地球環境の重要性が叫ばれる一方で、私たちが個人レベルで普段できることは意外と少ないのが実情でした。しかし、近年ではSDGsに代表されるように様々な場面でサステイナビリティに注目が集まっています。
なかでもファッション業界は、環境負荷が非常に大きいことが指摘されており、国際的な課題となっています。
このような背景の中で、「サステイナブル・ファッション」が注目されています。
それはどのようなものなのでしょうか。
サステイナブル・ファッションを通して、生活に欠かせない衣服とどのようにつき合っていけばいいのか考えてみましょう。
なぜ、今、サステイナブル・ファッションなのか
サステイナブル・ファッションとは?
まず、サステイナブル・ファッションとはどのようなものか考えていきましょう。
「サステイナブル」は「持続可能性」という意味を表す「Sustainable」 を外来語としてカタカナ表記にしたものです。この概念はSDGs(Sustainable Development Goals)で広く知られるようになりました。
環境省は、サステイナブル・ファッションを以下のように定義しています[*1]。
衣服の生産から着用、廃棄に至るプロセスにおいて将来にわたり持続可能であることを目指し、生態系を含む地球環境や関わる人・社会に配慮した取り組みのこと
この定義の中にある、「生産から廃棄に至るプロセス」、その一連の流れを「サプライチェーン」と呼びます。材料調達から消費、さらに処分に至るまでの一連の流れです。
サステイナブル・ファッションを考えるにあたって、衣類のサプライチェーンを把握することが必要です[*1], (図1)。
図1: 衣服のサプライチェーン
出典: 環境省「SUSTAINABLE FASHION」
https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/
上のサプライチェーンのどの段階においても、環境や人、社会に配慮することが、サステイナブル・ファッションだと考えていいでしょう。
具体的には以下のようなことに配慮する必要があります[*2]。
- 材料を生産する人々の労働環境
- 材料のCO2排出量
- リサイクル可能な繊維かどうか
- 生産工場間の輸送
- 輸送時の保存に使用される化学物質
- 小売店と消費者への出荷
サステイナブル・ファッションが注目されている背景
2020年10月、日本は「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました[*3]。
この目標を達成するのはなかなか難しく、その達成のためには、これまでのビジネスモデルや戦略を根本的に変えていく必要があります。
ところが、これまでは、衣服のサプライチェーンが環境にどの程度の負荷を与えているか把握するのは難しいという状況がありました[*1]。
その原因としてまず挙げられるのは、衣服は様々な素材によってできているということです。例えば、表地以外に、裏地やファスナー、ボタンなどが使われています。また、海外における生産は、数多くの工場や企業によって分業されているため、その実態を把握するのは難しいという問題もあります。
しかし、時代はもう待ってくれません。
環境に様々な負荷を与えているといわれる衣服の現状を的確に把握した上で、対策を講じなければならない時期にきているのです。
衣類が環境に及ぼす影響
環境省は2020年12月〜2021年3月に、日本で消費される衣服と環境負荷に関する調査を実施しました[*1]。
その結果をみていきましょう。
図2: 衣服の原材料調達から製造段階までの地球への負荷
出典: 環境省「SUSTAINABLE FASHION」
https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/
まず、衣類の原材料調達から製造段階で地球にかかる負荷をみましょう。
原料となる植物の栽培や染色などで大量の水が使われ、製造過程ではCO2が排出されます。また、生産過程で余った生地などは廃棄物になります。
このように、この段階において、すでに環境に様々な負荷がかかっているのです。
国内における供給数は増加する一方で、衣服1枚あたりの価格は年々安くなっています。
このことから、大量生産・大量消費されることによって衣服のライフサイクル(寿命)が短期化し、大量廃棄されているのではないかということが推測されます。
個人消費に目を向けると、1人当たりの年間購入枚数は約18枚、手放す枚数は12枚で、1年間1度も着られていない服が25枚あります。
では、手放した後の服はどのように処理されているのでしょうか(図3)。
図3: 手放した後の服の行方
出典: 環境省「SUSTAINABLE FASHION」
https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/
服が循環しているのは、リユースの20%、リサイクルの14%、合わせて34%です。
一方、可燃ごみ・不燃ごみとして出される衣類は508,000tで、その95%が焼却・埋め立て処理されています。その1日あたりの総量は1,300tで、大型トラック130台分に相当します。
これまでみてきたように、衣服の製造は環境に大きな負荷をかける一方で、最後はごみとして処分されることが多く、その処理のためにさらに環境負荷が生じています。
環境破壊を解決するためには、衣服をめぐるこうした現状を変え、よりよい循環を目指して改善していかなければなりません。
サステイナブル・ファッションはまさにそのために必要なのです。
海外における状況と取り組み
ここでは、海外におけるサステイナブル・ファッションの状況と取り組みについてみていきましょう。
