まぐろ問屋が「まぐろでんき」を始める理由

昨年、実質自然エネルギー由来の電気「自然電力のでんき」へと、第二工場とマイナス60℃にもなる冷凍庫の電力を切り替えてくださった三崎恵水産。

なんと今年は、三崎恵水産と自然電力がタッグを組んで新しい電力販売を始めます。その名も「まぐろでんき」。

三崎恵水産は、自分たちが自然エネルギー由来の電気を使うだけでなく、なぜ電気の販売を始めたのでしょうか? 社長の石橋匡光さんの目には、どのような未来が映っているのでしょうか。

今回は、自然電力共同代表の磯野謙とお話させていただきました。

左:石橋匡光さん、右:磯野謙

 

まぐろ問屋が「まぐろでんき」を始める理由

須藤:ちょうど去年の今頃に、代表の長谷川と対談させていただいており、今日は第2弾となります。

前回は、三崎恵水産様が、自社の屋根に太陽光発電設備を設置されたお話から、第二加工場の電気を自然エネルギー100%由来の「自然電力のでんき」に切り替えて下さった、というお話でしたが、今回はついに、『まぐろでんき』のリリースということですね。

どのような想いでリリースされたのでしょうか?

 

石橋:私達の産業はかなりのエネルギー消費産業なんですよ。まぐろは地球の裏側までエネルギーをかけて獲りに行って、マイナス60度で冷凍してるんですよね。そんな中で、我々の仕事自体がサステナブルなのだろうかと自問自答することが昔からあった。まぐろは種の保存というのも大きなテーマなのですが、それだけでなく、我々の仕事のスタイルも変えていきたい、というのが強くなってきたんですよね。

ましてや今は、10年前と違って電気を選べる時代になっています。契約書1枚ですぐ変えられる状況なんですよね。

そういう背景もあり、我々はまぐろ問屋として、サステナブルなまぐろを選ぶのが当たり前であるように、エネルギーも同じようにサステナブルなものを選びたいと思っています。それによって、環境負荷の大きな仕事が持続可能になる可能性があると思っているんです。

そのためには、自分たちだけではなくて、レストランの方やオンラインショップでまぐろを買ってくれるお客さんなど、流通全般を含めて、まぐろでんきを始めとした「RE100(再生可能エネルギー100%)」化を進めていきたいなと思っています。

そして、そういう電気を使ったまぐろを食べたお客さんは、10倍美味しく感じるんじゃないかなって思うんですよ。

というのも、太陽熱給湯器を自宅につけているんですが、最初にそのお風呂に入ったとき、すごく気持ちよかったんです。同じ42度のお湯かもしれないけど、10倍気持ちよかった。そういうことってまぐろでもあると思うのです。

我々はもちろん普段から品質にこだわって、良いものを目利きして選んでいるのですが、それってうちだけではなく、どこのまぐろ屋さんも同じなんです。

そんな中で美味しさとか付加価値をどうつけるか、というと、やっぱりそういう部分ではないかなと思っていますね。

再エネの普及において、コストがネックになるかもしれないけれど、わざわざコストが高いものを選ぶ意味を、弊社の社員含め、皆が分かる必要がありますよね。

ですので、我々のステップとしては、まずは、自分たちの意思でサステナブルな電気を選ぶことができる、ということを伝えられるようになりたい。そして、次のステップは、環境に優しいエネルギーで流通したまぐろが、10倍美味しく感じる、という+αの価値を体験してくれたらと思っています。

それによって、社員や、私達のお客様、三浦半島エリアで、付加価値がコストを超越するところを一緒に感じていければと思っています。

 

まぐろが10倍美味しく感じられる「まぐろでんき」

須藤:ありがとうございます。私も三崎恵水産さんのまぐろを食べましたが、環境に配慮していることを知っているせいか、スーパーで買うまぐろよりも、ずっと美味しく感じた経験があります。

磯野さん、コストを超越する付加価値について、自然エネルギー業界でもお客様の変化を感じますか?

