世界で最も消費されている植物油『パーム油』がもたらす環境破壊とその対策とは?

パーム油と呼ばれる植物油をご存知でしょうか。
あまり知られていませんが、パーム油は食品や日用品に使用され、わたしたちが生活を送る上で欠かせないものです。

しかし、パーム油の生産地では、様々な環境問題や人権問題、労働問題が起こっています。
この記事では、これらの問題を解説するとともに、パーム油を持続可能な形で利用していくための取り組みについて説明していきます。

世界で最も消費されている植物油「パーム油」

パーム油とは、アブラヤシと呼ばれる植物の果実から搾り取れる植物油のことです。
私たちが日常的に口にする多くの食品に含まれており、スーパーに並ぶ商品の約半分に利用されていると考えられています。マーガリンやショートニングの主要原料として、ポテトチップスや即席麺といった加工食品のフライ用油として、外食チェーンなどで提供される揚げ物用の油としてなど、その用途は様々です(図1)。
そのほか、洗剤やシャンプー、化粧品などにも不可欠な原料であり、石鹸の主成分がパーム油であることも珍しくはありません。[*1]

図1:日本国内のパーム油の使用用途
*出典:世界自然保護基金(WWF)「パーム油 私たちの暮らしと熱帯林の破壊をつなぐもの」(2019)
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/2484.html

多くの商品に使われているパーム油ですが、日本の冬季の温度では固まってしまうことから、家庭用の食用油として販売されることはほとんどありません。
また、原材料名に明示されることは少なく、「植物油」「植物油脂」と表示されていたり、「乳化剤」「界面活性剤」などと加工後の名称で記載されていたりするため、消費者にはあまり認知されていません(図2)。[*1]

図2:パーム油に由来する可能性のある原材料(黃蛍光)
*出典:世界自然保護基金(WWF)「パーム油 私たちの暮らしと熱帯林の破壊をつなぐもの」(2019)
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/2484.html

パーム油は、非常に安価かつ有用な植物油であり、その需要は増え続けています。
特に欧米では、生活習慣病のリスクを高めるとされるトランス脂肪酸の摂取量抑制が望まれており、他の植物油に比べてトランス脂肪酸の低減効果があるパーム油の需要が伸びています[*1]。
ただし、トランス脂肪酸が問題になっているのは、摂取量が多い欧米人などに対してであり、摂取量が少ない日本人に悪影響があるかは定かではありません[*2]。

こういった理由から、パーム油は、世界で最も生産・消費されている植物油となっています(図3)。

図3:世界における主要植物油の年間生産量の推移
*出典:世界自然保護基金(WWF)「RSPOについて」(2020)
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3520.html

そして、日本国内においてもパーム油は、菜種油に続いて2番目に多く消費されています(図4)。

図4:日本の植物油別消費量(2014)
*出典:特定非営利活動法人 ボルネオ保全トラスト・ジャパン(BCTJ)「2015パーム油白書」(2015)
http://www.bctj.jp/2017/wp-content/uploads/2020/06/palmwp2015.pdf p22

パーム油生産に伴い起きている環境破壊と人権問題・労働問題

今や日常生活に必要不可欠となっているパーム油ですが、その生産のほとんどが東南アジアで行われており、インドネシアとマレーシアだけで世界の生産量の85%を占めています(図5)。

図5:パーム油の生産量の上位10カ国(単位1,000トン)
*出典:世界自然保護基金(WWF)「持続可能なパーム油の調達とRSPO」(2017)
https://www.wwf.or.jp/activities/data/20180516_forest01.pdf p7

しかし、これらの生産国では、アブラヤシの栽培や搾油工場の稼働などに伴い、以下のような問題が起きています。

熱帯林の減少
パーム油の主な生産地域である東南アジアには、豊かな熱帯雨林が広がっています。
しかし、その熱帯雨林は、アブラヤシの栽培のために伐り開かれ、減少を続けています。

パーム油生産が盛んなインドネシアのスマトラ島では、1985年から2016年にかけて森林が半分以下に減少。北海道の面積の約2倍近くに及ぶ1,500万ヘクタールの森林が失われています(図6)。

図6:インドネシアのスマトラ島における森林減少
*出典:世界自然保護基金(WWF)「RSPOについて」(2020)
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/2484.html

生物多様性の消失
また、熱帯雨林の減少によって野生動物の住みかや食物、生命が失われています。
東南アジアの熱帯雨林は、オランウータンやトラ、アジアゾウなど、貴重な野生生物の宝庫です。
熱帯雨林のアブラヤシ農園への転換は、野生生物への接触を容易にすることから、密猟も増加しています。[*3]

野生動物と人間の衝突
住みかや食物を失った野生動物がアブラヤシ農園に出没し、人との衝突が生じています。
人間と野生動物の生活圏が近くなったことにより、オランウータンやゾウが農園に侵入して農作物に被害を与えたり人を死傷させたりする事故が頻発。人々も自らの命や農園を守るため、野生動物を銃弾や毒で殺してしまうといった悲劇が起きています。[*1, *4]

