費者の需要に応じて配送頻度が高まったことで1台あたりの積載量は減少し、全体で見るとエネルギー消費量は”全体的に悪化”しているのです(図4)。
図3、4 日本での貨物自動車の燃費推移とエネルギー効率
(出所「物流分野におけるモビリティサービス(物流MaaS)勉強会とりまとめ説明資料」経済産業省)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/butsuryu_maas/pdf/20200420_03.pdf p9
こうした問題を解決するための「運輸・輸送の効率化」に関する取り組みが、国内外で始まっています。
各種対策を見ると、現代ならではの様々なアプローチ方法があることがわかります。
日本企業が進める「グリーン物流」
日本では、「グリーン物流」への取り組みが進んでいます。
「グリーン物流」とは、車両のスペースの無駄をなるべく無くし、効率の良い運送方法に変えることで輸送段階で発生するCO2排出量を抑制するものです。
共同配送による店舗数とトラック台数のデカップリング
グリーン物流の一例として、「共同配送」で積載率を向上させる方法があります(図5)。
図5 「直送」と「共同配送」の概念
(出所「物流分野におけるモビリティサービス(物流MaaS)勉強会とりまとめ説明資料」経済産業省)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/butsuryu_maas/pdf/20200420_03.pdf p11
メーカーごとにトラックを手配し小売店に商品を届ける「直送」システムでは、ひとつの小売店の売り場を満たすのにメーカーごとのトラックがそれぞれ通う必要があります。
しかし中間に共同配送センターを設け、複数社の商品を1箇所に集めれば、荷主から小売店への配送ルートは1方向で済みます(図5右)。また、共同配送センターから出発するトラックに複数のメーカーの商品を積載して小売店を回れば、小売店に到着するトラックの台数を大幅に減らすことができる、という利点があります。
セブン-イレブンは創業当初からの悩みであったこの「直送」による輸送の複雑さを「共同配送センター」の設置によりシンプルにしています。
コンビニエンスストアでは様々な温度の商品を扱っていますが、各温度別の共同配送センターを設置することで、店舗数とトラック台数のデカップリングに成功しています(図6)。
図6 セブン-イレブンの店舗数とトラック台数の推移
(出所「セブン-イレブン物流効率化(省エネ化)の取組み」経済産業省資料)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/pdf/023_05_01.pdf p7
企業の垣根を超えたモーダルシフト
もう一つは「混載」の方法です。企業の垣根を超えた取り組みが始まっています。
関西から九州を結ぶ商品などの輸送について、キユーピーとサンスター、日本パレットレンタルの3社は共同の配送網を構築・実施しています。
図7、8 複数社混載での輸送効率化
(出所「令和元年度グリーン物流パートナーシップ優良事業者表彰受賞者決定」国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001319275.pdf
従来は会社ごとに同じ方面に向けてトラックを走らせていた、という状態でした(図7)。
これを統合し、同じトレーラーが各社を回って荷物を積み、かつ船舶で一気に九州まで輸送したのち、関西でも1台のトレーラーが各社の物流センターを回るという仕組みに変更し、効率化に成功しています(図8)。
この取り組みにはいくつかの利点があります。
まずはトラック輸送の大幅な削減です。それぞれ、
・サンスター:529km
・キユーピー:464km
・日本パレットレンタル:543km
のトラック走行距離が削減されています。
車両側から見ても「一定量の荷物を定期的に運ぶ」ことが可能になり、空車率が大幅に減少しました。
また、トラックよりも環境負荷の小さい船舶を利用することでCO2の大幅な削減にも成功しています。
車両からより環境負荷の少ない船舶や鉄道に輸送手段を切り替える手法は「モーダルシフト」と呼ばれ、世界的に注目されています。
各社が出荷量やタイミングの足並みを揃えることで、環境負荷の軽減に繋げているのです。
海外の動向〜需要への最適化「オンデマンド交通」
海外では、「人の輸送」である交通機関で「オンデマンド」が広がっています。
「オンデマンド」というとインターネットでの動画や番組視聴を思い浮かべる人が多いかと思いますが、「要請を受けてから実施する」といった意味合いです。
これを交通システムに当てはめ、交通機関の無駄な走行を減らすサービスが欧米ではすでに展開されています。
IoT、AIを利用したモビリティサービス
近年、海外で普及しつつあるのがIoTやAIを利用した交通サービスです(図9)。
図9 IoT・AIで可能になるモビリティサービスの概念
(出所「『IoTやAIが可能とする新しいモビリティサービスに関する研究会」中間整理」経済産業省)
https://www.meti.go.jp/press/2018/10/20181017005/20181017005-2.pdf p6
交通機関を決まった時刻表で運行するのでははなく、「何時ごろどこで乗りたい」という需要をリアルタイムで把握し、それに合わせて走らせるというものです。
稼働率が上がることで、環境負荷の軽減にも繋がることが期待されています。
例えばアメリカでは、ICT技術でバスやタクシーの運行を合理化しています。
サンフランシスコ周辺では、利用者の需要状況に応じてリアルタイムで運行ルートや時刻を更新して走る「デマンドバス」の導入が進んでいます。
利用者がスマホアプリを通じて希望する乗車時間や場所を指定し、その最大公約数で運行時刻やルートを決めるというものです(図10)。