 

磯野:おそらくストーリーが大事だという時代になってきていると思いますね。トレーサビリティ(その商品自体がどこで生産されて、どこで消費されるのか)とかを大切にしている層の関心が、エネルギーにも向いてきていると感じています。

一方で、エネルギーにおけるストーリーをどう表現し切るのかはチャレンジだと思っていますね。

それは僕らだけではなく、石橋さんはじめ、みなさんと一緒に磨き込んでいきたいと思っています。そういう動きは、恐らく欧米ではもう始まっていると思うんですよね。

 

石橋:確かに欧米は早いですね。水産業で言うと、日本は欧米の2年後に波が来ると思っています。MSCというサステナブル認証でも、2年前からアメリカで主流になると言われていて、ようやく今、日本に来ているんですよね。なので、電気もそのように日本で認識が変わっていくような気がする。我々としても、業界をかえてやろうという姿勢というよりは、一人でも「真似してやってみたいな」という賛同者を見つけたいと思っている。それで再エネが広まっていけば嬉しいです。

 

磯野:すばらしいですね。

 

石橋:変えるというと、みんな戦々恐々としてしまうんですよね。ちなみに、うちは2050年に月で寿司屋をやろうと言っているんですよ。回転寿司のデジタル化をやろうという考えがあって、誰もやったことがない分野にチャレンジすることは、戦々恐々としてしまうんだけれど、共通の超越した目標をつくることで、自然と変わっていく可能性があると思っています。

電気でも、うちがまずやることで、じゃあやってみようかなと思ってくれる人がいたらうちのまぐろを選んでくれて、10倍増しに美味しく感じてくれる人が増えて、コストという問題を超越でできるのではないかなと思うんです。

日本でも大手量販店などでもMSC(天然水産物の認証制度)を持っている魚を売っていますが、問題はMSCがついていようといまいと、値段が変わらないことなんです。でも、MSCは本当はかなりコストが掛かってるんですよね。だからこそ、それが付加価値に繋がっていなかったら意味がない。

高いものを売ろうというのではなくて、先程言っていたストーリーの話で、食べたときにどう10倍美味しく感じるかっていうことだと思うんです。

まぐろはコモディティ化が進んでしまっている。100円寿司だってスーパーだって安く買えるけど、付加価値が流通されていない。だからこそちょっと高くても、10倍美味しく感じて、そっちを選びたい、という人を一人でも、一店舗でも多く増やしていきたい。そして最終的に2050年、月で寿司屋をやる、という(笑)。

磯野:スターバックスでおきたことと一緒かもしれませんね。

コモディティ化していたコーヒーにおいて、サードプレイスという空間を作って、品質が高いコーヒーを売ることで、1杯100円の世界じゃなくて、400円500円の世界を作ったというのと一緒ですね。

 

石橋:スタバって、家族5人で行くとすごく高いですよね(笑)。

 

磯野:そうそう、スタバが出てきたから、サードウェーブとかが出てきたと思うんですよ。もちろんスタバの影響だけじゃないと思いますけど、世界中でよりプレミアムなコーヒー文化に繋がっていったわけで。そうすると産地の話とか、エネルギーの話とか、ソーシャルな話とかにも目が行きますよね。まぐろでもそういうことが起きてくるのかなと思いました。

 

良いまぐろを選ぶように、良いエネルギーを選んでほしい

須藤:同業種の方々が再エネをいいなと思ったときにボトルネックになるのはどういった部分なのでしょうか?

 

石橋:やっぱり一番はコストのところ。ただ、この前、自然電力のHATCHのインタビュー記事三崎発、世界一のまぐろ屋を目指す三崎恵水産が追求する、水産業のサステナビリティとはを読んだ若手がすごく突っ込んで聞いてきたんですよ。僕としてもすごいなぁと思いました。

今、特に若い世代は意識して変わろうとしているのを感じますが、一番大きなボトルネックになるのはやはりコストの面かなと思っています。

多分、10年前に再エネ100%にするのは難しかったと思うけど、今は政治も含めてすごく変わったなと思っています。これからの5年でもっとスピードアップして変わっていって、再エネが当たり前になっていくと思っています。

どうですか、磯野さん、10年前と比べて変わってますよね?

