環境保全活動と循環型社会がテーマとなると、必ずといっていいほど語られる「3R(スリーアール)」。
物を減らす意味合いの「リデュース」(Reduce)と、ある物をそのまま再利用する「リユース」(Reuse)。そして廃棄物を回収して再資源化する「リサイクル」(Recycle)の3つの単語の頭文字を取った「3R」は、今や環境保全活動のスタンダードな考え方となっています。
同様に、今ある物の形を変えて再び利用する「リノベーション」や「リメイク」は、暮らしの中でも実践でき、環境保全にも繋がる有効な手段です。
古いものに再び命を吹き込む
古くてもまだ使える物を廃棄せず、いかに魅力ある形で再生するかに注目が集まる昨今。
日本と欧米の比較も交えながら、これらの事例を見ていきましょう。
発展途上にある日本の住宅 *1
日本の住宅は、欧米と比べると著しく平均寿命が短く、リノベーションの意識が世界から30年ほど遅れていると指摘されています。
欧米と日本のこの差は、建物の耐久性の違いではなく、新築偏重の日本の住宅事情に起因していると言われています。
図1「住宅の平均耐用年数比較」
出所)日本住宅修繕協会HP「建築への取り組み」
https://correct-co.jp/建築への取り組み/
日本と比べて3倍の寿命を持つ欧米の住宅 *2
ヨーロッパでは、前世代からの住宅を引き継ぐことが一般的で、住宅を循環的に使う「ストック型社会」と言われています。
このように住宅を引き継ぐことは、建物を取り壊して建て替えるより環境への負荷を大きく減らすことができ、住宅にかかるコストの削減にも繋がります。
一般的に、ヨーロッパ人が、日本人より少ない収入でバカンスや文化へ投資するゆとりや豊かさを享受しているのは、住宅にかける費用が小さいことが理由のひとつとされています。
図2「ストック型社会と生活収支比較」
出所)リノベーション協議会HP「日本の住宅ストックについて」https://www.renovation.or.jp/renovation/stock/
「つくっては壊す」から「長く使う」へ
一方、日本の住宅の7.5戸に1戸は空き家になっており、空き家を含める既存の住宅を長く活用していくことが今、求められています*2。
このような背景の中で、住宅の長寿命化を図るための法律も公布され、住宅政策はストック
型社会へと大きく舵が切られました。
従来の「つくっては壊す」スクラップ&ビルド型の社会から、「いいものを作って、きちんと手入れをし、長く大切に使う」ストック型社会への転換を促すための法律が制定されたのです。
この「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」は、長期にわたり住み続けられるための措置が講じられた住宅を普及させるため、税制優遇などを受けられる政策として平成21年に施行されました。*3
この内容は、十分に使える住宅を壊してしまうことによる廃棄物の増加や環境への負荷、そして費用面での負担を減らし、真の豊かさを求めることを目的とされています。しています。
こうして、住宅政策はストック型社会へと大きく舵が切られることになったのです。
エシカルなリノベーション
環境負荷や経済的な負担が小さいことからも注目されているリノベーション。
現存する建物の骨組みを残した状態で、増改築を施したり建物の用途を変えることで、老朽化した建物に新たな命を吹き込みます。
ここからは、日本でも増加しているリノベーションの魅力ある事例を見てみましょう。
ユーズド品でビンテージ調の雰囲気に *4
「リノベーション・オブ・ザ・イヤー」は、1年を代表するリノベーション作品を施工価格帯別に選別するコンテストです。
2018年の受賞作品では、築46年のRC造マンションの1室を、ヴィンテージ好きな施主の趣味を反映させて、古き良き時代を感じるデザインが最優秀賞に選ばれました。
ヴィンテージ感を出すために、ユーズドの足場を使用した床や、杉板を利用しており、これが経費の節減にもなっています。
リノベーション・オブ・ザ・イヤー最優秀賞
図3「ヴィンテージ感を出した空間作り」
出所)リフォーム産業新聞HP「中古住宅・リノベーション 」
https://www.reform-online.jp/news/renovation/15470.php
廃ビルを 保育園に *5
同じく「リノベーション・オブ・ザ・イヤー」を受賞したのは、鹿児島の中心市街地、天文館にある「そらのまち保育園」です。
この商店街に佇む80年代に建てられた商業ビルは、通りの中でもひときわ目を引く外観で、長い間書店として地域の若者を中心に親しまれてきました。
ところがこの書店が撤退してからは、200坪超という広さが災いしたのか、長きにわたって空室が続き、商店街の衰退を象徴しているかのようでした。
このビルが、幼い命を育む保育園にリノベーションされることになったといいます。
