米粉は小麦粉の代用となるか? 食卓を通し世界と日本の環境問題を再確認しよう

小麦粉は、パンはもちろん、うどんやラーメンなどの麺の原料となっている穀物であり、今や米と並ぶ日本人の主食といっても過言ではないでしょう。

しかし、日本は小麦のほとんどを輸入に頼っており、新型コロナウイルスの感染拡大で小麦の主要輸出国が輸出規制を行ったことから、小麦の価格高騰が起きました。価格を安定させるためにも小麦の自給率を上げるべきだと考えるのではないでしょうか。

そこで、この記事では、世界と日本における小麦の生産や消費の動向、小麦粉の代替として注目を集める米粉の有用性や課題、地球温暖化による小麦生産への影響などについてご紹介していきます。

日本の食卓に欠かせない小麦粉

小麦粉は、多種多様な食品の原料となる穀物です。

様々なパン、ケーキやビスケットなどのお菓子、うどんなどの日本麺、ラーメンなどの中華麺、パスタやピザ、お好み焼きなど、小麦粉が原料の食品は枚挙にいとまがありません。

この多様性は、小麦粉がグルテンというタンパク質を含み、そのグルテンの含有量によって小麦食品の特性が大きく変化することが理由です。

小麦粉は、グルテンの量によって強力粉・中力粉・薄力粉に分類され、種類によって水を加えてこねたときの弾力性や粘着性、パンに加工したときの膨張性、うどんやラーメンに加工したときのコシなどが大きく異なります[*1], (図1)。

図1: 小麦粉の種類とグルテンの含有量、主な用途
出典: 一般財団法人 製粉振興会「第9回 小麦粉の全粒粉と小麦胚芽はとってもヘルシー!」
http://www.seifun.or.jp/kodomo/kenkyu/kenkyuusitu-61.html

この小麦粉は現在、日本の食になくてはならないものになっています。

日本における小麦粉の消費量は、高度成長期に増加して、1970年頃から今に至るまで、1人当たりの年間消費量は30kg付近で安定化しています(図2)。

図2: 日本における小麦の消費量の推移
出典: 農林水産省「日本の麦−拡大し続ける市場の徹底分析−」(2019年)
https://www.maff.go.jp/primaff/koho/seminar/2019/attach/pdf/191023_01.pdf, p.3

一方、もともと日本人の主食である米は、1人当たりの年間消費量が年々減少しており、1962年の118.3kgをピークとして現在は約50kgにまで落ち込んでいます(図3)。

図3: 日本における米の1人当たりの年間消費量の推移
出典: 農林水産省「米粉をめぐる状況について」(2021年)
https://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/komeko/attach/pdf/index-223.pdf, p.1

しかし、米の自給率はほぼ100%であるものの、小麦粉の自給率は直近10年で11〜16%と低い水準です[*2]。
米の生産量も消費量に合わせて減少しており、食料全体としての自給率を考えるのであれば、望ましい状態とは言えません。

小麦粉の代替として利用が拡大している米粉

この低水準な小麦粉の自給率と米の生産量・消費量の減少という問題の解決手段となるのが、米粉による小麦粉の代替です。

近年の製粉技術の発展により、米を製粉した米粉の、パンや麺、洋菓子などへの利用が可能となっています[*3]。

また、小麦アレルギーやセリアック病、グルテン過敏症といった、下痢や意識障害、頭痛などの症状を引き起こす、小麦や小麦に含まれるグルテンが原因の疾患が認知されるようになったこともあり、グルテンを含まない米粉が注目されています[*4]。

特に欧米では、全人口の数パーセントがセリアック病に罹患しているとされ、その患者数は、米国では約1,200~2,600万人、欧州では約400~4,900万人と想定されています。

このような状況を受け、米国では米国食品医薬品(FDA)、欧州では欧州委員会(EC)がそれぞれ、グルテン含有量20ppm/kg以下(米国では未満)の製品のみに「グルテンフリー」の表示を可能とする規制を設けています[*5]。

図4: 世界のグルテンフリー食品の市場規模
出典: 農林水産省「米粉をめぐる状況について」(2021年)
https://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/komeko/attach/pdf/index-223.pdf, p.21

グルテンフリー商品に対する消費者ニーズの高まりを受けて、日本でも、2018年からグルテン含有量1ppm/kg以下の「ノングルテン米粉」の認証制度が開始されています[*4], (図4)。

民間においても、製粉コストの低減やノングルテン米粉商品の開発、増粘剤や油脂などの代替として使用可能な米粉加工品の開発といった様々な取り組みが始まっています[*6]。

しかし、米粉は現状、小麦粉に比べて製粉コストが高く割高です[*6]。
これを解決するには、安価かつランニングコストが低い製粉機の開発が必要です。

それにより、米粉は、輸入に頼る小麦粉の替わりとなるだけでなく、消費量の低下によって行き場のなくなった米の新たな活用先となるはずです。

地球温暖化の小麦生産への影響

一方、世界の小麦の消費量は年々増加し、それに合わせて生産量も増加しています(図5)。

図5: 世界における小麦の消費量と生産量の推移
出典: 農林水産省「海外食料需給レポート(品目別需給編)」(2020年)
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/jki/j_rep/monthly/attach/pdf/r2index-30.pdf, p.1

しかし、世界の小麦の生産地は、一部の国や地域に偏っているという問題があります。

世界の小麦の生産量は6つの国と地域だけで約70%もの割合を占め、輸出量に関しても6つの国と地域だけで約80%もの割合を占めます(図6)。

図6: 世界における小麦の生産量と輸出量の国/地域別の内訳(2020年)
出典: 農林水産省「海外食料需給レポート(品目別需給編)」(2020年)
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/jki/j_rep/monthly/attach/pdf/r2index-30.pdf, p.1