「必要な時に、必要な場所を走る」というこのサービスは、14人乗りのシャトルバスで1日あたり100種類以上の路線で提供されています*1。
図10 サンフランシスコ周辺で展開中のデマンドバス
(出所「『IoTやAIが可能とする新しいモビリティサービスに関する研究会」中間整理」経済産業省)
https://www.meti.go.jp/press/2018/10/20181017005/20181017005-2.pdf p10
また、ニューヨークやワシントンなどでは、同一ルートで移動できる乗客をリアルタイムでグループ化し、乗降車スポットを自動的に指定して走らせる乗合バスのサービスがあります*2。
こうしたリアルタイムでの需給マッチングサービスは無駄な車両走行を最小限にできるほか、柔軟性が高いため利用者にも大きなメリットをもたらしています。
「ラストワンマイル」は自動運転で
輸送によるCO2排出量に関してもうひとつの課題だったのは、「ラストワンマイル」の効率化です。
ラストワンマイルとは、宅配サービスなどで、物流センターを出発してから個人の住宅までの「最後の区間」を指すものです。
通信販売の普及で宅配需要が増える中、不在や再配達の多さはドライバーの負担になるだけでなく、CO2排出量の増加も問題になっています。
そこで、欧米ではラストワンマイルの輸送効率化を進める動きがあります。
そのうちのひとつが「自動化」です(図11)。
図11 海外でのラストワンマイル無人化
(出所「『IoTやAIが可能とする新しいモビリティサービスに関する研究会』中間整理」経済産業省)
https://www.meti.go.jp/press/2018/10/20181017005/20181017005-2.pdf p12
ドローンでのラストワンマイル配送は、小型機の場合は有効だという研究結果があります。ローターが4枚の「クアッドコプター」を備え、0.5kg程度のパッケージを運ぶ場合にはディーゼルトラックに比べてカリフォルニア州では温室効果ガスを54%削減、ミズーリ州では23%削減する効果があるということです*3。
ただ、大型機の場合はディーゼルトラックよりも50%悪化するケースがあり*4、より細かい最適化が今後必要とされます。
また、イギリスではフードデリバリー用の小型ロボットが開発されています(図10下)。化石燃料で走るトラックと違い、CO2排出量をゼロにすることも可能にしています。
物流革命は「ワンマイル」の積み重ねから
宅配サービスでは、日本でも取り扱い荷物のうち2割が再配達に回されています*5。
奇しくも最近は新型コロナウイルスの感染拡大で非接触をはかるために宅配ボックスの利用が進みました。
物流の需給のリアルタイム把握は、「欲しい時に届けてもらえる」という利用者のメリットとも一致するため、スマートフォンのアプリなどを積極利用した自動化が進むと考えられます。
また、こうしたIT・ICT技術の進展で、企業が過剰在庫を抱えずに済むような供給調整も可能になることが多いに期待されます。「ごみ」と化してしまう商品の生産をなくすことで、廃棄物はもちろんのこと、生産や輸送にかかる不必要なCO2排出量の削減にも繋がります。
国内外の取り組みは、現代の巨大物流網を「ワンマイル」から変えようとする行動と言えるでしょう。
参照・引用を見る
図1 、2「Annual European Union greenhouse gas inventory 1990–2018and inventory report 2020」
https://www.eea.europa.eu//publications/european-union-greenhouse-gas-inventory-2020 p ⅲ、ⅴ
図3-5「物流分野におけるモビリティサービス(物流MaaS)勉強会とりまとめ説明資料」経済産業省
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/butsuryu_maas/pdf/20200420_03.pdf p9、11
図6「セブン-イレブン物流効率化(省エネ化)の取組み」経済産業省資料
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/pdf/023_05_01.pdf p7
図7、8「令和元年度グリーン物流パートナーシップ優良事業者表彰受賞者決定」国土交通省
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001319275.pdf
図9-11「『IoTやAIが可能とする新しいモビリティサービスに関する研究会』中間整理」経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2018/10/20181017005/20181017005-2.pdf p6、12、10
*1、2「『IoTやAIが可能とする新しいモビリティサービスに関する研究会」中間整理」経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2018/10/20181017005/20181017005-2.pdf p10
*3、4「Energy use and life cycle greenhouse gas emissions of drones for commercial package delivery」nature communications
https://www.nature.com/articles/s41467-017-02411-5
*5「宅配便の再配達削減に向けて」国土交通省HP
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/re_delivery_reduce.html