私たちの暮らす日本は、地震や水害、土砂災害などの自然災害の多い国です。
近年は気候変動の影響もあり、台風や豪雨による大規模災害が毎年のように発生しています。
地球温暖化が今後も進行していけば、自然災害がより激甚化・頻発化するでしょう。さらに、南海トラフ地震や首都直下地震などの大規模地震が、今後30年以内に高い確率で発生すると予想されています。
いつ、誰の身に降りかかってもおかしくない災害に備えて、家庭での備えの重要性が高まっています。
この記事では、非常用持ち出しバッグの準備やローリングストックなど、家庭で取り組むべき防災についてお伝えします。
日本で自然災害が多い理由と今後の災害リスク
土砂災害・水害のリスク
なぜ日本で土砂災害や水害が多いのか、それは地形・地質・気象において厳しい条件にさらされているためです。
日本は国土の約7割が山地・丘陵地という険しい地形です。そのため日本の河川は、他国と比較しても急勾配になっています(図1)。
図1: 各国と日本の河川縦断勾配の比較
出典: 国土交通省「我が国を取り巻く環境変化」(2020)
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r01/hakusho/r02/html/n1115000.html
河川が急勾配であるため、大雨が降ると山から海へ大量の水が一気に流下し、短時間で洪水のピークに達します。
また、平地が少ないので山を切り開いて開発された都市部や住宅地が多く、崖崩れなどの被害を受けやすくなっています。
さらに都市の大部分は、洪水時の河川水位よりも低い位置にあり、洪水の被害に遭いやすい状態です(図2)。
図2: 東京とロンドンの比較
出典: 国土交通省「河川の現状と課題
https://www.mlit.go.jp/river/pamphlet_jirei/kasen/gaiyou/panf/gaiyou2005/pdf/c1.pdf, p.3
このような地形の条件に加えて、日本には梅雨や台風、秋雨など雨が集中的に降る季節が存在します。
そのため、夏から秋にかけて土砂災害や水害がたびたび発生しています。
さらに、近年は気候変動の影響により、洪水や土砂災害を引き起こす短期間豪雨が増加しています。
短期間豪雨の増加にともない土砂災害の発生回数も増加傾向にあり、2018年には過去最高の3,459件を記録しています(図3)。
図3: 土砂災害の発生件数の推移
出典: 国土交通省「我が国を取り巻く環境変化」(2020)
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r01/hakusho/r02/html/n1115000.html
近年では毎年のように大規模土砂災害が発生しており、気候変動への対策を急がなければ、災害リスクは今後より一層高まっていくでしょう。
大規模地震のリスク
日本は、地震・火山活動が活発な環太平洋変動帯に位置し、4つのプレートの境目にあります。
そのため国土が狭いにも関わらず、マグニチュード6以上の地震発生割合が全世界の18.5%と極めて高い数値になっています[*1]。
過去にも大きな地震が発生している日本ですが、近い将来、高い確率で大規模地震が発生することが予測されています(図4)。
図4: 想定されている大規模地震
出典: 国土交通省「知りたい!地震へのそなえ」
https://www.mlit.go.jp/river/earthquake/future/index.html
30年以内に70%の確率で発生が予測されているのが、南海トラフ地震と首都直下地震で、日本の多くのエリアに被害が及びます。
災害リスクエリアとリスク内人口
水害・土砂災害の激甚化・頻発化に加えて、大規模地震が高い確率で発生すると予測される日本では、国土の約30%がなんらかの災害リスクエリアとなっています。
さらに災害リスクエリアに人口が偏っており、災害リスクに晒される住民は、約67.5%となっています(図5)。
図5: 想定されている大規模地震
出典: 国土交通省「自然災害リスクの増大について」
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001328939.pdf, p.5
災害リスクエリア内人口は今後も増加することが予測されており、2050年には全人口の70%に達します。
災害に対して家庭でできる備え
水害・土砂災害・大地震の発生リスクが高い日本では、大多数の人が災害リスクにさらされています。
