時は流れ、時代は移り変わっていきます。
もちろん個人差があることが前提ですが、同じ年頃に同じ時代を生きる同世代が同じような価値観を共有するのは当然かもしれません。
今後労働人口の多くを占めることになるミレニアル世代・Z世代は、社会問題や環境問題に高い関心と意識をもっているといわれていますが、それは本当でしょうか。
そもそも、ミレニアル世代・Z世代とはどのような世代なのでしょうか。
そして、最新の調査結果から見えてくることとは?
ミレニアル世代・Z世代とは?
まず、ミレニアル世代・Z世代がどのような世代か押さえておきましょう。
定義
現在のところ一律な定義はありませんが、アメリカで広く用いられているのは以下のようなものです *1:p.1。
- ミレニアル世代:1981~1996年に生まれた人口層(2021年時点で25~40歳の人々)
- Z世代:1997年以降に生まれた人口層
次に、人口ピラミッドにこれらの世代を当てはめ、日本の一般的な世代名称とも比較してみましょう(図1)。
図1: 日本の人口ピラミッドに占めるミレニアル世代・Z世代の人口層
出典: *2 JOIN THE DOTS 斎藤徹(学習院大学経済学部特別客員教授)「Z世代ってなんだろう?」
https://www.join-the-dots.net/genz.html
この図の右側「米国流 世代名称」の「Y世代(ミレニアム世代)」が本稿でのミレニアム世代、「Z世代(ミレニアム世代)」がZ世代に当たります。
時代背景と別称
次に、価値観に影響を及ぼす可能性のある時代背景をみてみましょう(図2)。
図2: ミレニアル世代・Z世代が生まれ育った時代背景
出典: *3-1 デロイト「コロナ時代にキャリアへの不安を強める日本のミレニアル・Z世代 2020年 デロイト ミレニアル年次調査日本版」(2020), p.7
https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/jp/Documents/about-deloitte/about-deloitte-japan/jp-group-deloitte-millennial-survey-2020-summary.pdf
図中の折れ線グラフは株価を表しています。
ミレニアル世代・Z世代を取り巻く時代背景で顕著なのは、不景気と大きな事件・出来事、そしてデジタルテクノロジーの進展です。
デジタルテクノロジー的背景
これらの世代の代表的な特徴を形成しているのは、デジタルテクノロジーです。
下の図3は、世代別にインターネットの接続端末の割合を表したものです。
図3: 年代別インターネット接続端末
出典: *4 総務省「平成30年版情報通信白書のポイント>第1部 特集 人口減少時代のICTによる持続的成長」(2018)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd142110.html
この図から、ミレニアム世代・Z世代ともに他の世代に比べてスマホの使用率が高いことが見て取れます。
日本では「ウィンドウズ95」の発売が1995年で、それを契機にインターネットが一般社会に普及し始めました。Facebook開始が2004年、iPhone4の発売が2010年です。
こうした時代背景から、物心つく頃にはデジタル機器やインターネットが身近にあったミレニアル世代は別名「デジタル・ネイティブ」、さらにスマホデビューが早く、SNSを日常的に使いこなすZ世代は「ソーシャル・ネイティブ」と呼ばれることもあります *2。
筆者は長年、大学で留学生を対象とした日本語教育に携わっていますが、COVID-19感染拡大防止のため、2020年度の授業はすべてオンラインになりました。
大学のポータルサイトにZoomのURLと教材をアップロードし、学生にはそれをダウンロードしてもらって、授業はZoom、試験にもデジタル・ツールを使いましたが、大きなトラブルもなくスムーズに進められたのは、学生たちがZ世代だったからだと実感しています。
ミレニアル世代もZ世代も基本的なデジタル・リテラシーを周知し、情報収集・拡散・発信が得意です。
そのことは、彼らがデジタル・ツールやSNSによって、彼らの関心事を速やかにキャッチすると同時に、社会に向けても急速に浸透させていくポテンシャルが高いことを意味します。
ただし、デジタル・リテラシーとはいっても、ICTやAIに関する専門性があるかどうかは別の問題です。
現在は、IoTやAI、ビッグデータ、ロボットなどに象徴される技術革新・「第四次産業革命」のただ中にありますが、日本のミレニアル世代・Z世代はどちらもグローバル(日本以外の国)の同世代よりも第四次産業革命への意識が低く、特にZ世代のレディネスの低さは深刻であるという調査結果が報告されています *3-1:p.11、p.12。
環境問題に対する関心と行動力
では、彼らはどのようなことに関心を抱いているのでしょうか。
世界各国のミレニアル世代・Z世代を対象とした調査があります *3-1。
ここからはその調査結果をみていきます。
環境問題に対する関心
下の図4は、懸念する社会課題についてコロナ感染拡大後に13か国を対象に調査した結果です。
図4: 懸念する社会課題上位3項目(COVID-19感染拡大後)
出典: *3-1 デロイト「コロナ時代にキャリアへの不安を強める日本のミレニアル・Z世代 2020年 デロイト ミレニアル年次調査日本版」(2020), p.18
https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/jp/Documents/about-deloitte/about-deloitte-japan/jp-group-deloitte-millennial-survey-2020-summary.pdf
図4から、日本とグローバルとでは回答結果が大きく異なることが見て取れます。
日本の調査対象者はミレニアル・Z世代ともに「経済格差」「医療・疾病予防」「経済成長」を挙げているのに対して、グローバルの対象者はミレニアル・Z世代ともに「医療・疾病予防」「気候変動・環境保護」「失業」を挙げています。