森林・泥炭地の野焼きや火災による温室効果ガスの大量排出
農園造成の際に、禁止されているにも関わらず森林や泥炭地を燃やすことがあり、問題視されています。
泥炭地は、インドネシアに広範囲に広がっている、植物の遺骸が堆積した土地で、二酸化炭素などの温室効果ガスを大量に蓄えています(図7)。

これらの土地の野焼きは、温室効果ガスを大量に発生させるため、地球温暖化を加速させます。
また、野焼きを原因とする火災も頻発しており、さらなる温室効果ガスの大量排出が起こっています。[*1]

図7:インドネシアの泥炭地
*出典:世界自然保護基金(WWF)「パーム油 私たちの暮らしと熱帯林の破壊をつなぐもの」(2019)
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/2484.html

森林・泥炭地火災による煙害(ヘイズ)
また、乾季においては、森林・泥炭地火災が延焼して大規模化し、広範囲に煙害を引き起こすことがあります。

2015年には、インドネシアで大規模な火災が発生し、およそ260万ヘクタールの土地が荒廃。それによって発生した煙は、隣国のマレーシアやシンガポールにも大規模な損害を与えました。
そして、この森林・泥灰地火災で排出された温室効果ガスは、CO2換算でおよそ17.5億トンに達すると推計されています。[*5]
2015年の日本の温室効果ガス排出量がCO2換算で13億2,500万トンであったことを鑑みると、インドネシアでの森林・泥炭地火災の影響の大きさが伺えます。[*6]

農園での農薬・肥料による河川汚染、搾油工場からの廃水による河川の富栄養化
熱帯の土壌は痩せているため、アブラヤシ農園への継続的な農薬・肥料の散布が必要です。その農薬や肥料が、河川などに流出して水質汚染などを引き起こしています。
また、パーム油の搾油工場から排出される有機物による河川の富栄養化も問題となっています。[*3, *4]

パーム油生産企業と住民の間で土地をめぐる紛争が発生
アブラヤシ農園の開発に際し、開発権を得た企業と地域住民・先住民との間で土地の権利をめぐる紛争も多発しています。
これらの地域には、所有権ははっきりしていないものの、地域住民が生活の糧とし、先住民が暮らしている森林などがあります。
これらの土地を住民の同意を得ずに開発してしまい、住む場所や生活の糧となっていた森を奪ってしまう問題が報告されています。[*3, *4]

労働者・子どもの労働問題
アブラヤシ農園では、児童労働や移民に対する強制労働、劣悪な労働環境なども大きな問題となっています。
農園を経営する企業に雇われて働く人々の中には、収穫量のノルマが厳しいことなどから、収入を維持するために子どもたちも一緒に働かせることがあります。
また、マレーシアの農園では、移民の違法労働者が多く、立場が弱いことから厳しい労働環境の下で働かされている人も少なくありません。
企業が出稼ぎ労働者のパスポートを取り上げるといったケースも報告されており、辞めることもできず強制的に働かされていることさえあるのです。[*1, *4]

多くの問題を抱えるパーム油の生産ですが、パーム油ほど生産性の高い植物油は現状ありません(図8)。

そのため、菜種油や大豆油、ひまわり油など、ほかの植物油で代替しようとするとより広い土地が必要となり、さらなる森林破壊が生じる恐れがあります。[*1]

図8:1トンの油を生産するのに必要な栽培面積の違い
*出典:世界自然保護基金(WWF)「パーム油 私たちの暮らしと熱帯林の破壊をつなぐもの」(2019)
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/2484.html

認証パーム油による持続可能なパーム油生産・調達の取り組み

これらの問題を解決するため、2004年に世界自然保護基金(WWF)を含む7つの関係団体が中心となって「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」を設立しました。
RSPOでは、自然資源・生物多様性の保全や従業員・地域社会への責任ある対応などを規定。基準に適合している農園だけが取得できるRSPO認証を制定しています。[*4]
RSPOの設立を受け、大企業が運営する農園や搾油工場では、RSPO認証取得の取り組みが広がっています。

しかし、世界のパーム油の約40%を生産する約300万人の小規模な農家においては、アブラヤシの効率的な栽培・収穫方法、財政管理、安全対策などの根本的な知識不足から認証取得は困難でした。[*7]

そこで、WWFは、インドネシアにおける50の小規模農家に対して、

  • 持続可能かつ生産性の高いパーム油生産をトレーニング
  • 小規模農家による組合の設立と資金運用の確立
  • 他の小規模農家にも普及するよう、地方政府の農業指導員に対する能力強化トレーニングを実施

などの具体的な取り組みを実施し、認証取得を支援しています。[*7]

パーム油の調達側でも、持続可能なパーム油産業への転換を目指して動き始めています。
例えば、欧米に本拠を置く世界的な大手日用品メーカーや大手食品メーカー、ファーストフードチェーン店などは、RSPO認証パーム油への切り替えを進めると宣言しています。[*8]

しかし、主要生産国であるインドネシアとマレーシアは、以下のような理由からRSPO認証が自国に即していないと認識するようになりました。

  • RSPO認証取得によってパーム油の価格が上昇することから価格競争力が低下する。
  • RSPO認証を取得できない小規模農家が輸出市場にアクセスできず、農村の持続可能性が失われて貧困を助長する恐れがある。
  • 中国やインド、アフリカなど、途上国にも需要があるパーム油を低価格で供給しなくてはならない。