 

磯野:確かに全然違いますよね。世界が変わり始めていることを感じます。

同時に、まだまだ一部の人だとも思いますね。二極化している。ビジネスでも国レベルで落ちているところと伸びているところがあるように、どんな世界でも二極化が起きています。だからこそ、記事読んで関心をもってくれた方々を石橋さんがリードして、真似したいな、って思ってもらったときに真似できる仕組みがまさに大事だと思っています。

 

石橋:まずは、変えられるというところがまだあまり知られていないですよね。再エネ100%にするといったら、え、再エネ事業するの? って思う人もいるくらいなので。でも、書類一枚で変えられる、選べる世界になっているわけだから、良いまぐろを選ぶように、良いエネルギーを選びましょう、と伝えたい。

良いまぐろだったら、それに見合った価格をつけるのが普通ですよね。だから、先ほどの話と同じで、良いエネルギーにコストがかかるのは当然だよね、となってほしい。

うちの会社でも、配送スタッフからパートの人まで、全員が同じ意識になればいいなと思っています。

 

三崎という空間で、新しい世界観を体感できるように

磯野:ちょうど先週、URASHIMA VILLAGEに行ってきたんですが、あそこって、新しい世界観を空間で表現しようとしているじゃないですか。それってすごく効果があるなと思って。

やっぱり、目に見える・体感できることは大きいと思うんです。ああいうきれいな場所があって、地元の人たちで新しい宿を運営してて。そこはエネルギーも我々が設計に入ってるんですが、約70%自給してて、あとは我々の電気で100%再エネで動いているんです。そういう、全体感を表現するのが大事だなと思っている。

今回のまぐろでんきを通じて、三崎全体が変わっていくことで、皆が三崎に来たときに、再エネの世界観を体感できるようになるといいと思っています。そして、そんな三崎のブランドが世界中に広がったらと思っています。

 

三崎エリアから世界へ発信できること

須藤:確かに、エネルギーは体感しづらいですよね。再エネの世界観が三崎に行くと体感できる、となると素敵ですね。まぐろでんきが世界に認められる三崎エリアだからこそできることってなんでしょうか?

 

石橋:まず、「まぐろでんき」って名称が目立ちますよね。まぐろってワード自体が、サステナブルな考え方からすると、めちゃくちゃ風当たりが強かったりするんです。海外に行くと絶滅危惧種でしょ、なんで食べてるの、と言われることもある。

それを再エネと組み合わせること自体が、とてもキャッチーだと思っています。

まぐろを売っているというだけで、ものすごい目で見られることもあるんですよね。

サステナブルって、ボイコットして食べるのやめましょうということではなく、どうすれば食べ続けられるか、というのを考えるべきだと思っていて、うちはこうやっている、と胸を張って言えることで、考え方を変えてくれる人もいるかなと思ったり。

うちはまぐろやさんなので、まぐろのよさを世界に広める上で、種の保存という意味でのサステナビリティと、流通でのサステナビリティ両方やっていきたいです。

もう、今年中には、うちも全部切り替えちゃおうかなと思っていますが、磯野さんどう思います(笑)?

磯野:可能ならできるだけ早くやられたほうがいいと思いますね(笑)。

 

石橋:それに、飲食店にもアプローチしていきたいと思っていますね。うちのまぐろを買わなくてもいいけれど、良い飲食店は、良いエネルギーを使ってお客さんに提供しようという価値観は広めていきたいなと思っています。良い飲食店は絶対まぐろでんきです、みたいな。

 

須藤:まぐろでんきについて、自然電力ができそうなことってどういうことがあるでしょうか?

 

磯野:自然電力の役割としてはネットワークを作るのが大事だなと思っています。

地域プロデュースを行うILP(Inter Local Partners)は石橋さんも役員をされていますが、我々も少し協力させていただいているので、まぐろじゃない文脈で、そういうメンバーと一緒にムーブメントを起こしていければと思います。日本だと認知されていないですけれど、たとえば農業の環境インパクトはすごく大きくて、CO2も世界の約20%は農業由来なんですよね。ILPのメンバーには、飲食・農業の人たちも多いので、親和性もあるかなと思います。

食における環境負荷ってものすごく大きいので、そういうことやるのは当たり前だよね、という文化を次の世代を含め広げていくためには、ネットワークはとても大事だと思うので、私達がつないでいくことができればと思っています。

 

石橋:我々としても、うちのまぐろつかってくれたら嬉しいけど、別にそうでなかったとしても、でんきはまぐろでんきにしてね、と伝えていきたいですね。

 

須藤:ありがとうございました。最後に読者の方々へのメッセージをいただけますでしょうか?

