日本は世界有数の火山大国です。日本の象徴でもある富士山は過去に何度も噴火した記録のある活火山で、現在も噴火が警戒されています。
もし、富士山の大噴火が起きると、首都圏に甚大な被害をもたらすことが予測されています。
また、火山の噴火は地球の気候にも大きな影響を与えます。火山噴火によって大気中に放出される微粒子、エアロゾルには温室効果と冷却効果があります。そのため過去にも巨大噴火によって、さまざまな気候変動が記録されています。
この記事では、火山活動が私たちの生活に及ぼす影響と、もし火山の巨大噴火が発生した場合に身を守る方法を紹介します。
日本の活火山の分布と噴火による火山災害
日本の活火山の分布
かつては活火山に対して、今は活動していない火山を「休火山」、過去に活動記録のない火山を「死火山」と定義していました。
近年は火山の研究が進んだことから、数千年活動をしていない火山でも、また活動を再開する火山もあることが分かっています。
そのため、2003年から活火山は「概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」と定義し直されました[*1]。
つまり現在活発に活動していない火山でも、将来的に噴火の可能性がある火山は、活火山です。
火山の寿命は長く噴火活動の有無で分類することに意味はないことから、現在は休火山や死火山という用語は使用されなくなっています。
日本の現在の活火山の数は全部で111、日本全国に分布しています(図1)。
図1: 我が国の活火山の分布
出典: 国土交通省 気象庁「活火山とは」
https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/kaisetsu/katsukazan_toha/katsukazan_toha.html
日本は世界有数の火山国で、日本の活火山数は世界の活火山の約7%を占めています[*2]。
ではなぜ、日本に火山が多くあるのでしょう。
火山は地下のマントルが溶けてマグマが噴出することによって形成されますが、そのマグマはプレート同士の摩擦によって発生します。
そのため、世界の火山はプレートの境界に分布しています。日本の周辺にはプレートの境界が多く、火山が多く形成されているというわけです。
プレート境界に形成される火山は地震の発生とも関係が深く、火山の発生と地震の分布はよく似ています(図2)。
図2: 地震と火山の関係
出典: 一般財団法人 国土技術研究センター「世界有数の火山国、日本」
https://www.jice.or.jp/knowledge/japan/commentary13
日本における過去の火山災害
火山大国である日本では、過去にも多くの災害が記録されています。
火山によって引き起こされる災害は、火砕流、溶岩流、火山灰、噴石、火山ガスなどさまざまなものがあります(図3)。
図3: 火山噴火による主な災害
出典: 政府広報オンライン「火山噴火による主な災害」
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201502/1.html#anc04
火砕流とは、高温の火山灰や岩石の塊のことで、流れ出た地域の建物を焼失、破壊します(図4)。
図4: 雲仙岳の火砕流(平成6年6月24日)
出典: 国土交通省 気象庁「主な火山災害」
https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/kaisetsu/volsaigai/saigai.html
火砕流の速度は時速数百キロ以上、数百℃以上の高温であるため、避難が十分にできない場合は、命を脅かす甚大な災害要因となります。
噴石は大きいものから小さいものまでさまざまで、20㎝以上の大きな噴石の飛散は、入山者の命に対する危険性が高い火山災害です。
1991年の長崎県の雲仙岳の噴火、2014年の長野県御嶽山の噴火では、噴石や火砕流によって、多くの死者・行方不明者を出しています。
噴火により発生する火山灰は、風によって広い範囲に拡散されます。
農作物にダメージを与えたり、交通インフラ停止や通信障害、停電などを引き起こし、社会生活に大きな影響を及ぼします(図5)。図5: 火山からの距離と降灰の影響の模式図
出典: 内閣府防災情報 気象庁「火山灰の特徴(2020)」
http://www.bousai.go.jp/kazan/kouikikouhaiworking/pdf/4kai_shiryo1_sanko1.pdf, p.12
噴石や火山灰が堆積された場所に雨が降ることで、土石流や泥流などの二次災害も引き起こします。
さらに、火山灰は目や鼻、のど、気管支に異常を起こし、喘息の症状の悪化や呼吸器疾患の原因となります。