世界的な傾向として指摘されているのは、ミレニアル世代(1980年以降に生まれた世代)がサステイナブル・ファッションに関心を抱いていることです。
Mckinsey&Companyが発表したレポート「The state of fashion 2018」では、ミレニアル世代の66%がサステイナブルなブランドの服を買うつもりであると述べられています[*4]。若い世代のこうしたファッション志向は、サステイナブル・ファッション進展のための好材料といえるでしょう。
オランダには、サステイナブル・ファッションのための世界初のミュージアムがあります[*5-1]。
これは「Fashion for Good」という組織が運営するもので、館内では、服が作られるまでのプロセスや未来の革新的なファッションについて学ぶことができます。
また、サステイナブルな製品を買う際の具体的な方法についても知ることができます。
図4: Fashion for Goodの建物(左)・ミュージアムのバーチャル・ガイドツアー(右)
出典: Fashion for Good「ABOUT US」(左)・同「MUSEUM」(右)
https://fashionforgood.com/about-us/ https://fashionforgood.com/museum/
Fashion for Goodの共同創始者であるMcDonough氏は、良いファッションとは単に見栄えがいいのではなく、「以下の5点において良いもの」だと述べています[*5-2]。
- 優れた材料:安全で健康的で、再利用とリサイクルができるもの
- 良い経済:成長し、循環し、共有され、すべての人に利益をもたらすもの
- 良いエネルギー:再生可能でクリーンなもの
- 良い水:清潔ですべての人が利用できるもの
- 良い生活:公正で、安全で、尊厳のある生活と労働条件
この5点において良い商品は、「取る、作る、無駄にする」のではなく、「取る、作る、再生する、復元する」という世界を目指して取り組むためのフレームワークであるとMcDonough氏は主張します。
これは、サステイナブル・ファッションが目指すべき方向性といっていいでしょう。
日本における状況と取り組み
日本の状況はどうでしょうか。
まず、サステイナブル・ファッションに対する関心がどの程度なのかみてみましょう[*1], (図5)。
図5: サステイナブル・ファッションへの関心
出典: 環境省「SUSTAINABLE FASHION」
https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/
図5から、サステイナブル・ファッションに関心をもっている人は約60%に上ることがわかります。
ただし、その中の約9割の人が「具体的な行動は起こしていない」と回答しています。
では、今後、どのようなアクションを起こしていけばいいのでしょうか。
環境省が提唱する5つのアクションと、それに関連した事例をみていきましょう。
今持っている服を長く大切に着よう
今持っている服を長く着るためには、直したり、修繕したりして、手を加え、丁寧に着ることが大切です[*1]。
また、服の素材に合った洗濯も大切です。
洗濯といえば、海洋プラスチック問題があります。洗濯屑の中にはマイクロプラスチックとなって、排水管から川へ海へと流れ込んでしまうものがあるのです。特に、フリースや裏起毛素材は、繊維屑の排出が多く、それが問題視されていました。
そこで、帝人フロンティア株式会社は、洗濯によって生じる繊維くずの発生が抑制される繊維を開発し、長時間の使用に耐え得る素材を提供しています[*6]。
衣服を買う際には、素材にも注意することが、服を長く着ることにつながります。
リユースでファッションを楽しもう
リユースとは、再利用のことです。
服を買うのではなく借りるシェアリングサービスやレンタルサービスを利用したり、ファッションスワップ(衣服交換会)などでリユースを楽しむことができます[*1]。
また、バザーやフリーマーケットを利用して古着を買ったり、お下がりで時には世代を超えた着回しを楽しみましょう。
これに関連した取り組み例として、株式会社エアークローゼットによるシェアリングサービスの提供があります[*7]。
このサービスは、プロのスタイリストがコーディネートした洋服を月額制で借りられるレンタルサービスです。高品質なメンテナンスを行い、 洋服のライフサイクル(寿命)を長期化することに成功したものとして、高い評価を得ています。
こうしたシェアリングサービスを利用すれば、最先端のモードを安く楽しむこともできます。
先のことを考えて買おう
消費者の64%は自分が持っている服の数を把握しないまま新しい服を購入しています[*1]。
服を買いたくなってもすぐには買わず、クローゼットの中を確かめて、本当に必要かどうか考えてからにしましょう。
買う時には、品質を重視して、価格に見合う価値のある商品を選びましょう。先ほどみたように、安い服を大量購入・大量消費することは、着用期間を短くしてしまいます。また、コンビニやスーパーだけでなく、洋服店でもマイバッグを使いましょう。
これに関連した取り組みを行ったメーカーがあります[*8]。株式会社アダストリアは商品管理を徹底し、店頭からの売れ残りを最少にした上で、売れ残ったものを生まれ変わらせる(アップサイクル)ことで店舗から生じる廃棄をゼロにしたのです。
売れ残った衣服を黒く染めてアップサイクルする際には、水質汚染を起こさないように、染料にもこだわっています。
作られ方をしっかり見よう
サステイナブル・ファッションを考えるとき、商品だけに注目するのではなく、その服がどうやって作られたのかを確認することも大切です[*1]。