大規模地震が発生すると、電気・ガス・水道・通信などのライフラインが被害を受け、その機能を回復させるには多くの日数を要します(図6)。
図6: ライフラインの機能回復の目標日数
出典: 東京都 東京防災「『日常備蓄』で災害に備えよう」(2021)
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/common/bichiku/pamph_r3_9.pdf, p.5
さらに自宅が被災してしまうと、自宅を離れて避難所で長期間生活することになります。
日常に戻るまでの生活が長期化することを想定して、住む地域の災害リスクの把握、家庭内の危険物排除、非常用品と食料品の備蓄といった家庭での備えが必要となります。
地域の災害のリスクを知る
災害時に速やかに避難するために、ハザードマップで被害の可能性と避難ルートを把握しておきましょう。
ハザードマップは自治体のホームページで公開しているほか、紙面配布もおこなっています。
そして国土交通省のポータルサイトでは、「重ねるハザードマップ」と「わがまちハザードマップ」が利用可能で、自宅付近の災害リスクを誰でも簡単に確認できるようになっています。
「重ねるハザードマップ」では、図7のような複数の防災情報を重ねて、1つの地図上で表示することができます。
図7: 重ねるハザードマップで表示できる情報
出典: 国土交通省「ハザードマップポータルサイト」
https://disaportal.gsi.go.jp/
「わがまちハザードマップ」は、各市町村が作成しているハザードマップを確認できる機能です。
また、災害発生時には家族が別々の場所にいることもあります。
そのため日頃から家族で話し合い、安否確認の方法と集合場所を決めておくことも大切です。
通信回線が混雑して連絡が取れないときは、災害用伝言ダイヤルや災害用伝言板を利用して連絡を取り合うことができます。
家具の置き方を工夫する
近年発生した地震による負傷者の約30%〜50%は、家具類の落下・転倒・移動によるものです[*2]。
そのため、「家具は倒れるもの」と考えて置き方などを工夫する必要があります。
タンスや本棚などの大型家具は、地震によって倒れないようにL字家具や突っ張り棒などで固定します(図8)。
図8: 家具固定の方法
出典: 広島市 防災情報サイト「各家庭での備え【非常持ち出し品・家庭内備蓄・家具固定】」
https://www.city.hiroshima.lg.jp/site/saigaiinfo/17845.html
地震は就寝時に発生する恐れもあるので、ベッドの周辺には大型家具を置かないようにしましょう。
また倒れた家具によって避難経路が塞がれてしまわないように、レイアウトの工夫も必要です。
室内には物を置いていない空間をつくり、緊急地震速報を聞いたらその空間に移動するようにしましょう。
非常用持ち出しバッグと家庭の備蓄
もし、首都直下地震が発生した場合は、最大約220万人が避難所で生活することになると想定されています[*3]。
自宅が被災して避難所に避難する時に備えて、非常用持ち出しバッグに生活に必要な物を詰めてまとめておきましょう。
次の図9は、非常用持ち出し袋に入れておくべきもののチェックリストです。
図9: 非常用持ち出し袋
出典: 首相官邸「災害の『備え』チェックリスト」
https://www.kantei.go.jp/jp/content/000064513.pdf
図9に加えて乳幼児がいる家庭ではオムツやミルクキューブ、使い捨て哺乳瓶、離乳食、女性の場合は生理用品や防犯ブザーなども必要になります。
非常用持ち出しバッグの他にも、ライフラインが止まった時に備えて、飲料水・非常食を最低3日分、できれば1週間分を家族の人数に応じて家庭に備蓄することが望ましいでしょう[*4]。
飲料水の目安は一人1日3リットルで、飲料水とは別にトイレを流すための生活用水も必要です。
さらにトイレットペーパーやガスコンロ、懐中電灯、充電式ラジオ、携帯トイレなども備えておきましょう。
フードロスを減らすローリングストックとは
災害時は物流が停滞するので、在宅避難が長期化した時に備えて、食料と飲料水の備蓄が重要です(図10)。
図10: 災害時に備えた食品備蓄
出典: 農林水産省「要配慮者のための災害時に備えた食品ストックガイド
https://www.city.mihara.hiroshima.jp/uploaded/attachment/104663.pdf, p.4
