国土交通省は、日本の国土の体系的な利用、開発および保全のため、交通政策、気象業務、海上の安全や治安の確保などを担う官庁です。
国土交通省が毎年公表している国土交通白書は、日本人の生活や意識の変化、技術の発展などをまとめ、国土交通政策の動向を記したものです。
2022年に公表された令和4年度版国土交通白書のテーマは「気候変動とわたしたちの暮らし」です。この白書には、脱炭素社会の実現にむけた国土交通省の取り組みやわたしたちの暮らしの将来像がまとめられています。
本記事では、令和4年度版国土交通白書を読み解き、脱炭素社会実現に向けた政策のなかから、とくにわたしたちの生活に密着した取り組みについてお伝えします。
国土交通省の役割と国土交通白書
国土交通省は、北海道開発庁、国土庁、運輸省、建設省の旧4省庁を母体として、2001年に誕生しました。
「人々の生き生きとした暮らしと、これを支える活力ある経済社会、日々の安全、美しく良好な環境、多様性ある地域を実現するためのハード・ソフトの基盤を形成すること」を使命として、総合的な国土交通政策を展開し、日本に暮らす人々の生活を支えています[*1]。
具体的には、公共交通機関の整備やまちづくり、観光政策、防災・減災など、わたしたちの暮らしに欠かせない分野を担当しています[*2]。
国土交通省は、その担当する政策全般に関して「国土交通白書」としてまとめ、毎年公表しています。
社会のトレンドを反映したさまざまなテーマを取り上げ、具体的な施策や方向性、各分野の最新動向や政策課題、将来展望などが記されています。
国土交通白書は、過去のものを含めて、国土交通省のサイトで閲覧することが可能です。
令和4年度版国土交通白書のテーマは「気候変動とわたしたちの暮らし」
国土交通省は地域の暮らしや経済を支える幅広い分野を管轄していることから、環境問題の解決のためにもさまざまな取り組みを行っています。
「環境行動計画」に基づき、主に民生・運輸部門の脱炭素化を通じて、2050年カーボンニュートラルの達成を目指しています[*3]。
2022年6月に発表された「令和4年度版国土交通白書」では、「気候変動とわたしたちの暮らし」をテーマとして掲げ、地域の脱炭素化と生活の質の向上を両立する暮らしのあり方を展望しています[*4,*5], (図1)。
図1: 令和4年度版国土交通白書 表紙
出典: 国土交通省「国土交通白書 令和4年度版国土交通白書」(2022)
https://www.mlit.go.jp/statistics/hakusyo.mlit.r4.html
令和4年度版国土交通白書は2部編成となっており、第1部が脱炭素政策について取り上げた「気候変動とわたしたちの暮らし」、第2部が国土交通行政の各分野の動向と政策課題について報告する「国土交通行政の動向」です[*6]。
第1部「気候変動とわたしたちの暮らし」は以下のような構成になっています。
- 序章 気候変動に伴う災害の激甚化・頻発化
- 第1章 脱炭素社会の実現に向けた動向
- 第2章 脱炭素化社会の実現に向けた国土交通分野における取組み
- 第3章 気候変動時代のわたしたちの暮らし
序章では、気候変動の状況や適応策としての減災・防災対策を整理し、第1章では新型コロナウイルス感染拡大の影響を含めた脱炭素化を取り巻く動向と、経済と環境の好循環に向けた政府の取り組みと市場動向についてまとめています。
そして第2章は住まい、交通、まちづくりなどの国土交通分野における「暮らしの脱炭素化」に向けた取り組みを整理し、第3章では脱炭素化によってもたらされる新しい「わたしたちの暮らし」の展望について紹介しています。
国土交通省が行っている脱炭素対策とは?
ここでは、令和4年度版国土交通白書第2章「脱炭素化社会の実現に向けた国土交通分野における取組み」の内容を詳しく見ていきましょう。
国土交通省では、住宅や交通、物流の脱炭素化、脱炭素化に資するまちづくりに向けた取り組みを実施しています。
第2章では、わたしたちの暮らしに焦点を当て、住宅や車、公共交通機関、ライフスタイルなどに関する脱炭素対策についてまとめられています。
住まいの脱炭素化に向けた取り組み
住宅・建築物の省エネルギー化については、以前から対策が進んでおり、2019年度には非住宅建築物全体では98%、住宅では81%が省エネルギー基準に適合しています[*7], (図2)。
図2: 住宅・建築物の省エネルギー基準適合率の推移
出典: 国土交通省「令和4年度版国土交通白書」(2022)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001486962.pdf, p.40
今後の方向性として、現行は努力義務である住宅・小規模建築物(新築)の省エネルギー基準適合を2025年度までに義務化することを掲げています。
さらに、2030年度以降に新築される住宅・建築物に関しては、ZEH・ZEB(ネット・ゼロエネルギーハウス・ビル)水準の省エネルギー性能が確保されることを目指します。
ZEHとは、高気密・高断熱を実現する建築工法、省エネ機器の導入などによって効率的にエネルギーを消費し、さらに太陽光発電などでエネルギーを創り出すことで、エネルギー収支ゼロを目指す住宅です[*7], (図3)。
図3: ZEH(ネット・ゼロ・エネルギーハウス)
出典: 国土交通省「令和4年度版国土交通白書」(2022)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001486962.pdf, p.42
2021年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画では、2050年までに住宅への再生可能エネルギー導入が一般化されていることを目標としており、そのマイルストーンとして2030年には新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が設置されていることを目指しています。
ZEH・ZEBや太陽光発電設備の普及拡大のためには、現状では省エネルギー技術が十分に浸透していない中小工務店への支援も必要であり、技術力向上や人材育成などの強化を図っています[*7]。
脱炭素型ライフスタイルへの転換に必要なものとは
脱炭素型のライフスタイルを実現していくためには、家計消費のカーボンフットプリントについて把握することも重要であると考えられています。