そのため、小麦の生産地で天候不良や干ばつが起きると、その影響は全世界に波及し、日本国内においても小麦製品の価格が高騰する可能性があります。

実際、2012年にアメリカ、2015年に欧州で起きた熱波は、穀物の生産減少の原因となっています(図7)。

図7: 穀物(米・とうもろこし・小麦・大麦など)の需給の推移
出典: 農林水産省「海外食料需給レポート(概要編)」(2020年)
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/jki/j_rep/monthly/attach/pdf/r2index-32.pdf, p.7

この熱波は人間の温室効果ガス排出による気候変動も一因と報告されており、地球温暖化による小麦の生産被害は、過去30年間で平均すると年間136億ドルにもなると推計されています[*7, *8, *9]。

小麦粉の現在と未来

2021年、世界の小麦の生産量は7.7億トンとなり、消費量も7.8億トンと史上最高で生産量を上回る見込みです。
この消費量の増加は、途上国の人口増加と所得水準の向上などに起因すると考えられています[*10]。

近年、伝統的な小麦輸出国である米国や欧州、カナダ、豪州に加えて、ロシアやウクライナ、アルゼンチンなどの小麦の生産量が増大し、輸出を増加させています(図8)。小麦の主要生産地が増えたことに等しく、悪いことではありませんが、エジプトやトルコなどの中東地域やインドネシアやフィリピンなどの東南アジアは、図8に見られるように小麦の輸入量を拡大させており、世界の輸出入量も拡大を続けています[*11]。

図8: 国別小麦純輸出量の推移
出典: 農林水産省「世界の食料需給の動向と中長期的な見通し」(2021)
https://www.maff.go.jp/primaff/seika/attach/pdf/210330_2020_02.pdf, p.12

一方、日本国内における小麦の生産動向と消費動向も変化しつつあります。

国内産小麦は、これまで、その特性から主にうどんなどの日本麺に使用されていました。しかし、近年の品種改良の進展により、パンや中華麺に適した品種も生産可能となり、その用途の幅が広がっています。

また、外国産小麦との価格差もほとんどないことから、学校給食のパンに使う、地場産小麦の製品を開発するなど、地産地消の取り組みが各地で進められています[*12]。

米粉を小麦粉の代わりに活用する取り組みも全国各地で始まっており、米粉の消費拡大による米の消費増加、延いては食料自給率の向上に繋がることが期待されます(図9)。

図9: 全国各地で進む米粉を使った商品開発などの取り組み
出典: 農林水産省「米粉利用の推進を含む米の消費拡大 イ 米粉利用の推進状況」(2009)
https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h20_h/trend/part1/chap1/t2_03.html

このように、輸入に頼っていた日本の小麦需要も、品種の多様化や米粉による代替が始まったことによって、量的にはまだまだ足りませんが、質的には国内生産で満たすことが可能となってきました。

しかし、温暖化の進行による小麦の生産被害は、今後も悪化していくことが予想されます。

もちろん、気候変動に合わせて小麦の生産地を変えたり、品種を変えたりすることで温暖化に対応することは可能ですが、莫大な費用が必要となるでしょう。

小麦粉は、今や日本の食卓に欠かせない食材です。

今後も安定して利用していくためには、国内生産の小麦を利用したり、米粉で代用してみたりして国内生産品を盛り上げていくことが大切です。

また、このような食の問題を通して世界と日本の環境問題を考えてみるのはいかがでしょうか。

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参照・引用を見る

*1

農林水産省「特集 麦(2)」(2010)

https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1003/spe1_02.html

 

*2

独立行政法人 農畜産業振興機構「令和元年度の食料自給率、前年度から1 ポイント増の38%」(2020)

https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_001335.html

 

*3

農林水産省「米粉利用の推進を含む米の消費拡大 イ 米粉利用の推進状況」(2009)

https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h20_h/trend/part1/chap1/t2_03.html

 

*4

内閣府大臣官房政府広報室「世界初「ノングルテン米粉」」(2020)

https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/202001/202001_09_jp.html

 

*5

農林水産省「米粉の輸出拡大に向けた欧米グルテンフリー市場調査」(2019)

https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/attach/pdf/30hokoku-23.pdf, p.46, p.47, p.49

 

*6

農林水産省「米粉をめぐる状況について」(2021年)

https://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/komeko/attach/pdf/index-223.pdf, p.4

 

*7

一般財団法人 環境イノベーション情報機構「アメリカ気象学会、2012年極端気象現象12件のうち半数は人為的な気候変動も寄与と報告」(2013)

https://www.eic.or.jp/news/?act=view oversea=1&serial=30893

 

*8

国立研究開発法人 国立環境研究所「世界気象機関、欧州や北米の熱波など現在発生中の極端気象を報告」(2015)

https://tenbou.nies.go.jp/news/fnews/detail.php?i=16642

 

*9

国立研究開発法人 国立環境研究所「地球温暖化による穀物生産被害は過去30年間で平均すると世界全体で年間424億ドルと推定」(2018)

https://www.nies.go.jp/whatsnew/20181211/20181211.html

 

*10

一般社団法人 農協協会「世界の穀物生産量 消費量を下回る見込み-米農務省予測」(2021)

https://www.jacom.or.jp/nousei/news/2021/04/210427-50989.php

 

*11.

農林水産省「世界の食料需給の動向と中長期的な見通し」(2021)

https://www.maff.go.jp/primaff/seika/attach/pdf/210330_2020_02.pdf, p.12, p.13, p.14

 

*12

農林水産省「特集1 応援しよう!国産の力(2)」(2011)

https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1106/spe1_02.html

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