火山は噴火により恐ろしい災害を引き起こす反面、私たちの生活に恵みをもたらします。
火山の噴火によって流出した溶岩流は広大な平野を形成し、降り積もった火山灰は長い年月を経て、農業に適した土壌を育みます。
火山は水分を蓄えやすいので、山麓は地下水が豊富で、生活に必要な水をまかなえます。
豊富な水資源によって製紙産業が発展したり、地下水がマグマの熱で温められると温泉になります。
そのほか、火山の熱水や水蒸気によって電気を起こす地熱発電も火山の恩恵のひとつです。
このように火山は、私たちの暮らしや文化、生態系を支える役割も持っています。
火山噴火と気候変動の関係
火山噴火が発生すると、私たちの命や生活を脅かすだけでなく、地球の気候にも大きな影響を与えます。
地球の長い歴史の中では、火山噴火によって気候変動が発生した事例が多く記録されています。
過去10万年の中でも最大規模の噴火である、今から7万4000万年前に発生したインドネシアのトバ火山の噴火では、噴火後数年に渡って大気中に滞留した硫酸エアロゾルによって太陽光が遮られました(図6)。
図6: 巨大噴火による火山灰の大量放出と気温低下
出典: 国際環境経済研究所「地球温暖化に関する地球科学の視点 ー長尺の目(2021)」
https://ieei.or.jp/2021/07/expl210727/
この巨大噴火によって平均気温が10℃ほど下がり、ミニ氷河期と呼ばれる小氷期の状態が訪れたという記録があります[*3]。
また、1783年にアイスランドのラキ山が噴火した後は、ヨーロッパの夏は記録的な猛暑となり、冬は非常に寒い冬になったと記録されています[*4]。このように火山の噴火が気候に与える影響は複雑で、未解明な部分も多く、現在も研究が続けられています。
火山噴火によって発生する硫酸エアロゾルは、太陽光を反射する日傘効果と、太陽からの熱を吸収して大気を暖める温室効果をもっています(図7)。
図7: 熱帯または亜熱帯の火山噴火が与える影響
出典: 国土交通省 気象庁「IPCC第5次評価報告書 第11章 近未来の気候変動(2014)」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar5/ipcc_ar5_wg1_faq11.2_jpn.pdf, p.49
また、火山の噴火では温室効果ガスであるCO2を大量に排出します。
そのため地球温暖化の原因には、自然現象としての火山活動の影響も含まれます。
2020年に発表された研究では、約2億100万年前の三畳紀末期の地球温暖化による生物の大量絶滅は、火山の噴火によるCO2排出が原因である可能性が高いことが明らかになっています[*5]。
一方で、20世紀半ば以降の世界平均気温の上昇は、火山や太陽活動などの自然要因のみでは説明がつきません。
図8はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第六次報告書に記載された世界の気温変化の歴史と、近年の温度上昇の原因です。
図8からも分かる通り、1960年以降の気温上昇は自然要因だけではなく、人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がないと報告されています。
図8:1850年〜1900年に対する世界平均気温の変化
出典:地球環境研究センターニュース「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第 6 次評価報告書(2021)」
https://www.meti.go.jp/press/2021/08/20210809001/20210809001-1.pdf, p.3
富士山噴火の被害予測
日本を象徴する富士山は活火山の一つでもあり、過去に何度も噴火を繰り返しています。
1707年の宝永大噴火では、江戸にも大量の降灰があり、現在の神奈川県川崎市では火山灰が5cm降り積もったことが記録されています[*6]。
富士山周辺の家屋や耕地にも大きな影響があり、噴火後は火山灰の堆積によって洪水被害なども発生しています。
日本にある111の活火山のうち、100年以内に噴火する可能性の高い50の活火山に、富士山は含まれています[*7]。
富士山は、宝永大噴火以降300年以上大きな噴火は発生しておらず、現在は平穏な状態が続いています。
長い間沈黙を続ける富士山ですが、過去にも噴火の間に数百年平穏な期間が続いた記録があることから、いつ噴火してもおかしくない状態です。
2021年には、富士山ハザードマップの被害想定が17年ぶりに改定されました。
改定によって噴火の可能性のある火口のエリアが広がり、これまでの想定よりも溶岩流が早く到達する地域もあります(図9)。
図9: 富士山噴火による新しい被害想定
出典:山梨県「富士山噴火による被害想定がこれまでと変わります(2020)」