カーボンフットプリントとは、生産から廃棄までのライフサイクル全体の温室効果ガス排出量を算出し、商品やサービスに分かりやすく表示する仕組みです[*7], (図4)。
図4: カーボンフットプリント
出典: 国土交通省「令和4年度版国土交通白書」(2022)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001486962.pdf, p.85
家計消費のカーボンフットプリントは、全体の約6割を占めており、そのうち住居と移動に関するものは約3割です[*7], (図5)。
図5: 我が国のカーボンフットプリント内訳(2015年)
出典: 国土交通省「令和4年度版国土交通白書」(2022)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001486962.pdf, p.85
家計消費のカーボンフットプリントを削減し、脱炭素型ライフスタイルへ転換していくためには、節電や公共交通機関の利用など、わたしたちが生活の中で行動をおこしていくことが効果的です[*7], (図6)。
図6: 住まいと移動のカーボンフットプリント削減に向けたアプローチ
出典: 国土交通省「令和4年度版国土交通白書」(2022)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001486962.pdf, p.86
無駄を避ける(アボイド)、方法を変える(シフト)、環境配慮技術を活用する(インプルーブ)の3つのアプローチによって、わたしたちの暮らしに起因する温室効果ガス排出を削減することができます。
また、令和4年度版国土交通省白書では、脱炭素型ライフスタイルに関する国民意識調査の結果についてもまとめられています。
脱炭素型ライフスタイルの取り組みに関しては、電気自動車や省エネ住宅、再生可能エネルギーに関心を持っているという回答が多く、消費者の意識の高まりがうかがえます[*7], (図7)。
図7: 脱炭素型ライフスタイルの取り組み状況・今後の取り組み意向
出典: 国土交通省「令和4年度版国土交通白書」(2022)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001486962.pdf, p.87
一方で、脱炭素型ライフスタイルに十分に取り組めない理由として、4人に1人以上が「お金がかかるから」と回答しています。
調査の結果、脱炭素型ライフスタイルを取り入れるためには、費用負担軽減に加えて、「生活の不便さを伴わないこと」や、「二酸化炭素削減以外の付加価値があること(快適、健康、安全・安心など)」に対するサポートが必要であること、社会の仕組みとしてインフラ整備やまちづくり施策が期待されていることが分かりました[*7]。
気候変動時代のわたしたちの暮らしとは?
最後に、令和4年度版国土交通白書第3章「気候変動時代のわたしたちの暮らし」における、脱炭素社会を実現した日本の将来像について紹介します。
次の図8は、気候変動時代にわたしたちの生活がどのように変化するかを予測した、将来イメージです[*8]。
図8: 気候変動時代のわたしたちの暮らしの将来イメージ
出典: 国土交通省「令和4年度版国土交通白書 概要」(2022)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001486962.pdf, p.42
図8のように、脱炭素を実現する革新技術が社会実装されることで、住まいや移動手段、まちづくりなど、日常生活にもさまざまな変化が起こります。
例えば、住宅の断熱性・気密性が高めた省エネ住宅の普及によって、夏は涼しく、冬は暖かく過ごせるようになり、健康的で快適な暮らしを実現できます。
公共交通機関や自転車、次世代モビリティの利用促進によって、駅前の空間や公共・商業施設等の周辺空間が歩行者中心の居心地の良い空間となり、外出機会の増加につながると考えられています[*7]。
脱炭素に向けた技術革新は、気候変動対策に貢献することはもちろん、わたしたちの生活の質を向上させることも期待されています。
国土交通白書で描かれている将来像を実現するためには、わたしたちひとりひとりの意識改革やアクションも重要な役割を担っています。
しかし、脱炭素化のために生活を変えることは容易なことではなく、個人の意識だけでは限界があります。
国土交通省では、消費者の利便性の向上など二酸化炭素排出以外の付加価値を創出することで、継続して脱炭素化に取り組める地域社会の実現を目指しています。
参照・引用を見る
*1
国土交通省「国土交通白書2020 第1節 我が国を取り巻く環境変化」(2020)
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r01/hakusho/r02/html/n1119c01.html
*2
国土交通省「国土交通省の業務」(2019)
https://www.mlit.go.jp/common/001273118.pdf, p.2
*3
国土交通省「環境行動計画」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_fr_000101.html
*4
環境展望台「国交省、気候変動と暮らしをテーマに『国土交通白書2022』を公表」(2022)
https://tenbou.nies.go.jp/news/jnews/detail.php?i=33908
*5
国土交通省「国土交通白書 令和4年度版国土交通白書」(2022)
https://www.mlit.go.jp/statistics/hakusyo.mlit.r4.html
*6
国土交通省「『令和4年版国土交通白書』を公表します~気候変動とわたしたちの暮らし~」(2022)
https://www.mlit.go.jp/report/press/sogo01_hh_000045.html
*7
国土交通省「令和4年度版国土交通白書」(2022)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001486962.pdf, p.40, p.42, p.44, p.85-p.89, p.104-p.105, p.107
*8
国土交通省「令和4年度版国土交通白書 概要」(2022)
https://www.mlit.go.jp/statistics/content/001487181.pdf, p.42