そこで、インドネシアとマレーシアは、独自の認証制度「インドネシア持続可能なパーム油(ISPO)」と「マレーシア持続可能なパーム油(MSPO)をそれぞれ策定。すべての生産者が取り組む国の強制規格としました。
とは言え、ISPOとMSPOは、基準が曖昧で機能していない、泥炭地への植林が許されているなどの理由から国際市場での承認は進んでいません。[*9]

しかし、先進国の視点でむやみにISPO・MSPOを批判することは建設的ではありません。
現状、経済力のある先進国ではRSPO認証油の使用を増やしつつ、途上国向けのISPO・MSPO認証油も許容していくことが大切です。段階を踏みつつ、先進国・途上国ともにより良いパーム油の使用へ方向転換を進めていくことが重要でしょう。

日本国内の現状と私たちができること

一方、日本国内では、スーパーなどでも、シャンプーや石けん、洗剤など、認証パーム油の使用を示すRSPOマークがついた商品を見かけることが増えてきています(図9)。

図9:RSPOマーク(右)とRSPOマークがついた商品(左)
*出典:世界自然保護基金(WWF)「パーム油 私たちの暮らしと熱帯林の破壊をつなぐもの」(2019)
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/2484.html

しかし、日本国内におけるRSPO認証油は、2017年の報告では1.7%程度しか使用されておらず、非常に小さい割合に留まっています。[*10]
近年、RSPOに参加する国内企業が増えているものの、その企業数は欧米に比べると低水準です(図10)。

図10:国別のRSPO加盟数の推移
*出典:世界自然保護基金(WWF)「RSPOについて」(2020)
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3520.html

また、RSPOマークをつけている商品でも、その流通方式の違いから図11の4種類、マークについては以下の3種類に分けられます(図11)。[*11]

  1. 「認証」…流通方式が「IP」「SG」の商品で、認証油のみを使用
  2. 「ミックス」…流通方式が「MB」の商品で、流通過程で認証油と非認証油が混ざる
  3. 「クレジット」…流通方式が「B&C」の商品で、認証油ではないが、認証パーム油の支援に繋がる

図11:RSPOマークの種類
*出典:世界自然保護基金(WWF)「RSPOについて」(2020)
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3520.html

日本の商品については、「ミックス」と「クレジット」のマークがついたものがほとんどであり、認証パーム油のみから作られた「認証」マークのものは少ないようです。[*11, *12]
認証パーム油に対する現在の状況は、企業の取り組みが遅れていることもありますが、消費者の認知度の低さも原因の一つです。

消費者は、パーム油が日常生活に欠かせないものであり、必要不可欠であるのは今後も変わらないことを認識しなくてはなりません。
そして、持続可能な形でパーム油を利用していくため、私たちは認証パーム油を意識的に使っていくことが重要です。

 

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参照・引用を見る
  1. 世界自然保護基金(WWF)「パーム油 私たちの暮らしと熱帯林の破壊をつなぐもの」(2019)
    https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/2484.html
  2. 農林水産省「すぐにわかるトランス脂肪酸」(2020)
    https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_wakaru/
  3. 世界自然保護基金(WWF)「持続可能なパーム油の調達とRSPO」(2017)
    https://www.wwf.or.jp/activities/data/20180516_forest01.pdf p8
  4. 特定非営利活動法人 ボルネオ保全トラスト・ジャパン(BCTJ)「2015パーム油白書」(2015)
    http://www.bctj.jp/2017/wp-content/uploads/2020/06/palmwp2015.pdf p6-7, p8
  5. 世界自然保護基金(WWF)「インドネシアの煙害(ヘイズ)問題、乾季に多発する泥炭火災について」(2018)
    https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3801.html
  6. 環境省「2015年度(平成27年度)の温室効果ガス排出量(確報値)について」(2015)
    http://www.env.go.jp/press/103922.html
  7. 世界自然保護基金(WWF)「パーム油の小規模農家と守るボルネオの森」(2019)
    https://www.wwf.or.jp/activities/activity/3989.html
  8. 環境省「環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書 第4節 グリーン経済を支える自然資本」(2014)
    https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h26/html/hj14010304.html
  9. 日本貿易振興機構(JETRO)「パーム油持続可能性認証にみる「環境と開発」 南北問題の再燃:途上国の挑戦」(2018)
    https://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Reports/Ajiken/118.html
  10. 国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)「パーム油持続可能性認証に関する途上国の視点と調達コードの議論」(2019)
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/reeps/12/1/12_70/_pdf p74
  11. 特定非営利活動法人 ボルネオ保全トラスト・ジャパン(BCTJ)「2018パーム油白書」(2018)
    http://www.bctj.jp/2017/wp-content/uploads/2020/06/palmwp2018.pdf p12
  12. 世界自然保護基金(WWF)「小売・食品業界に広がるパーム油の持続可能な調達」(2018)
    https://www.wwf.or.jp/activities/activity/12.html

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