素材や生産ルート等を確認するには、商品タグや表示ラベルを見たり、QRコード等で商品情報にアクセスしたり、店員さんやブランドに聞いたりすることが役立ちます。環境負荷だけでなく、生産時の労働環境などに注意することも必要です。
国際認証や環境ラベルによって、環境負荷の少ない製品を選ぶこともできます。
その一つがオーガニックテキスタイル世界基準(GOTS)です(図6)。
図6: オーガニックテキスタイル世界基準(GOTS)
出典: 環境省「SUSTAINABLE FASHION」
https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/
GOTSは繊維製品を製造加工するための国際基準で、 このラベルが付いた衣服は原料から製品までの全ての工程が第三者から検査・認証されています。
他にもサステイナブルな繊維製品を選ぶ際に参考となる認証やラベルが提供されています。
環境省の「環境ラベル等データベース」[*9]を参考にするといいでしょう。
環境負荷の少ない素材に関連して、豊島株式会社は「オーガニックコットンを通して、みんなで少しずつ地球環境に貢献しよう」というコンセプトのプロジェクトを展開しています[*10]。
これは、社会貢献とビジネスを両立させるもので、世界中の綿花のわずか1%しかないオーガニックコットンの割合を10%にすることが目標です。
服を資源として再活用しよう
最後は、服の処分に関する取り組みです。
ごみとして出すのではなく、古着を店舗に持ち込んだり、自治体の回収にまわせば、廃棄・焼却されないことによって、服1着につき約0.5kgのCO2が削減できます[*1]。
現在は、様々な企業や団体が店頭で洋服を回収し、リユースやリサイクルを行っています。
図7: 店舗回収された服のリユース・リサイクル例
出典: 環境省「SUSTAINABLE FASHION」
https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/
是非、こうした回収に協力しましょう。
おわりに
ファッションは私たちの楽しみのひとつです。
でも、そのファッションが地球に大きな負荷をかけていることを認識し、改善していく必要があることをみてきました。
衣服は私たちのごく身近にあり、生活に欠かせないものですが、それゆえに私たち1人ひとりの取り組みによって改善できるものでもあります。
日々の生活の中で、取り組みやすいこと、ささやかなことからでも始めれば、個々の力がやがて集積して、大きな成果につながるはずです。
一度、クローゼットを点検して、眠っている衣服がないか確認し、今後のよりよいファッションプランを立ててみてはいかがでしょうか。
参照・引用を見る
*1
環境省「SUSTAINABLE FASHION」
https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/
*2
JETRO 日本貿易振興機構「サステナブルファッションに高まる関心(日本、世界)」(2021)
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2021/4c29c728e3e37a35.html
*3
経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(2021)
https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210618005/20210618005-4.pdf, p.2
*4
Mckinsey&Company「The state of fashion 2018」
https://www.mckinsey.com/~/media/mckinsey/industries/retail/our%20insights/renewed%20optimism%20for%20the%20fashion%20industry/the-state-of-fashion-2018-final.ashx, p.62
*5-1
Fashion for Good「MUSEUM」
https://fashionforgood.com/museum/
*5-2
Fashion for Good「ABOUT US」
https://fashionforgood.com/about-us/
*6
環境省「海洋環境への影響が懸念されるマイクロプラスチックの排出削減の取組事例」
https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/goodpractice/case03.pdf
*7
環境省「消費を制限させつつ服との新たな出会いを誘発させるシェアリングサービスの取り組み事例」
https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/goodpractice/case04.pdf
*8
環境省「適正在庫とアップサイクルによる大量廃棄問題の解決に向けた取組事例」
https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/goodpractice/case07.pdf
*9
環境省「環境ラベル等データベース」http://www.env.go.jp/policy/hozen/green/ecolabel/index.html
*10
環境省「オーガニックコットンに関する取組事例」
https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/goodpractice/case10.pdf