完成した保育園は、アーケードの多い商店街の中で空を仰げる通りに位置しており、1階から3階に至るスペースは、のびのびと過ごすのに十分な広さのある明るい空間になりました。
子供たちがここをふるさととして育ち、生きていく場としてリノベーションされました。
廃ビルが「そらのまち保育園に」
画像4「そらのまちほいくえん」
出所)リノベーション 協議会HP「そらのまちほいくえん〜街のまんなかの、子どもも大人も育つ保育園」
https://www.renovation.or.jp/app/oftheyear/2018/288
多くの人が「見学に来る前は、商店街の中で保育園なんてかわいそうだと思っていた」と話すといいます*6。
ところがそんな人たちも、見学が終わる頃には「商店街で子どもが育つのが、こんなに豊かなことだとは思わなかった」と、 開放感のある園舎で熱く語ってくれるのだそうです。
商店街の中で子どもたちが多くの大人と接して街に関わる環境は、成長過程の子どもにとって貴重な場所なのです。
廃ビルがリノベーションにより再生されたことで街が子どもたちを育て、子どもたちが街を育てています。
街と建物と人のこれらの循環は、まさに本来あるべき姿ではないでしょうか。
祖父の思いを受け継ぐ築200年珈琲店
京都市東山区にある「市川屋珈琲」は、清水焼の工房だった築200年の町屋を、日本建築の趣を残しつつリノベーションした珈琲店です。
陶芸家の孫にあたる店主は、祖父の記憶が残る町屋の造りを残しつつ、新しい感覚を織り交ぜた内装デザインを希望し、江戸期の町家に、モダンなセンスを絶妙なバランスで取り込んだリノベーションが施されました。
町家をリノベーションした市川屋珈琲
画像5「市川屋珈琲」
出所)婦人画報HP「市川屋珈琲」
https://www.fujingaho.jp/gourmet/a75303/ichikawayacoffee/
店内の、白木とダウンライトを用いた明るいカウンターに年代を経た古い柱の対比が新鮮で、吹き抜けになった大和天井*7 や、水神が宿ると言われる井戸を残した町屋カフェは、新旧が融合したスタイルの人気店になりました古い物を残しつつ今の風を吹き込んだ、和のリノベーションの成功例といえるでしょう。
リノベーションによる環境保全効果 *8
建物を再生する手法では、新築工事の建替工事と比較すると、CO2排出量が平均で33分の1に抑えられることがわかっています(図6)。
また、廃棄物の発生も平均22分の1で済み、資源の節約にも直結しているのです。
建設と再生のCO2排出量比較(RCの場合)
図6「建設と再生のCO2排出量比較(RCの場合)」
出所)G-FLAT HP「新築より環境に優しいリノベーション」
https://g-flat.co.jp/blog-news/新築より環境に優しいリノベーション/
リメイクによる環境保全活動
アパレル業界と気候変動問題 *9
昨今、アパレル業界が気候変動問題に影響を与えていると言われています。
パリ協定では、今世紀後半に温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることが決定しましたが、アパレル業界のCO2排出量は増加を続けています。
パリ協定の開催された2015年と比較しても、2030年のCO2排出量は60%以上増加し約20億8千万トンになると予測されています。
この排出量は一年間に2億3千万台の乗用車から排出されるCO2の量と同等程度です。
そして、指摘されているごみ問題。
2015年、アパレル業界から9200万トンの繊維が廃棄され、2030年にはさらに5700万トン増加すると予測されています。
リメイククリエイター大賞 *10
「リメイククリエイター大賞」は、「衣服ロス」とも言われる大量廃棄問題を背景に、アパレル業界のサステナビリティの実現に向けて、クリエイティブなセンスで社会へ貢献できるコンテストです。
リメイクによって制作されたコスチュームに、最優秀賞のほかクリエイティビティ賞やエシカル賞など5つの賞と賞金が授与されます。
このコンテストで最優秀賞を受賞した「エシカル・ウェディングドレス」は、5着の服と4メートルの裏地を組み合わせ、ハギレもほとんど残さずに作られています(図7)*11。
受賞作品「エシカル・ウェディングドレス」
図7「エシカル・ウェディングドレス」
出所)note HP「エシカルファッションって?『リメイククリエイター大賞』表彰式で感じたこと」
https://note.com/takechihiromi/n/n5771864f6131
5着の服と4メートルの裏地
図8「5着の服と4メートルの裏地」
出所)note HP「エシカルファッションって?『リメイククリエイター大賞』表彰式で感じたこと」
https://note.com/takechihiromi/n/n5771864f6131
ウェディングドレスの美しいトレーン(裾)
図9「エシカル・ウェディングドレス」