 

石橋:ぜひ、まぐろを食べてください(笑)。我々としても、消費者の皆様ありき、だと思うので。先ほども話しましたが、業界を変えたいというより、我々が一歩前に出ることで、もしかしたら皆がフォローしてくれるかもしれないと思っています。持続可能なまぐろを食べることによって、10倍美味しく感じちゃう、というのを体験してくれたら嬉しいです。もし三崎にきたら、うちの工場に来て見てもらいたいし、美味しいまぐろを食べるのと同時に、うちも店舗や家庭の電気を選ぶか、となったときにまぐろでんきを選んでくれたらとても嬉しいです。

 

須藤:ありがとうございます。磯野さんどうですか?

 

磯野:そうですね。自然電力は、実は2020年6月で10周年を迎えました。

 

石橋:おめでとうございます!

 

磯野:ありがとうございます。実は、三崎恵水産様って、自然電力の最初のお客様なんですよね。奇跡的な出会いがあって。(前回のインタビュー記事参照)

 

石橋:そうですよね(笑)。

 

磯野:そういう方とまた10年越しに新しい取り組みをできるのが素晴らしいことだと思っています。石橋さんはこうやって業界のイノベーターとして突き進んでいらっしゃるので、我々はそれをサポートするとともに、世界の社会課題に対して一緒にアプローチしていきたいと思っています。

 

須藤:ありがとうございます。三崎でまぐろを食べたら10倍うまく感じる!そんなエリアになったら嬉しいですね。

 

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今ならオンラインショップ “FISHSTAND” でご利用可能な3,000円分のクーポンとまぐろでんきステッカーをプレゼント中です。加入飲食店さん等にはぜひ店舗にて掲載いただければ幸いです。

 

◆編集後記◆

私が、三崎恵水産様のオンラインショップであるFISHSTANDに初めて出会ったのは、水産業の環境負荷に関するドキュメンタリー番組を見てしばらくたった頃でした。

自分が何気なくスーパーで買っている魚が、環境負荷が高い漁業で取られているものかどうかなんてわからないので、それ以降なんとなく、美味しく魚を食べられなかったのですが、三崎恵水産さんのショップでは安心して買うことができました。まさに、記事の中で石橋さんが仰っていたように、10倍美味しく感じる体験でした。

ちょうど母の日に近かったので、神戸に住む父母に母の日セットを贈ったところ、オシャレに梱包され、バラエティ豊かにアレンジされたまぐろの数々に、「これがまぐろなの?」と感動してもらえました。「まぐろを贈るね」とだけしか伝えてなかったので、てっきり冷凍まぐろの塊が発泡スチロールに入って届くとばかり思っていたそうです。良い意味で両親の期待を裏切ってくださった三崎恵水産さん、ありがとうございました。

 

 

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株式会社三崎恵水産

神奈川県三浦市城ケ島を拠点とするまぐろ専門の卸問屋として、日本全国の飲食店やホテル、旅館、さらには主にUS、アジア圏への海外輸出も行っています。半世紀にわたる経験と目利き力で仕入れた三崎まぐろを通し、”グローバルにローカルに、次世代に豊かな魚食文化を繋く”ことをモットーに、資源保護やエネルギー問題にも向き合い事業を行っています。
http://www.misaki-megumi.co.jp/

遠洋まぐろを扱い超低温冷凍庫を保有する当社では、日々莫大な電気エネルギーを消費しています。東日本大震災以降、少しでもその消費をオフセットしたい。 2011年、社屋に太陽光発電を設置したのが自然電力(株)とのお付き合いの始まりです。 2020年、第二加工場および冷凍庫を再生可能エネルギーへの電力供給に切り替えました。企業としてRE100達成を目指していきます。

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