日本のペットショップが抱える問題とは? 世界のペット事情から学ぶ、動物と共生していくヒント

ケージに入った犬や猫が販売されているペットショップは、ホームセンターやショッピングモールなど、日本のいたるところに存在しています。

可愛い子犬や子猫を気軽に購入できるペットショップは、商品である動物を安定して供給するために、命を大量生産するというシステムのもとに成り立っています。
売れ残った動物の処遇や繁殖用の犬猫の飼育環境、安易にペットを購入した結果の飼育放棄など、ペットショップは目を背けたくなるような現実と隣り合わせの存在です。

一方で、欧米では生体販売に関する規制が進んでおり、ペットショップは街から消えつつあります。

この記事では、国内のペットショップが抱える問題と、ペットショップに関する世界の流れをご紹介しながら、動物と共生していくことができる社会の姿について考えていきます。

日本のペットショップの問題点

ペットショップが選ばれている理由

日本で犬や猫を飼いたいと思ったら、まずはペットショップでの購入を検討される方も多いのではないでしょうか。
ペットフード協会による全国犬猫飼育実態調査によれば、ペットをペットショップで購入した人の割合は犬は50.9%、猫は16.0%となっています(図1)。

図1: 犬や猫のペットの入手先(年代別)
出典: 一般社団法人 ペットフード協会「令和3年全国犬猫飼育実態調査(2021)」
https://petfood.or.jp/data/chart2021/9.pdf, p.83

このデータによれば、猫を飼う場合は野良猫を保護したケースや、友人・知人からの譲渡も多いのですが、犬に関しては半数以上の人がペットショップから購入しています。

他にも選択肢があるにも関わらず、日本でペットショップが多く利用されているのには理由があります。

まずペットショップは気軽に立ち寄れるさまざまな場所に存在しており、犬や猫であっても「衝動買い」が可能です。
生後3か月未満のかわいい盛りの子犬や子猫にしぼって販売されていることが多いため、購買意欲をそそられることも多いでしょう。
近年のペットブームの火付け役である人気の犬種や猫種を希望する場合も、さまざまな種類を揃えているペットショップが選ばれやすくなります。そして、ペットショップでの購入の場合、保護団体からの譲渡とは異なり、飼い主としての資格や家族構成、飼育環境を問われることはありません。

費用こそかかりますが、誰でも気軽に購入できるペットショップに需要があり多数の人が利用していることが、ペットショップが日本国内で多く存在している理由と言えます。

ペットショップが抱える問題とは

たとえペットショップで購入しても、飼い主が責任を持って飼い続けることができれば大きな問題はないと考える方もいるかもしれません。しかし、ペットショップはその仕組みから、殺処分される犬や猫を生み出しやすいという問題を抱えています。

ペットショップでは、ブリーダーが繁殖した動物をオークションや卸業者を経て仕入れ、販売しています(図2)。

図2: 販売流通経路のパターン
出典: 環境省「幼齢期の動物の販売について」
https://www.env.go.jp/council/14animal/y140-21/ref01_1.pdf, p.1

ペットショップの経営を支えているのは、誰かがペットを購入した後に空いたケージにすぐに新たな犬猫を供給するという命の大量生産・大量消費です。

ペットショップでは生後2か月から3か月の幼いうちが「売れどき」とされており、少しでも成長すると売れ残ってしまいます。売れ残った犬や猫を保健所へ持ち込むことは法律で禁止されていますが、売れ残った動物の処遇に関しては不透明な部分が多いのが現実です。

ペットショップのための繁殖用の犬猫は劣悪な環境で飼育されていることも多く、役目を終えると飼育放棄をされるケースもあります。
さらに、体の未熟なうちに輸送されることで、流通の過程で死亡することもあります。

また、ペットを衝動的に買うことができるペットショップは、捨て犬や捨て猫を増やす原因にもなっています。

日本全国で2020年度に保健所に収容された犬猫は約7万2千頭にものぼります[*1]。そしてそのうち犬は約10%、猫の場合は約23%が飼い主自ら保健所に持ち込んでいます(図3)。

図3: 犬・猫の引き取り数内訳
出典: 環境省 動物の愛護と適切な管理「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況(2021)」
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/dog-cat.html

ペットを手放す理由としてアレルギーや経済的理由のほかに、噛み癖や鳴き声などの問題行動が理由になることも多いようです。
これは、生後間もない時期から親元を引き離され、社会性が身についていないことにより起きやすい問題です。

アレルギーや経済的な負担に関しても、安易にペットを購入したことによって引き起こされる問題と言えます。

海外では規制が進むペットの生体販売

フランスでは2024年から犬猫の店頭販売が禁止されることが決定し、欧米では街からペットショップが消えつつあります。
ここでは、海外での生体販売の規制に関して、アメリカ、イギリス、ドイツの事例をご紹介します。

アメリカでは、シカゴやボストンなどの大都市をはじめとした278の自治体でペットショップ販売規制を実施しており、今後も増加していく見込みです[*2]。

2006年に販売目的で繁殖したペットの販売を規制したメキシコ州アルバカーキ市では、殺処分される犬猫が約35%減少したという実績が報告されています[*3]。

2017年にはカリフォリア州の州法が改正され、動物保護施設から入手した犬猫以外の、ペットショップでの販売が禁止されています。カリフォルニア州は、全米で初めて州レベルでペットショップの販売規制を導入した事例となりました。

イギリスではペットショップの規制はありませんが、2018年に生後6か月未満の犬や猫の販売を禁止する方針を発表しています[*4]。
またイギリスでは2016年から、犬の福祉を目的としてマイクロチップの装着を義務づけています[*5]。マイクロチップによって所有者不明の迷い犬が保護された場合も、飼い主のもとへ速やかに帰ることができます。