出所)note HP「エシカルファッションって?『リメイククリエイター大賞』表彰式で感じたこと」
https://note.com/takechihiromi/n/n5771864f6131
魅力あるリメイク作品の制作やエシカルなコンテストの開催は、世の中への発信力を持ち、社会貢献にも繋がります。
大切な着物や帯を今も使えるデザインに
母親や祖母から受け継いだ着物や帯は、着ることこそなくても処分はできないという声が多く聞かれます。
これらの着物や帯を、洗練された感性でバッグやコートに変身させるリメイクの例を紹介します。
大島紬の渋い着物をスプリングコートにリメイクし、シルク100%という贅沢なコートに生まれ変わりました(図10)。
大島紬のスプリングコート
図10「大島単 きものリメイク」
出所)EVELYN HP「リメイク作品集」
https://www.evelyn-remake.com/collection/287.html
帯をリメイクしたバッグは、台形のシルエットとシルバーの持ち手がモダンな印象で、帯から作られているとは思えません(図11)。
このようにクリエイティブなリメイクは、箪笥の肥やしになっていた着物や帯を普段使いにするエシカルな手法ともいえるでしょう。
帯から作られたシルク製バッグ
図11「帯をリメイクしたバッグ」
出所)EVELYN HP「帯 リメイクバッグ」
https://www.evelyn-remake.com/collection/241.html
思い出のランドセルをリメイクで実用品に
誰もが子ども時代に使ったランドセルも、革職人の手でハイセンスな逸品に生まれ変わり、ペンケースや財布、ミニランドセルなど昔の思い出が形を変えて再現されます。
どうしても捨てられないものも、このように形を変えることで実用的な持ち物に再生させるリメイクの堅実な一例です。
思い出のランドセルが、財布やペンケースに
図12「大人気のランドセルリメイク 」
出所)Askal Facebook「Askal カバン工房」
https://m.facebook.com/randoserurimeiku/posts/290464098300888/
エシカルなライフスタイルを楽しむために
老朽化した建物や古くなった物、そして大切な人から受け継いだ物をスタイルチェンジして使うリノベーションやリメイクは、新しいものにはないストーリーがあります。
そして、古いものに再び命を吹き込んで有効活用することは、限りある資源の保全にも繋がります。
環境保全には様々な形がありますが、生活のなかで楽しみながらそれらに貢献できるリノベーションやリメイクは、、エシカルなライフスタイルを楽しみながら継続するための、魅力ある術だといえるでしょう。
参照・引用を見る
1
出所)日本住宅修繕協会HP「建築への取り組み」
https://correct-co.jp/建築への取り組み/
2
出所)リノベーション協議会HP「日本の住宅ストックについて」
https://www.renovation.or.jp/renovation/stock/
3
出所)国土交通省HP「長期優良住宅のページ」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk4_000006.html
4
出所)リフォーム産業新聞HP「中古住宅・リノベーション 」
https://www.reform-online.jp/news/renovation/15470.php
5
出所)リノベーション 協議会HP「そらのまちほいくえん〜街のまんなかの、子どもも大人も育つ保育園」
https://www.renovation.or.jp/app/oftheyear/2018/288
6
出所)note HP「そらのまち保育園を作る時に考えていたこと(前編)」
https://note.com/risadong/n/n91eafcc607a7
7
出所)全国古民家再生協会HP「格子の壁と大和天井」
http://www.kominka-nara.org/blog/8058.html
8
出所)G-FLAT HP「新築より環境に優しいリノベーション」
https://g-flat.co.jp/blog-news/新築より環境に優しいリノベーション/
9
出所)Fashion Revolution Foundation HP「ファッションと環境」
https://www.fashionrevolution.org/japan-blog/environmental-effects-of-fashion/
10
公募ストックHP「リメイク クリエイター大賞」
https://kobostock.jp/koboinfo/refashion-creator-competition-2019/
11
出所)note HP「エシカルファッションって?『リメイククリエイター大賞』表彰式で感じたこと」