ここで「気候変動・環境保護」に注目すると、日本の調査対象者の回答では上位3位に入っていないのに対して、グローバルの対象者はCOVID-19感染拡大後でも「気候変動・環境保護」に対する関心が薄れることがありません。
ミレニアル世代は第2位で29%、Z世代では第1位で28%に上っています。
別の調査結果もみてみましょう(図5)。
図5: 社会に対する責任と行動化に関する意識(2020年、COVID-19感染拡大後)
出典: *3-1 デロイト「コロナ時代にキャリアへの不安を強める日本のミレニアル・Z世代 2020年 デロイト ミレニアル年次調査日本版」(2020), p.21
https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/jp/Documents/about-deloitte/about-deloitte-japan/jp-group-deloitte-millennial-survey-2020-summary.pdf
図4は社会に対する責任意識と行動化に関する意識を表しています。
この図をみると、ミレニアル世代・Z世代ともにどの項目も日本よりグローバルの回答の方が高い割合を示しています。
特に行動化に関しては、日本とグローバル間ではどちらの世代でも、いずれの項目においても20%以上の開きが見られます。さらに、日本はミレニアル世代とZ世代ではパーセンテージに差が見られるのに対して、グローバルでは両世代間の差はごくわずかです。
以上のことから、残念ながら日本とグローバルとでは環境問題に対する関心の度合いも解決に向けた行動力にも差があることがわかります。また、そのような差はZ世代において顕著です。
課題解決に向けて
では、こうした意識の差は決定的なものなのでしょうか。
実は、そうともいえないことを示す調査結果があります(図6)。
図6: 個人的に懸念していること(2019年、COVID-19感染拡大前)
出典: *3-2 デロイト「2019年 デロイト ミレニアル年次調査 日本版 データ集」 p.6
https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/jp/Documents/about-deloitte/news-releases/jp-nr-nr20190528-jpdatabook.pdf
先ほどの図4はCOVID-19感染拡大後の調査でしたが、上の図6は感染拡大前の調査結果です。
この図を見ると、「気候変動/環境保護/自然災害」と回答した人の割合は日本のミレニアル世代では上位第2位で24%、Z世代では第4位で18%です。
このことから、もともとは環境問題に関心を抱いていたものの、COVID-19感染拡大にともない、より喫緊の「医療・疾病予防」に関心が向いた人が多かったのではないかという推測が成り立ちます。
そうであれば、この世代の強みであるSNSなどを通して環境問題に対する発信を行えば、COVID-19感染の収束とともに、環境問題への関心が戻ってくる可能性があるといえるでしょう。
ここで、年代別スマホの利用時間をみてみましょう(図7)。
図7: 年代別スマホによるネット利用時間
出典: *2 JOIN THE DOTS 斎藤徹(学習院大学経済学部特別客員教授)「Z世代ってなんだろう?」
https://www.join-the-dots.net/genz.html
Z世代と、ミレニアル世代の一部に当たる10代、20代は他の世代に比べてスマホの利用時間がきわめて高く、中でもSNS利用に使っている時間が長いことが改めて把握できます。
先ほどもみたとおり、彼らはデジタル・ツールやSNSによって、関心事を速やかにキャッチすると同時に、社会に向けても急速に浸透させていくポテンシャルが高い世代です。
ミレニアル世代・Z世代のこうした特徴を生かし、SNSを効果的に活用するにはどうしたらいいのか―彼らが環境問題を解決する力になるかどうかのカギは、その答えにあるといってもいいのではないでしょうか。
参照・引用を見る
*1
JETRO(2018)中沢潔「次世代を担う『ミレニアル世代』『ジェネレーション Z』 -米国における世代(Generations)について- 」(ニューヨークだより 2018年10月)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2018/ec095202b7547790/ny201810.pdf
*2
JOIN THE DOTS 斎藤徹(学習院大学経済学部特別客員教授)「Z世代ってなんだろう?」
https://www.join-the-dots.net/genz.html
*3-1
デロイト(2020)「コロナ時代にキャリアへの不安を強める日本のミレニアル・Z世代 2020年 デロイト ミレニアル年次調査日本版 新型コロナウイルス感染拡大がミレニアル・Z世代に及ぼした影響とは?」
https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/jp/Documents/about-deloitte/about-deloitte-japan/jp-group-deloitte-millennial-survey-2020-summary.pdf
*3-2
デロイト(2019)「2019年 デロイト ミレニアル年次調査 日本版 データ集」
https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/jp/Documents/about-deloitte/news-releases/jp-nr-nr20190528-jpdatabook.pdf
*4
総務省(2018)「平成30年版情報通信白書のポイント>第1部 特集 人口減少時代のICTによる持続的成長」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd142110.html