動物福祉先進国として知られるドイツでは、犬や猫は保護施設から譲り受けるという文化が浸透しています。
ドイツでは飼い主が守るべき飼育方法を「動物保護―犬に関する命令」という法律で規定しています。

以下は一部抜粋ですが、犬の飼育環境を具体的に規定しています[*3]。

  • 屋外での十分な運動、飼育者との十分な接触
  • 生後8週齢以下の子犬を母犬から引き離すことを禁止
  • 商業的に繁殖する場合は、犬10頭及びその子犬につき管理者1名を配置
  • 室内飼育の場合、自然採光と新鮮な空気を確保
  • 檻飼育の場合、檻の各辺長さは、体高の 2 倍以上とし、かつ、2mを下回らない
  • 基準に違反した場合、動物保護法の規定に基づいて罰金が科される

この法律は飼い主だけでなくペットショップにも適用され、間接的にペットショップでの犬の販売を規制しています。

また、ドイツではほとんどの市町村で犬税が導入されており、犬を飼うと毎年納税が必要です(図4)。

図4:犬税の例
出典: 国立国会図書館「諸外国における犬猫殺処分をめぐる状況 ―イギリス、ドイツ、アメリカ―(2014)」
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8748098_po_0830.pdf?contentNo=1, p.5

飼育方法の法律による規定や課税などによって、犬を衝動的に飼うことを防ぎ、結果として殺処分の抑制につながっています。

動物と共生していくための取り組み

人間と動物が共生できる社会を目指すには、不適切な環境で飼育される犬猫や飼育放棄を減らす取り組みが必要です。
海外の流れや国内での動物愛護の高まりを受けて、日本でもペットに関する法律の規制が進んでいます。

2021年6月からは、生後8週間以内の犬猫の引き渡しや展示が規制されました。
親元に少しでも長くいることで社会性が身につくため、問題行動が起きにくくなります。

さらに2022年6月からは、ブリーダーやペットショップで販売される犬猫について、マイクロチップ登録制度が始まります(図5)。

図5:犬猫所有者のマイクロチップ装着・情報登録の流れ(販売ルート)
出典: 環境省 動物の愛護と適切な管理「犬と猫のマイクロチップ情報登録に関するQ&A(2021)」
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/pickup/chip.html

マイクロチップの装着は基本的にブリーダーに義務付けられ、すでにペットを飼っている場合は努力義務になります。
マイクロチップが装着されることで飼育放棄の防止や、ペットショップで売れ残った犬猫に対しての適切な取り扱いが期待できます。

また、日本では自治体とボランティアとの協働によって、保健所で殺処分されている犬猫が減少しています。
次の図6は環境省が調査した全国の犬・猫の引取り数、殺処分率の推移です。

図6: 全国の犬・猫の引き取り数の推移
出典: 環境省 動物の愛護と適切な管理「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況(2021)」
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/dog-cat.html

減少しているとは言え、2020年に殺処分された犬猫は約2.3万頭、決して少ない数とは言えません[*1]。

そして保健所での殺処分自体は減っているものの、ペットショップで売れ残った犬猫がどうなっているか不明であることなど、統計には入らない不透明な部分の問題が残っています。

次の図7は、動物の福祉を守るために解決すべき、余剰犬猫問題を蛇口モデルに例えたものです。

図7:余剰犬猫問題
出典: NPO法人 人と動物共生センター「殺処分/余剰犬猫問題」
http://human-animal.jp/pet-csr/wp-content/uploads/2018/06/pet-CSR-8.pdf

上記の図では、保護施設での飼育を水風船、家庭への譲渡をコップで表現しています。

水を多く含むことで破裂してしまう水風船で表現されているのは、一定以上の動物を保護することで多頭飼い崩壊を引き起こす可能性があるためです。

殺処分を減らす自治体の取り組みは活発化していますが、ペット産業・飼い主の飼育放棄・野外での繁殖のどれかの蛇口を締めないと、ボランティアで支えられている保護施設の負担が増えるだけで、根本的な解決にはつながりません。

ペットショップによる犬猫の過剰な供給は、ペットが適切な環境で暮らす社会の実現のために見直すべき存在と言えるでしょう。

まとめ

ペットショップは消費者である私たちからは見えにくい、さまざまな問題を抱えています。
ペットとの暮らしは生活に幸せをもたらしますが、命を預かる責任はとても重いものです。

家族となるペットがその命を終えるまで、快適で適切な環境で愛情を持って飼い続けることができるのか、住環境やライフプラン、経済状況から冷静に判断する必要があります。

ペットを飼う前にはまず、犬や猫の殺処分の現状やペットショップの背景にある問題について目を向け、知識を深めることからはじめてみましょう。

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参照・引用を見る

*1
環境省 動物の愛護と適切な管理「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況(2021)」
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/dog-cat.html

 

*2
国立国会図書館「諸外国における犬猫の販売規制 ―アメリカ、イギリスの動向―(2018)」
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11168208_po_IB1016.pdf?contentNo=1, p.4

 

*3
国立国会図書館「諸外国における犬猫殺処分をめぐる状況 ―イギリス、ドイツ、アメリカ―(2014)」
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8748098_po_0830.pdf?contentNo=1, p.4,5

 

*4
BBCニュース「英イングランド、子犬・子猫の販売禁止へ 生後6カ月未満(2018)」
https://www.bbc.com/japanese/45279524

 

*5
環境省「平成29年度 訪英調査結果(2017)」
https://www.env.go.jp/council/14animal/ref49_4.pdf, p.11

 

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