https://www.pref.yamanashi.jp/kazan/documents/huzisanri-huretto.pdf, p.1
溶岩流とは溶けた岩石が地表を流れ下る現象のことで、地形や温度によって流下速度が変化します。
さらに富士山の噴火による火山灰の降灰は広範囲に及び、神奈川や東京、千葉などの首都圏にも甚大な被害をもたらすことが予測されています(図10)。
図10: 富士山噴火による降灰可能性マップ
出典:神奈川県「富士山火山防災マップ」
https://www.pref.kanagawa.jp/documents/8915/fujimap.pdf, p.2
首都圏に2cmから10cmの火山灰が降り積もることで、航空機、鉄道、道路、電力、上下水道、通信など、交通機関やライフラインに多大な影響が予測されます。
送電設備に火山灰が降り積もることによって停電が発生すれば、首都機能は麻痺するでしょう。
火山噴火のときに取るべき行動とは
最後に、もし火山が噴火した場合に取るべき行動について紹介します。
活火山は火山活動に応じて噴火警戒レベルが設定されており、警戒レベルによって図11のように取るべき行動が変わります。
図11: 活火山の噴火警戒レベル
出典:首相官邸 「火山噴火では、どのような災害が起きるのか」
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/bousai/funka.html
図11の特別警報にあたる噴火警報(居住地域)がでた場合は、火口付近の対象地域の住民は避難準備や避難が必要です。
そのため、火山防災マップにおいて警戒が必要とされる地域にお住まいの場合は、あらかじめ避難経路や避難場所を確認しておきましょう。
噴火警戒レベルが運用されているのは、全国の48の活火山です(図12)。
図12: 噴火警戒レベルが運用されている火山
出典:国土交通省 気象庁「噴火警戒レベルの説明」
https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/kaisetsu/level_toha/level_toha.htm#level_vol
また火山灰の降灰予報が出ているときは、噴火前、噴火直後、噴火後で次のような行動をとりましょう(図13)。
図13: 降灰予報の利活用のイメージ
出典:政府広報オンライン「降灰予報を見聞きしたら、どうすればいいの?」
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201502/1.html#anc04
火山灰から身を守るためには、火山灰を吸い込まない、コンタクトレンズを外す、皮膚を守る、運転は控えることが大切です。
日本は全国に活火山が分布しており、特に富士山が噴火すると周辺だけでなく、首都圏まで大きな被害が広がります。
住まいの近くに活火山がある場合は、火山防災マップを確認し、避難行動をあらかじめ知っておくことが大切です。
参照・引用を見る
*1
国土交通省 気象庁「活火山とは」
https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/kaisetsu/katsukazan_toha/katsukazan_toha.html
*2
一般財団法人 国土技術研究センター「世界有数の火山国、日本」
https://www.jice.or.jp/knowledge/japan/commentary13
*3
国際環境経済研究所「地球温暖化に関する地球科学の視点 ー長尺の目(2021)」
https://ieei.or.jp/2021/07/expl210727/
*4
国土交通省 気象庁「IPCC第5次評価報告書 第11章 近未来の気候変動(2014)」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar5/ipcc_ar5_wg1_faq11.2_jpn.pdf, p.49
*5
Nature Asia「火山噴火による二酸化炭素排出が三畳紀末期の地球温暖化の一因となった(2020)」
https://www.natureasia.com/ja-jp/research/highlight/13277
*6
富士市「富士山の噴火史について」
https://www.city.fuji.shizuoka.jp/safety/c0107/fmervo000000oxtb.html
*7
山梨県「富士山噴火による被害想定がこれまでと変わります(2020)」
https://www.pref.yamanashi.jp/kazan/documents/huzisanri-huretto.pdf, p.1