しかし、保存食を大量に備蓄するのはスペースやコストもかかる上に、消費期限をしっかり管理していないと、廃棄することになってしまいます。
また、備蓄の必要性を感じている方も、実際に食料を備蓄しておくことはなかなか難しいものです。
そこでおすすめなのが、普段から消費している食材を多めに買い置きしておく、ローリングストックです(図11)。
図11: ローリングストックとは
出典: 日本気象協会「ローリングストックについて」(2019)
https://tenki.jp/bousai/knowledge/49a23a0.html
ローリングストックでは消費期限の古いものから消費していくことで、フードロスを減らすことができます。
普段から食べ慣れた食品をストックしておけば、災害時に食べ方がわからない保存食や、口に合わない食事に戸惑うこともありません。
摂取しやすい炭水化物ばかりでは、体調不良に陥ることもあるので、備蓄する食品の栄養バランスも重要です。
ビタミン、ミネラル、食物繊維不足を防ぐためには、日持ちする野菜に加えて、調理の必要のない果物の缶詰や野菜ジュースなどもストックしておきましょう。
タンパク質を補うためには、魚介や肉類の缶詰やレトルト食品がおすすめです。
そして、食品だけではなく、生命の維持に欠かせない飲料水もローリングストックしておくことが重要です。ミネラルウォーターなどを日常的に飲んで買い足すことで、無理なく備蓄することができます。
そのほか、食品用ポリ袋やラップ、乾電池などの便利な消耗品も、ローリングストックしておきましょう。
また、乳幼児や高齢者、アレルギー疾患者などの要配慮者がいる家庭は、特に備蓄の重要性が高いです。
図12で示すように、要配慮者向けの食品は行政での備蓄が少ないためです。
図12: 自治体が備蓄している特殊食品の割合
出典: 農林水産省「要配慮者のための災害時に備えた食品ストックガイド」
https://www.city.mihara.hiroshima.jp/uploaded/attachment/104663.pdf, p.3
2011年に発生した東日本大震災では、約35%の避難所で通常の食事では対応できない避難者がいたというデータもあります[*5]。
特殊食品は災害時には特に手に入りにくくなるので、各家庭で最低でも2週間分の備蓄が必要です。
まとめ
日本は自然災害リスクが高く、命や生活を脅かす大災害がいつ、どこで発生してもおかしくありません。
いつ降りかかるか分からない災害に備えるために、自分や家族の身の安全を確保する方法を学び、避難生活を生き延びるための十分な備えが必要です。
防災用の特別なものを揃えるのはハードルが高いですが、前述のように食品や消耗品は普段から使っているものを消費しながら備蓄する、ローリングストックという方法があります。
また、防災の知識や備えはあっても、いざという時には動揺して体が動かない可能性もあります。
食品の備蓄や家具の転倒防止といった家庭での備えに加えて、まずは避難経路や安否確認について家族で話し合うなど、日頃から災害時の行動をイメージし、心構えをしておくことが重要です。
身構えずに、日常生活に取り入れるよう防災対策をしていきましょう。
参照・引用を見る
*1
国土交通省「知りたい!地震へのそなえ」
https://www.mlit.go.jp/river/earthquake/future/index.html
*2
東京消防庁「家具類の転倒・落下・移動防止対策ハンドブック」
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/hp-bousaika/kaguten/handbook/02.pdf
*3
東京都「東京防災 「日常備蓄」で災害に備えよう」(2021)
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/common/bichiku/pamph_r3_9.pdf, p.5
*4
首相官邸「災害に対するご家庭での備え〜これだけは準備しておこう!~」
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/bousai/sonae.html
*5
農林水産省「要配慮者のための災害時に備えた食品ストックガイド」https://www.city.mihara.hiroshima.jp/uploaded/attachment/104663.pdf, p.3